ロックシンガー坂上忍の軌跡!ウィルコ・ジョンソンやデヴィッド・ボウイへの憧憬  6月1日は坂上忍の誕生日

坂上忍がロックシンガーとしてデビューした1984年

現在、バラエティ番組を中心に活躍中の坂上忍だが、周知の通り、キャリアのスタートを子役とし、その経歴は長い。その中で、ミュージシャンとしての活動を前面に打ち出している時代もあった。子役時代にも数枚のレコードをリリースしている坂上だが、ロックシンガーとして本格的なレコードデビューを飾ったのは1984年。坂上が17歳の時だった。

そう。1984年といえば、チェッカーズブームが加熱し、吉川晃司がデビューした年だ。この年に歌って踊るという、それまでの男性アイドルが持つパブリックイメージは一転する。

この意識の変化には、1982年にデビューした本田恭章、1983年の尾崎豊、そして1984年の吉川晃司という流れが大きく関わっていると思う。尾崎はミュージシャンだろう、という声もあるかもしれないが、彼の精悍なルックスは、その後のヒットに大きく寄与していると思う。例えば、本田恭章がアイドル8、ミュージシャン2という比率のイメージでそのキャリアをスタートさせたなら、尾崎はアイドル2、ミュージシャン8といった感じで人気が高まっていったと思う。

「さよならマンディ」はロンドンレコーディング

閑話休題。この流れから、アイドル的な人気の高まりも見せ、元々ロックフリークだったという坂上のデビューも違和感がないものだった。デビュー曲「J.D.BOY」は作曲、編曲が後藤次利。時流に乗せたようなダンサブルな楽曲だった。

そして特筆すべきは、この次にリリースされたシングル「さよならマンディ」と同時期にリリースされたセカンドアルバム『CHECK IN』だ。なんとロンドン・レコーディングが敢行され、英国ギタリスト、ウィルコ・ジョンソンが参加していたのだ。

ウィルコ・ジョンソンといえば、昨年惜しくも逝去。エッジの効いたギターのカッティングが特徴的で、パンクのゴッド・ファーザーと言われたギタリストだ。1975年にDr.フィールグッドのギタリストとしてデビュー。3作目に当たるアルバム『Stupidity』(邦題:殺人病棟)で英国チャートナンバーワンに輝く。

日本においてもウィルコ・ジョンソン・バンドを従え90年代以降、数多くの来日を重ねている親日家でもある。そんなレジェンドであるが、坂上がウィルコとタッグを組んだ84年当時、日本でウィルコの知名度がそれほどあった訳でもない。だから、今もこの経緯については、ロックフリークの間で語り草になっている。

「さよならマンディ」はそんなウィルコの専売特許であるエッジの効いたギターカッティングの妙味を感じ取ることができるが、いかんせん、前作に続くダンスミュージック的な色合いを前面に打ち出している作品だ。その持ち味が存分に反映されているとは言い難い。

つまりウィルコの参加は坂上にとって、精神的な支柱として存在していたのではないだろうか。

「中卒東大一直線 もう高校はいらない!」ではTHE MODSがゲスト出演

同年坂上は『地球に落ちてしまった忍』というエッセイ集を発刊している。これはもう、デヴィッド・ボウイの主演映画『地球に落ちてきた男』のオマージュであることが一目瞭然だ。さらに翌年の1985年にはビリー・アイドルのヒット曲「REBEL YELL」を「MIDNIGHT DANCE」というタイトルでカバー。このあたりにも坂上のロックに対する憧憬が明白になっている。

さらに1984年といえば、坂上はTBS系のドラマ『中卒東大一直線 もう高校はいらない!』の主演に抜擢された時期とも重なる。学歴社会に疑問を投げかけ、十代特有の焦燥を見事に描いた作品だ。

このドラマの主題歌は、今年デビュー42周年を迎え日本のロッククロニクルを語る上に不可欠な存在であるTHE MODSの「バラッドをお前に」だった。ドラマにはTHE MODSの面々も本人役として登場。ここでリーダーの森山達也と親交を深めた坂上は、翌1985年にリリースされたシングル「18's Shadow」(B面「I'm Not Down」)で両面森山から楽曲提供を受けている。

「18's Shadow」はソングライターとしての森山の特性でもあるマイナーコードを効果的に活かした名曲で、時代に即した正統派のロッカバラードといった印象だ。ここでの坂上は、これまでの激情のままにシャウトしていたようなスタイルとは違い、情感を抑え気味にティーンエイジ・ドリームが体現されたリリックの世界観を自分色に染め上げ、ロックシンガーとしてひとつの到達点を見せる。

坂上のロックシンガーとしての活動期間は1984年から1986年と短期間だが、飽くなき挑戦を続け、時流に即した音との対峙を続けた濃密な時間だったと思う。また、このロックシンガーとしての軌跡を今改めて振り返ることは、当時の音楽シーンの片鱗を垣間見られるようで非常に興味深い。

カタリベ: 本田隆

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