シカの「おじぎ」は観光客数増減に比例? 奈良女子大博士後期課程2年上原さんら研究

シカせんべいを見せておじぎ行動を確認する上原さん=18日、奈良公園

 奈良公園の「奈良の鹿」が人に行う「おじぎ行動」の回数は、観光客などの人数の増減に比例すると、奈良女子大学の遊佐陽一教授(動物生態学専門)と同大人間文化総合科学研究科・博士後期課程2年の上原春香さんらが、調査の結果をまとめた。コロナ禍で観光客が減ったときには、シカがおじきをする回数が減ったという。研究成果は17日(日本時間)、米国科学誌に掲載された。

 奈良公園とその周辺に生息する「奈良の鹿」は、国の天然記念物に指定されている野生のニホンジカ。観光客がシカせんべいを手にすると、食べようとおじぎをすることで知られている。コロナ禍により観光客が減少した奈良公園で、シカのおじぎ行動の変化を調べようと、北海道大学の立沢史郎特任助教のアドバイスも得て、上原さんが中心に取り組んだ。

 調査地点は、2015年から同様の調査を行い、シカせんべいが販売されている奈良公園内の3カ所。コロナ禍の20年6月から21年6月まで、毎月1回実施。実施日の午後に3回、各回とも約20分行った。目視で出現した頭数を数え、シカせんべいを見せている間、1頭のおじぎの回数を調べた。

 コロナ禍前の15〜19年の調査では、観光客の増加とともに調査地に出現するシカの頭数も増加。今回、コロナ禍の20、21年の調査では、観光客の激減に合わせるように大幅に減少した。1回の調査で、19年は平均167頭が出現したが、翌20年は平均65頭にまで急減していた。

 おじぎ行動も、コロナ禍前では1頭あたり平均10回だったのがコロナ禍では6回に減少。コロナ禍でも月別に見ると、観光客のいない7月は、おじぎ行動が平均2回と激減。観光客の減少でエサがもらえないことが、出現やおじぎの回数の減少につながったと考えられるという。

 おじぎ行動に関して正式な記録がなく、いつごろ始まったかは不明だが、遊佐教授は「奈良公園だけで見られ、シカが人に依存するという関わり合いの中でできた特殊な行動。人との関りがなくなると、消滅する可能性がある」と解説。上原さんは「シカがおじぎ行動の方法をどのように学ぶのか、伝播を明らかにしたい」と話した。

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