イーライ・リリーがダイスを24億ドルで買収 自己免疫疾患領域を強化

イーライ・リリーに買収されたダイス(同社ホームページより)

米製薬大手イーライ・リリー(インディアナ州)は6月20日、バイオ医薬品大手ダイス・セラピューティクス(DICE)を24億ドル(約3,400億円)で買収することで合意したと発表した。ダイスを傘下に収めることで、自己免疫疾患治療薬の強化を図る。リリーは1株当たり48ドルを現金で支払う。6月16日のダイス株終値に42%のプレミアムを上乗せする。買収手続きは2023年第3四半期に完了する予定だ。

乾癬経口治療薬を持つダイス

ダイスは自己免疫疾患向けの経口薬を開発中のバイオ医薬品会社。自己免疫疾患とは免疫系が正常に機能せず、体が自分の組織を攻撃してしまう病気のこと。自己免疫疾患は100種類以上あり、乾癬(かんせん)や全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎などが挙げられる。

乾癬治療薬用の注射薬「トルツ(Taltz)」を生産するリリーは、昨年に経口タイプのIL-17阻害薬の開発を断念していた。同薬は、体内で作られるインターロイキン-17(IL-17)細胞の活性を中和することにより、乾癬や関節リウマチなどを改善する医薬品である。

今回の買収を通じ、リリーはダイスの主力医薬品である乾癬経口薬「DC-806」などを手に入れ、自己免疫疾患向けのパイプライン(新薬候補)を拡充できる。「DC-806」は臨床試験の開発中期に当たる第2相試験(フェーズ2)に進んでいる。


「研究開発こそ企業の魂」を理念とするリリー

リリーは約150年の歴史を誇る製薬大手で、2022年の売上高ベースでは世界12位。研究開発型の製薬企業であり、世界初の糖尿病治療薬「インスリン」の大量生産に成功したことで知られる。売上高に占める研究開発費の割合は世界トップクラスだ。

世界の製薬会社売上高ランキング(2022年、単位=億ドル)

(図はFierce Pharmaより筆者作成)

売上高規模は首位ファイザーの3分の1にも満たないが、時価総額ベースでは2位に入っており、株式市場から高い評価を得ていることが分かる。

世界の製薬会社の時価総額ランキング(2022年末時点、億ドル)

(図はFierce Pharmaより筆者作成)

このところリリー株は史上最高値圏で推移している。その要因の一つが、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド」だ。治療目的に応じて名称が変わり、現在は2型糖尿病用注射薬「マンジャロ」として販売している。22年4月には、第3相臨床試験(フェーズ3、開発後期)で、チルゼパチドを服用した患者が体重を最大22.5%減少させることを確認した。

これにより、最新の「やせ薬」として株式市場から大きな注目を浴びている。デンマークのノボ・ノルディスク(NOVO B)が開発した類似薬「セマグルチド」より高い効果も示している。新たなブロックバスター(売上高が10億ドルを超える製品)候補として期待が高まる中、リリー株に投資マネーが集まっている状況だ。

リリーはチルゼパチドを肥満治療薬として承認申請するとしており、早ければ2023年後半に米食品医薬品局(FDA)より承認が下りる可能性がある。

文:フォルトゥナ

フォルトゥナ

日系・外資系証券会社に15年ほど勤務。リサーチ部門で国内外の投資家様向けに株式レポートを執筆。株式の専門家としてテレビ出演歴あり。現在はフリーランスとして独立し、金融経済やESG・サステナビリティ分野などの記事執筆、翻訳、および資産運用コンサルに従事。企業型DC導入およびiDeco加入者向けプレゼンテーション経験もあり。

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