[鉄路に新潟の匠あり]<1>ディーゼル機関車、新興国の発展けん引・北陸重機工業(新潟市東区) 国際貢献への思い込め 遠隔地の故障リスク、技術で軽減

北越重機工業がコンゴの運輸港湾公社に納車したディーゼル機関車

 全国津々浦々をつなぐ鉄道網。この社会に欠かせないインフラには、各所に新潟県で生み出される製品や技術が使われている。車両に部品、線路の建設…。新潟県は複数の異なる新幹線路線が走るなど、鉄道との縁も深い。国内はもとより海外の鉄路をも支える、ニイガタ発の匠(たくみ)の技を見ていきたい。=7回続きの1

【2023/05/23】

 アフリカ中部コンゴ(旧ザイール)の首都キンシャサと港湾都市マタディを結ぶ約360キロの線路を、1両のディーゼル機関車が客車をけん引し、往復している。コンゴ国旗の水色と黄色、赤を基調とした塗装が施され、側面には日本国旗が描かれている。

 製造したのは、特殊車両を製造販売する極東開発工業(大阪市)傘下の北陸重機工業(新潟市東区)。機関車のほか、架線作業車や軌道モーターカーなど、鉄道の維持管理に欠かせない車両を幅広く手がける鉄道車両メーカーだ。

北越重機工業がコンゴの運輸港湾公社に納車したディーゼル機関車

 新型コロナウイルス感染症流行直前の2020年2月、政府開発援助(ODA)の無償資金協力の一環で、既存の車両が老朽化し、運行に支障を来していたコンゴの運輸港湾公社に納車した。

 機関車は全長15メートル、重量72トン。片方が故障しても走行できるよう2基のエンジンを搭載し、計1400馬力のパワーを持たせた。現地のレール事情から最高時速40キロ程度で運用しているが、設計上は時速80キロでの走行が可能だ。

 政府から代理機関を通じて打診を受けたのは15年4月のことだった。政情不安や治安悪化、エボラ出血熱などのリスクを抱えるコンゴでのビジネスに「当初は社内にちゅうちょする意見もあった」と、当時社長だった霜鳥雅徳相談役(68)は振り返る。

 ただ、大型受注を狙う大手を除き、大型機関車の製造を1両から担えるメーカーは国内では限られる。北陸重機は16年、同社初のODA案件としてエジプトの地下鉄向けにディーゼル機関車を出荷するなど実績を積んでいた。国際貢献への「熱い思い」(霜鳥氏)に突き動かされ、18年3月の契約締結に踏み切った。

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 年間を通じて高温のコンゴでは、故障の原因となるエンジンのオーバーヒートを防ぐ対策が不可欠だった。だが、外気を取り込む通気口を多く開けすぎては、エンジン音が漏れて騒音となる。通気口のレイアウトを最適化し、騒音を抑えつつ冷却機能を向上させた。

 故障してもすぐに駆け付けられない海外事業のリスク軽減のため、車両の操作履歴や異常などのデータを記録できるシステムを搭載。ソフトは自社開発した。トラブル時には、現地から送られてきたデータを解析することで、日本にいながら原因を特定し、対応策を練ることができる。

 北陸重機工業は、1970年に台湾の国鉄向けにモーターカーを納車したのを皮切りに、アジアや中東、アフリカ、中南米に計800台超の車両を輸出している。2023年3月期の売上高は約13億円。売上高に占める海外事業の比率は4割に上る年もある。

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 「リスクを恐れすぎて最初の一歩を踏み出せなければ、海外事業は難しい。今では、声がかかれば引き受けられる準備ができている」。霜鳥氏は、海外展開に積極的な姿勢が同業他社との差異化につながっていると強調する。

 交通渋滞解消のため、新興国では鉄道インフラの整備が急ピッチで進む。当面は、日本の新幹線方式を採用したインドの高速鉄道や、フィリピンの地下鉄建設計画へ参画し、メンテナンス用車両を納入することを目指している。いずれも日本のODA案件だ。

国内向け保守用車両の組み立て作業=新潟市東区

 北陸重機工業は、4月1日に霜鳥氏が相談役に退き、常務だった堀上幸二氏(54)が社長に昇格した。堀上氏は「強みの海外事業に今後も積極的に取り組み、国内事業との両輪で成長につなげていきたい」と力を込めた。

(報道部・清水啓也)

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国内向け保守用車両の組み立て作業=新潟市東区

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