火山活動が起きているかも? 86光年離れた地球サイズの太陽系外惑星を発見

モントリオール大学太陽系外惑星研究所(iREx)の大学院生Merrin Petersonさんを筆頭とする研究チームは、木星の衛星イオのように活発な火山活動が起きている可能性がある太陽系外惑星を発見したとする研究成果を発表しました。

■サイズは地球とほぼ同じ 表面が火山に覆われている可能性

【▲ 火山活動が起きている可能性がある太陽系外惑星「LP 791-18 d」の想像図。右側に描かれている小さな青い天体は既知の惑星「LP 791-18 c」(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/Chris Smith (KRBwyle))】

研究チームが報告したのは「コップ座」の方向約86光年先の赤色矮星「LP 791-18」を公転している系外惑星で、「LP 791-18 d」(以下「惑星d」)と呼ばれています。この惑星系ではこれまでにも2つの系外惑星「LP 791-18 b」と「LP 791-18 c」(以下「惑星b」と「惑星c」)が見つかっており、今回は3つ目の惑星が発見されたことになります。

各惑星の半径と公転周期は以下の通りです。今回見つかった惑星dは既知の2惑星の間に位置しており、以下の情報は「主星(中心星)からの距離が短い順」に並べてあります。

●LP 791-18 b(惑星b)
半径:地球の約1.12倍
公転周期:約0.95日

●LP 791-18 d(惑星d)
半径:地球の約1.03倍
公転周期:約2.75日

●LP 791-18 c(惑星c)
半径:地球の約2.5倍
公転周期:約4.99日

【▲ LP 791-18惑星系で見つかった3つの惑星の公転軌道を示したイメージ図(Credit: 東京大学)】

研究チームが各惑星の公転運動を調べたところ、新発見の惑星dと既知の惑星cは非常に接近する時があると判明しました。モントリオール大学によれば最接近時の惑星cとdの距離はわずか150万kmとされていますが、これは地球と火星が大接近する時の距離(約5700万km)の38分の1しかありません。接近を繰り返す2つの惑星は重力を介して互いに影響を及ぼし合うため、惑星dの公転軌道は真円ではなく、わずかにゆがんだ楕円形になっているとみられています。

惑星dは主星であるLP 791-18のすぐ近くを公転しているため、主星の重力がもたらす潮汐力の影響を強く受けることになります。潮汐力を受けた天体はわずかに変形しますが、楕円形の軌道を公転する惑星dは変形の度合いが周期的に変化するため、内部で摩擦による熱が生じます。このような現象は「潮汐加熱」と呼ばれています。

潮汐加熱は時に大量の熱を生じさせて火山活動を引き起こすことがあり、木星の衛星イオでは潮汐加熱を熱源とした非常に活発な火山活動が知られています。研究チームが計算したところ、惑星dでも潮汐加熱による活発な火山活動が起きている可能性があることがわかったといいます。

【▲ 参考:2022年12月15日にアメリカ航空宇宙局(NASA)の木星探査機ジュノーが撮影した木星の衛星イオ(Credit: NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS)】

なお、惑星dは主星の潮汐力によって自転と公転の周期が同期している(潮汐固定、潮汐ロック)とみられています。公転軌道はLP 791-18のハビタブルゾーン内にあるものの内側の境界に近く、表面の平衡温度は地球よりも高い300~400ケルビン(約27~127℃)と推定されています。仮に火山活動が起きているとすれば大気が存在している可能性があり、主星に照らされることのない夜側では水蒸気が凝結して液体の水になっていることも考えられます。

また、LP 791-18を公転する各惑星は恒星の手前を横切る「トランジット」の観測で発見されたため、公転周期と半径は知られていたものの質量はわかっていませんでした。研究チームは今回、重力を介して影響を及ぼし合っている惑星cとdのトランジットを合計67回観測し、トランジットが起きるタイミングに生じたわずかなズレを計測することで、2つの惑星の質量を算出することにも成功しました。

研究チームによって算出された質量は、新発見の惑星dが地球の約0.9倍、惑星cが地球の約7.1倍とされています。半径と質量から算出される惑星dの平均密度は地球に似た岩石質の組成と一致しており、また惑星cはおそらく海王星に似た組成を持っているとみられています。

火山活動が起きている可能性がある3つ目の惑星発見は大きな意味を持ちます。LP 791-18では惑星cについて「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡による大気の観測がすでに予定されていますが、同じ惑星系で見つかった惑星dもまたウェッブ宇宙望遠鏡による重要な観測対象になり得ると研究チームは考えています。

惑星dには、あるとすれば地球、金星、あるいは土星の衛星タイタンのような大気が存在すると予想されています。主星のLP 791-18は半径が太陽の約0.17倍(木星の約1.7倍)と小さく、その周囲を公転する惑星の大気は比較的薄くても検出しやすい条件にあることから、ウェッブ宇宙望遠鏡なら惑星dの大気を検出できるかもしれないと期待されています。7つの地球型惑星が見つかっている赤色矮星「TRAPPIST-1」の惑星系とともに、LP 791-18の惑星系は地球型惑星の形成と進化に関する重要な知見をもたらしてくれるかもしれません。

カリフォルニア工科大学NASA太陽系外惑星科学研究所の研究員であり、今回の研究に参加したJessie Christiansenさんは「地質活動や火山活動が生命にとって必要かどうかは、宇宙生物学における大きな問いの1つです。これらのプロセスは大気を供給するだけでなく、生命に不可欠だと考えられている炭素のようなものも含めて、惑星内部に沈み込んだ物質が地殻に閉じ込められたままにならないようにしている可能性があります」とコメントしています。

■系外惑星の観測で主に利用されているトランジット法&視線速度法

系外惑星の観測では「トランジット法」と「視線速度法(ドップラーシフト法)」という2つの手法が主に用いられています。

「トランジット法」とは、系外惑星が主星(恒星)の手前を横切る「トランジット(transit)」を起こした際に生じる主星の明るさのわずかな変化をもとに、系外惑星を間接的に検出する手法です。繰り返し起きるトランジットを観測することで、その周期から系外惑星の公転周期を知ることができます。また、トランジット時の主星の光度曲線(時間の経過にあわせて変化する天体の光度を示した曲線)をもとに、系外惑星の直径や大気の有無といった情報を得ることも可能です。

今回の研究ではトランジット法を利用するアメリカ航空宇宙局(NASA)の系外惑星探査衛星「TESS」や、2020年1月にミッションを終えた「スピッツァー」宇宙望遠鏡が運用終了直前に取得した観測データに加えて、東京大学と自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターが開発した多色同時撮像カメラ「MuSCAT」「MuSCAT2」など地上からの観測で得られたデータも利用して分析が行われました。

【▲ 系外惑星のトランジットによって恒星の明るさが変化する様子を示した動画】
(Credit: ESO/L. Calçada)

もう一つの「視線速度法(ドップラーシフト法)」とは、系外惑星の公転にともなって円を描くようにわずかに揺さぶられる主星の動きをもとに、系外惑星を間接的に検出する手法です。

惑星の公転にともなって主星が揺れ動くと、光の色は主星が地球に近付くように動く時は青っぽく、遠ざかるように動く時は赤っぽくといったように、周期的に変化します。こうした主星の色の変化は、天体のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を得る分光観測を行うことで検出されています。視線速度法の観測データからは系外惑星の公転周期や最小質量を求めることができます。

【▲ 系外惑星の公転にともなって主星のスペクトルが変化する様子を示した動画】
(Credit: ESO/L. Calçada)

Source

  • Image Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/Chris Smith (KRBwyle), 東京大学
  • NASA/JPL \- NASA’s Spitzer, TESS Find Potentially Volcano-Covered Earth-Size World
  • モントリオール大学 \- Found: a likely volcano-covered terrestrial world outside the Solar System
  • 東京大学 \- 火山活動の可能性がある地球サイズの惑星を発見 ――潮汐力により加熱された系外惑星LP 791-18d――
  • Peterson et al. \- A temperate Earth-sized planet with tidal heating transiting an M6 star (Nature)

文/sorae編集部

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