自家製麺のラザニアとナチュラルワイン「pile」~ 生産者との出会いで生まれたメニューを楽しむ、DENIM HOSTEL float内のレストラン

瀬戸内海を眺めながら、自然の豊かさや人のいとなみに思いを馳せ、ゆっくりと食事を楽しむ。

そんな時間を過ごせるレストランが、倉敷市児島にできました。

自家製麺のラザニアとナチュラルワイン「pile」パイル)です。

提供している食事や飲み物は、人と人との出会いから生まれたものばかり。

おすすめのメニューとともに、pileオープンに向けての思いやこだわりを取材しました。

pileとは

pileは、自家製麺で作られたラザニアナチュラルワインをメインに楽しめるレストランです。

倉敷市児島にあるDENIM HOSTEL float(以下、float)内にオープンしました。

もともとはカフェを運営していましたが、レストランとして新たにスタートすることに。

瀬戸内海を眺めながら、ゆっくりとした時間を過ごせます。

floatに宿泊する人に限らず、誰でも楽しめるレストランです。

“生産者の顔が見える”こだわりのメニューを紹介

pileのメニュー すべて税込価格

pileのメニューは、岡山県内で思いを持って活動する生産者などが手がけた食材を使用しています。

食事が生まれるまでのストーリーも楽しめる、こだわりのメニューの紹介です。

メインメニュー ラザニア

メインメニューのラザニアは、2種類楽しめます。

写真提供:pile

ひとつはビーフのラザニア(税込1,320円)。

使用しているのは、勝田郡奈義町(かつたぐん なぎちょう)産の「豊福牛」(とよふくぎゅう)です。

“奈義ビーフ”は岡山県の特産品として有名ですが、生産者である豊福さんは、奈義ビーフと同じ敷地内で豊福牛も育てているとのこと。

奈義ビーフは餌や飼育方法が決められている一方、豊福牛は地域の藁(わら)を発酵させたものを餌にしたり、適度に運動をさせたりするなど独自の方法で育てられています。

pileのラザニアには熟成させた豊福牛がゴロゴロと入っていて、赤身のうまみを存分に味わえます。

小麦のこだわりは、後半のインタビューにて。

写真提供:pile

もうひとつは、シュリンプのラザニア(税込1,320円)。

瀬戸内海で獲れるガラエビを使用しています。

ガラエビといえば、岡山県では郷土料理の“バラ寿司”などに使われてきた食材。

地元に住む人にとって馴染みのあるガラエビは、倉敷市茶屋町(ちゃやまち)にある魚春(うおはる)から仕入れています。

瀬戸内海を望むpileで、ガラエビの香りや味わいを楽しむのは格別です。

おすすめは、ハーフ&ハーフで両方の味を楽しむこと(税込1,540円)。

筆者はハーフ&ハーフを注文しましたが、すべての素材の良さがぎゅっと詰まっていて贅沢(ぜいたく)な気持ちになりました。

山と海の間に位置するpileで楽しむには、ぴったりの1品です。

ナチュラルワインをはじめとするドリンク

ラザニアと一緒に楽しんでほしいのが、ナチュラルワインです(税込800円~)。

ラザニアに合うイタリア産のワインを中心に、そのときおすすめのワインをスタッフが用意しています。

倉敷市船穂町産ワイン「GRAPE SHIP」

倉敷のワインを楽しめるのも、pileならでは。

GRAPE SHIP(グレープシップ)は、倉敷市船穂町(ふなおちょう)で作られたワインです。

代表の松井一智(まつい かずのり)さんは倉敷市出身で、以前はシェフをしていました。

シェフ時代に留学していたフランスでナチュラルワインに感銘を受け、帰国後、地元で醸造家になるのを目指したとのこと。

pileではイタリア産ワインほか、倉敷で思いを持って作られたワインも味わえます。

「ランチの時間からワインを楽しみながら、pileでゆっくりとした時間を過ごしてほしい」とスタッフは話していました。

訪れた際には、スタッフへおすすめのワインを聞いてみては。

岩城島レモネード(税込550円) 写真提供:pile

ノンアルコールのドリンクには、岩城島(いわぎしま)産レモネード自家製クラフトコーラなどがあります。

どのドリンクも、一つひとつていねいに作られたものばかりです。

サイドメニューやデザートも、素材の味を

サイドメニューやデザートも、素材の味をそのまま堪能できるこだわりの品です。

ぜひラザニアやワインと合わせて楽しんでください。

サイドメニュー「季節のポタージュ」(税込300円)。取材時はアスパラガスのポタージュでした。
サイドメニュー「パイルチップス 瀬戸内レモン」(税込300円)
デザート「カッサータ」(税込600円) 写真提供:pile

メニューはどれも、どこで・誰が作っているのかがわかる食材で構成されています。

生産者の顔が見えることにこだわりました」と語るのは、株式会社ITONAMI 飲食部門で働く、酒井楓さかい かえで)さんです。

酒井さんに、pileオープンの経緯や各メニューに込めたこだわりなどを聞きました。

pileのシェフ 酒井さんへインタビュー

株式会社ITONAMI 飲食部門で働く、pileのシェフでもある酒井楓さんに、pileオープンの経緯や各メニューへの思いを聞きました。

今まで以上に、地元の食材にフォーカスしたかった

──以前運営していたカフェにも多くのファンがいらっしゃったなか、なぜレストランをオープンしたのですか?

酒井(敬称略)──

地元の食材にもっとフォーカスしたものをお客様に楽しんでほしいな」「海を見ながら今よりもゆっくりと過ごしてもらいたいな」などの思いがあり、形を変えてレストランとしてオープンすることにしました。

私がITONAMIの社員になったのが、約1年前(2022年頃)。

専門学校やその後の就職先で食にかかわっていたため、飲食部門を任せていただけることになりました。

ただ初めはカフェをレストランにする構想はなく、ディナーの提供から手がけることに。

ディナーでメインとして出しているのが、ラザニアなんです。

お客様からは好評で、私自身floatに合うメニューだとも思っていたので、ランチからラザニアを楽しめないかと検討を始めました。

カフェ営業時に提供していたカレーも人気だったのですが、やはり地元である瀬戸内の食材をもっと生かせるようなメニューにしたくて

カフェをレストランに変えて、メイン料理にラザニアを採用することにしました。

──ラザニアをメインに提供しているレストランは珍しいですよね。

酒井──

とくに岡山では珍しいと思います。

実は、前職のレストランでも人気だったのがラザニアでした。

専門学生時代にも作る機会があり、不思議と作り続けているのがラザニアで……。

ディナーのメイン料理を考えていたとき、floatでもラザニアを作ってみたいと提案しました。

使う食材は、スタッフが出会った生産者が手がけたもの

──ラザニアは、酒井さんの得意料理のひとつだったのですね。

酒井──

ラザニアを提案したのは、もうひとつ理由があります。

それは一文字うどんさんの小麦を使って、メニューを考えたかったからです。

一文字うどんさんは、瀬戸内市長船町(おさふねちょう)で小麦を自家栽培し、うどん屋も営んでいるお店。

pileでは、一文字うどんさんの「ふくほのか」という品種を使わせていただいています。

一文字うどんさんとの出会いは、ITONAMI代表でもあるデニム兄弟の二人が、2018年におこなっていたキャンピングカーでの旅の途中でした。

左から、デニム兄弟の兄・山脇耀平(やまわき ようへい)さん、弟・島田舜介(しまだ しゅんすけ)さん

つまり、floatができる前から交流があったんです。

いつか、一文字うどんさんの小麦を使いたい」と島田から聞いていたので、ラザニアなら生かせそうだと思いました。

──人と人とのつながりから生まれるメニュー、素敵ですね。

酒井──

一文字うどんさんだけではなくて。

ビーフのラザニアで使用している「豊福牛」や、現在提供している季節のポタージュで使用している「アスパラガス」。

デザートで使用しているアイスクリーム「KIKI NATURAL ICECREAM」(キキ ナチュラル アイスクリーム)やナチュラルワインに至るまで。

pileで使用している食材のほとんどは、デニム兄弟がキャンピングカーの旅の途中で出会った人たちや、スタッフと付き合いがあった生産者さんや販売元のかたがたが手がけています。

私たちが今まで出会ってきた、思いを持った生産者さんなどが育てた食材を調理し、新たに表現しようと思いながら提供しているんです。

コンセプトは「堆積」

pileメニューの表紙には、店名とロゴが

──「pile」と名づけた理由を教えてください。

酒井──

pileは英語で「堆積」「積み重ねる」などの意味があります。

生産者さんや販売元のみなさんとお話しすると、ここ瀬戸内で積み重ねてきた時間や思い、技術が脈々と受け継がれているのを感じました。

そして受け継がれてきた食材を調理することで、私たちも時間や思いを重ねていく

お客様に生産者さんについてやこの土地のことを伝え、さらに思いを重ねていきたい

そんな思いで「pile」と名づけました。

ラザニアも、断面を見るとよくわかるのですが積み重なってできています。

一つひとつの層が、pileのすぐ裏にある王子が岳の地層とも重ね合わせられて。

いろいろな意味で、「pile」はこの地のレストランらしい名前だなと思います。

生産者の顔が見えると、お客様との会話が生まれる

──pileのオープンにあたり、印象に残っていることを教えてください。

酒井──

お客様からの反応が、カフェをやっていたときよりも多く返ってきたことです。

「どこの食材使っているの?」や「どうやって作っているの?」など、質問をいただく機会が増えました。

カフェからレストランにリニューアルしたとき、正直少し不安な気持ちもあったので……。

いい反応をいただけてうれしいです。

普段の生活では、生産者がわかることってあまりないんですよ。

奈義ビーフのように、ブランドごとに作り方が決まっている場合は複数の生産者さんが手がけた食材をまとめて出荷しているので。

きっとお客様にとっても新鮮で、発見が多いのかなと思っています。

私自身、生産者さんのことを話せるのがうれしくて。

そして生産者の顔が見える食材を使うと、作っていても楽しいんです。

──オープンにあたり、大変だったことはありますか?

酒井──

作るのに一番苦労したのは、サイドメニューのパイルチップスです。

パイルチップスは、小麦と水だけで作っています。

最初は卵を入れるか入れないかを悩みましたし、小麦と水の配合や生地の薄さで膨らみ方がまるで違ったので、何度も試作しました。

最終的には薄くて軽い、かつほどよく膨らむ理想のチップスができたと思います。

ちなみにパイルチップスの小麦も、ラザニアと同じ一文字うどんさんの「ふくほのか」を使用しています。

ワインのおつまみとしても、ラザニアのソースに付けて食べてもおすすめ。

何よりふくほのか本来の味がわかると思うので、ぜひ食べてみてほしいです。

1日のなかに「こういう時間があってよかった」と思えるように

──pileでは、お客さんにどのように楽しんでほしいですか?

酒井──

お客様は、pileに時間をかけて来てくださっています。

バスや車を使ったり、店の入口までの坂を上がったりしていただかないといけないので。

なので席に座った瞬間からは、瀬戸内海の景色と食事をゆっくりと楽しんでいただきたいなと思います。

1日のなかで「こういう時間があってよかった」と思ってもらえるようなひとときを、pileで過ごせたら。

気軽にランチに来ていただいてもいいし、floatに宿泊しながらでもいいし、楽しみ方はいろいろあると思います。

そしてリフレッシュする時間のなかで、瀬戸内の地で脈々と受け継がれてきた生産者さんの思い素材の味を感じていただけたらうれしいです。

おわりに

pileの席に着いたら、瀬戸内海を一望できる景色に思わず深呼吸したくなります。

穏やかな波紋を眺めていると、目の前にはさまざまな生産者の思いがぎゅっと詰まったラザニアが。

ナイフとフォークを使って食べるラザニアは、よりゆっくりとした時間を過ごすきっかけになるでしょう。

「どんな食材を使っているのか」、さらに気になったらスタッフに声をかけてみてください。

食を通して、瀬戸内ならではの会話が楽しめるのもpileの魅力だと思いました。

© 一般社団法人はれとこ