農作物栽培でCO2を積極的に使う「CO2施肥」がじわり広がる、トマト菜園などで収量アップに貢献

CO2を含む環境制御システムでトマト栽培を行う、「たねまき常総」のトマト農園(茨城県常総市)

気候変動対策でやっかいもののCO2を積極的に使うことで、農作物の収量を増やす農法が広がっている。CO2の濃度が上昇すると植物の光合成速度が速くなり、植物の生育が進むという特性を活かした農法で、農業先進国のオランダでは、以前から活発に行われている。カゴメは「カゴメ富士見工場」(長野県)で発生したCO2の一部を隣接するトマト菜園に送ることで生産量の増加をはかっている。茨城県常総市に官民連携で開発された「アグリサイエンスバレー常総」の日本最大級のミニトマト農園でもCO2を栽培に有効活用するなど、各地で広がりを見せる。エネルギーを多量に使う施設園芸では、CO2の排出削減と活用の両面でのイノベーションが求められている。(環境ライター 箕輪弥生)

オランダが先行するCO2や温度をコントロールするスマート農業

植物は二酸化炭素を取り込み、太陽の光と体内の水分を原料にして、酸素と糖などの有機物をつくる。いわゆる光合成である。私たちが食べている野菜や果物も、この光合成によって作られている。

現在、地球上のCO2濃度はここ200万年で最も高くなっているので、光合成も以前より進んでいる可能性があるが、この状況をコントロールできるのが、温室栽培などの施設園芸農業だ。

キャノングローバル戦略研究所によると、温室内のCO2濃度を340 ppmから2倍にすると、農作物の成長量が平均20%ほど上昇することが確かめられている。つまり、施設園芸農業での脱炭素は、CO2を有効活用することでその効果を最大限にできるというわけだ。

この農法は農業先進国のオランダなどでは以前から積極的に取り入れられている。オランダは土地が狭く、日照時間も少なく、土壌も岩塩が混じるなど農業を行うには悪条件が重なるが、農産物の輸出額は米国に次ぐ世界第2位と成果をあげている。

これは大学と企業が連携して農業技術を開発し、ICT技術を活用したスマート農業が普及していることが大きな要因となっている。

その中でも温度や湿度、光量、光合成に必要なCO2の量などをコンピューターで解析して、自動的に植物の光合成が最も効率よく進む環境にするスマート農業はすでに30年以上の歴史がある。

施設園芸農業の温室には、天然ガスを利用した大型発電設備を設置していることが多いが、発電した電気を施設内で利用し、発生した熱は温室を温めるために使い、発電の際に排出されたCO2もパイプで温室内に送りこむ。この仕組みは熱と電力の2つを活用する「コージェネレーション」に加えてCO2も利用しているため「トリジェネレーション」と呼ばれている。

トリジェネレーションにより、1日5トンのトマトを収穫する「たねまき常総」

栽培に必要な条件をセンサーが感知し、コンピューターで24時間環境を制御するシステムを導入

このトリジェネレーションを大規模なトマト菜園に取り入れたのが、2023年5月にオープンした「アグリサイエンスバレー常総」に国内最大級のトマト農場を作った、たねまき常総(茨城県常総市)だ。

ここでは、液化天然ガスを燃やして発電し、熱でお湯をつくり、夜間の暖房として利用、排出されたCO2はトマト栽培の光合成に使う。

オランダから輸入したハウスと環境制御技術を使い、温室内には気温、温度、湿度、CO2濃度など栽培に必要な条件をセンサーで感知して、ICT技術により生育に最適な環境を作り出す。これらの技術により通年の安定栽培を行い、年間約1000トンの出荷を見込む。

たねまき常総の前田亮斗社長は「日によって変動はあるが、1日最大約5トンと、予定していた収量を得られている」と話す。前田社長によると、「生育状況に合わせ、CO2の濃度を約400~800ppmの間で管理をしている」という。

同社は大規模な農場の稼働に伴い、180人の雇用も創出した。官民協働で農業の6次産業化を狙うアグリサイエンスバレー常総の主力事業を担っている。

工場から排出されるCO2をパイプラインでトマト菜園へ送る、カゴメ

カゴメ富士見工場からトマト菜園に送られるCO₂輸送パイプ

一方、工場から排出されるCO2を隣接するトマト菜園で使うCO2施肥を2020年から行っているのがカゴメだ。

「野菜生活100」などの飲料製品の生産や原材料の加工を行う富士見工場(長野県富士見町)から排出されるCO2を、パイプラインで隣接するトマトハウスに引き込み活用している。

「工場と菜園が隣接していることで可能となったビジネスモデル」とカゴメ経営企画室広報グループの堀江建一主任は説明する。ここではCO2施肥によりトマトの年間出荷量は約1万4500トン(22年度実績)にのぼる。

同工場では、屋根に設置した太陽光発電による電力供給と、野菜を絞る際に出る残渣や野菜の茎や葉を使ったバイオガスによる熱供給などエネルギー面でも環境負荷を減らす対策を進めている。

カゴメの例に見られるように、オランダでは工場や精油所から排出されるCO2を、積極的に施設園芸に活用している。たとえば、ロイヤル・ダッチ・シェルの製油所では、2005年から精製工程から出るCO2と熱を園芸農家の施設にパイプラインで供給している。

農業でのCO2利用は、気候変動対策としても注目されており、最近では、石油精製工場やごみ焼却施設など、CO2排出源の近隣に温室が作られることが多い。

栽培作物の加温に多くのエネルギーを消費する施設園芸では、加温のための重油などの使用量を削減する取り組みが急務だ。燃料を燃やして熱利用するだけでなく、そこから排出されるCO2をうまく使うことで脱炭素が進み、作物の成長量を向上させることができる。

さらに、工場やごみ焼却場などCO2を排出する施設との連携や、将来的にはCO2を回収・貯蔵するCCSの活用も考えられる。

植物の生育に欠かせないCO2をどう活用していくか、農業分野ではCO2を利用することで減らす方法が少しづつ広がってきている。

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