【LGBT法成立】「胸を切除したい」突然訴えたわが子 差別禁止法求め、当事者の親ら思い新た

 LGBTなど性的少数者への理解増進法が16日の参院本会議で可決、成立した。当事者への理解を広めるとしながら、むしろ多数者を気遣い、差別と排除を助長しかねない法律になり果てた。当事者の子どもを持つ県内の母親は、決意を新たにする。「理解を広げるためには差別禁止法こそ必要。当事者の命が懸かった問題なのだと言い続けていきたい」

 「自分は性同一性障害。これからは男として生きていく」

 今から十数年前、三輪美和子さん=仮名、60代=と夫は、わが子から突然、そう打ち明けられた。21年間、女の子として育ててきた。頭が真っ白になった。

 胸を切除したい-。続く言葉に、夫は思わず反対した。「五体満足の体にメスを入れるなんて何事だ」。普段は口数少ない子が強い口調で反論した。「こんな不本意な体で長生きしたって意味はない」

 三輪さんはハッとした。命懸けの訴えの裏にある、これまで直面してきたであろう塗炭の苦しみを垣間見た気がした。「味方にならなければ、自ら命を落としかねない。受け止めなければ、自分たちが見捨てられるとも思った」。葛藤しながらも、この子の手を絶対に離さないと固く誓った。

 「子どもを否定しなかったのは、自分の世代ではレアケースだったかもしれません」。三輪さんは明かす。いま、NPO法人「LGBTの家族と友人をつなぐ会」のメンバーとして、当事者や保護者からの相談に応じている。「最もカミングアウトしにくいのは親、家族」という事実がいまだ厳然としてあり、本当なら支えてほしい家族から拒否されてしまう子どもたちも少なくない。三輪さんは「性的少数者を対等な存在と見なさない社会がその一因にある」と感じている。

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