THE YELLOW MONKEY が目指した「ジギー・スターダスト」のようなコンセプトアルバム  イエモンらしさが詰まった名盤「jaguar hard pain」

“イエモン” ブレイクの直前にリリースされた「jaguar hard pain」

90年代の日本のロックシーンを象徴するバンドの代表格といえば、THE YELLOW MONKEYが挙げられるだろう。

彼らは1995年1月にリリースされた5枚目のシングル「Love Communication」が初めてオリコンシングルチャートTOP30入りを果たすと、その後リリースした4thアルバム『smile』はオリコンアルバムチャート初登場4位を記録。そして「追憶のマーメイド」「太陽が燃えている」「JAM」… と次々とシングルヒットを連発、シーンの頂点へと駆け上がっていき、知らないものはいない超人気バンドへと成長した。

そんな彼らだが、個人的には、彼らの音楽的魅力や才能が一番あふれているのは、ブレイクする直前にリリースされたサードアルバム『jaguar hard pain』ではないかと思っている。

「ジギー・スターダスト」のようなコンセプトアルバムを作りたい

このアルバムがリリースされたのは1994年の3月。デビュー以降思うようなセールスに結びついていなかった状態で、スタッフから売れ線狙いの楽曲を要求される中、吉井和哉がデヴィット・ボウイの『ジギー・スターダスト』のようなアルバムを作りたい―― という思いで作られたコンセプトアルバムだという。ひとつの物語に沿ってこのアルバムは展開されていくのだが、そのテーマはCDに添付されたセルフライナーノーツに次の通り記してある。

__ジャガーとは1944年、異国の戦地にて戦死した若者の名前です。彼はとても野性的な瞳をしていて、性格も狂暴で女にだらしが無く、わがままでナルシストで楽天家で、それでいて泣き虫でおセンチで少しだけ純粋で……と、正に僕たちの考える“人間の本来の姿”の象徴でもあるのです。

そしてこのジャガーとは、あなたのまわりに確実に存在する“肉体は死んでも魂だけは生きている”人達の象徴でもあるのです。このお話はジャガーが死ぬ直前に祖国に残してきた、恋人“マリー”の魂を見てしまったために肉体が滅んだ事に気付かず、魂だけが時を越え50年後の現在へタイムスリップしてしまい、時代のズレを感じながら恋人マリーを探すというストーリーで、永遠に死なない人間の魂がテーマです。 ――『jaguar hard pain』THE YELLOW MONKEY__

このテーマをなぞるように、吉井和哉が紡ぐ、淫靡で猥雑でシニカルで、それでいて美しく衝撃的な言葉が各曲に散りばめられていく。

「SECOND CRY」
お前に魂を売ってやる
お前に全てを売ってやる
お前に薬を射ってやる
堕落を鎮めるROCK AND ROLL!

「A HENな飴玉」
A HENな飴玉をなめて
火照った身体を銃でぶち抜こう
汗だく 絶倫 バイブレーション
からみつけ子宮のマウスピース

「RED LIGHT」
君の大切な VAGINAが泣いてる

「遥かな世界」
石で性器をつぶしても
君を好きでいられるから
静かに時をまつのさ見つめるのさ

ーー このような刺激的な歌詞が重厚でテクニカルなサウンドに乗せられていき、ダークな世界観が形成されていく。当然、暗く静かな曲が多くなるのが道理だが、そう単純に終わらないのがこのアルバムの魅力でもある。

全曲を通じて感じる吉井和哉の歌謡曲的センス

シングルカットされた「悲しきASIAN BOY」、デヴィッド・ボウイをイメージさせる「ROCK STAR」、軽快なロックナンバーの「赤裸々GO!GO!GO!」、三拍子のシャンソンのような「街の灯」など、これらのナンバーは、一見コンセプトとは外れてしまい違和感を感じてしまいそうだ。しかし逆にグラムロック特有のきらびやかさを持ったこれらの曲たちが、主人公ジャガーの世俗的な人間らしさを表現しているのではないかと思う。

そして全曲を通じて感じるのは、吉井和哉の持つ歌謡曲的なセンスである。グロテスクな歌詞や、グラムロックテイストの強いマニアックなサウンドで構成された、聴く者を選びそうな曲でありながら、キャッチーでどこか懐かしさを感じるメロディーは、このアルバムを尖った芸術作品ではなく、優れた娯楽作品に仕上げているように感じる。

セールス的にはけっして成功とは言えなかった本作の後、バンドはよりヒットを意識した曲づくりにシフトしていく。その結果が万人が知るその後の活躍である。吉井和哉が自らが持つ才能を「大衆に受ける」という方向に全振りしたのならば、彼らが売れるバンドになったのも、ある意味必然であったといえよう。

ちょうどバンドの端境期にあったこの『jaguar hard pain』というアルバムは、彼らが本来好きで演りたかった音楽と、アーティストとして「売れる」ための音楽とがクロスオーバーした、もっともTHE YELLOW MONKEYらしさが詰まったアルバムではないだろうか。

カタリベ: タナカマサノリ

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