菅沼史朗がファッション系バスアングラーの急所に突きつける『GLOK(グロック)』という名の玩具。【Deep Forestの世界観と現在進行系のフロッグ専用ロッド“GLOK Gen2”】

遊びの釣りだからこそ、真剣に向き合いたい。そんな菅沼史朗の世界観を象徴するのが“GLOK”というネーミングである。「世界でもっとも普及している拳銃」の名を、あえて釣り道具につけた理由とは。

●文:ルアマガプラス編集部

菅沼史朗(Shiro Suganuma)

1979年静岡県出身。中学生時代からNBCジュニアトーナメントに没頭、大学卒業後に渡米してFLWのコアングラーを経験。imaでダビートなどの開発を担当したのち、2017年に「Deep Forest」を立ち上げてミクラ・キュー・エイトをリリース。全国のフロッグジャンキーから熱狂的な支持を受けた。

目的の遂行、ただそれだけのために。

前回の記事では、菅沼さんがフロッグ専用ロッド“GLOK(グロック)”を手掛けるに至ったあらましを紹介した。

※前編記事挿入予定

そして今年5月に発売された第2世代“GLOK Gen2”には、初期モデルにもラインナップされていた「630MH」「650MH」の2機種に加え、新たなコンセプトを纏った「680XH」が追加されている。

その詳細に進む前に――、そもそも“GLOK”とは、フロッグやバスフィッシング関連の用語ではない。オーストリアの武器製造会社「GLOCK」が開発した、世界でもっとも普及している拳銃のひとつに由来するネーミングなのだという。

菅沼「僕はガンマニアじゃないし、アメリカの銃社会にも批判的な立場ですが、プロダクトとしての『銃』には、昔から興味があった。単なる無機質な金属と樹脂の塊で、装飾もかぎりなく排除されていて、ただひたすら殺傷能力という『目的』を遂行するためだけに存在している。その機能美に惹かれるんです」

ひんやりとして、無機質で、感傷をよせつけない佇まい。「銃」が体現しているソリッドな美しさこそ、菅沼さんの考える理想的な「道具」のあり方そのものだった。

菅沼「さらに言えば、釣りをする人間にも僕はそういう姿を求めてしまうところがあって。ファッションでバス釣りをやってほしくないんですよ。僕たちはバスプロじゃないし、釣りは遊びのひとつでもあるけれど、だからこそ真剣に取り組むべきだと思っている」

自然のなかで常に冷徹にものごとを観察し、その瞬間にやるべきことを粛々と遂行していく。そんなアングラーの姿は、“概念としての銃”がそうであるように、ただ目的のために研ぎ澄まされていく。

菅沼「自分のスタイルで押し切ったからノーフィッシュでも満足、みたいなことをSNSに書かれると、ぶっ飛ばしたくなりますね(笑)。バス釣りの目的は、なにを差し置いてもまず『釣る』ってことじゃないですか? もちろん僕もしょっちゅうデコりますよ。悔しくて、帰りの車中でめちゃくちゃ考えるわけです、なにがいけなかったのか、次はどうやって仕留めてやろうか……。いまだにその繰り返しです」

フロッグという制約のあるルアーで遊ぶからこそ、全身全霊で取り組まなければ意味がない、というのが菅沼さんの矜持。そのストイックなまでのメッセージが“GLOK”の4文字に込められている。

GLOKシリーズのグリップエンドにコルクが配置されているのは、フッキング時に胸や腹に当たってアザになるのを避けるため。セパレートグリップは防寒着に絡むのを防ぐのが目的。すべての意匠に理由がある。

「フロッグ+ビッグベイト」相反する機能をひとつのロッドに

菅沼「630MH・650MHという2機種のあとに付け加えるなら、従来のフロッグロッドであれば7ft前後のMHないしH、となるのが普通なんです。だけど前回の記事でも話したとおり、それはアメリカにおけるフロッグロッドの立ち位置であって、日本のフロッギングには必要ない。いくつかの候補を検討した結果、680XHというかたちに落ち着きました」

6ft8in、エクストラヘビー。レングスと強靭なパワーを持たせたことで、極端なヘビーカバーにも臆せず撃ち込むことができるようになった。

たとえば竹が折り重なって倒れているような、PEラインでも躊躇するほどの密集地帯。あるいはスキッピングが無効化されるほど枝葉の茂った冠水ウッドカバーの最奥部に向けて、パンチングさながらにフロッグを高く放り投げて撃ち込みたい場合など、このロッドでなければ不可能なアプローチが存在する。

だが、単にパワーとトルクを増すだけでは並のロッドに落ち着いてしまう。さらなる付加価値を、と菅沼さんは考えた。

菅沼「ここ10年ほどのバスフィッシングにおける大きなトピックのひとつが、ビッグベイトの台頭だと思います。僕自身もフロッグとローテーションすることがけっこうあるんです。とはいえロッドはむやみに増やしたくない。もしもひとつのタックルでフロッグとビッグベイトを両方できたら最高だよね、というのが開発の出発点でした」

フロッグと操作系ビッグベイトを、ひとつのロッドで扱うことはできないか? ハードルの高い目標設定から「680XH」の開発はスタートした。

言うは易しだが、同じパワーロッドの枠内でも、フロッグとビッグベイトが求める能力にはかなりの落差がある。

フロッグ用のロッドはまず正確なキャスティングありきだから、しっかりとルアーウエイトを乗せて曲げやすいレギュラーテーパー系が向いている。

一方で「近距離からピッチング→ロッドワークでドッグウォーク」といったスタイルが多用される近年のビッグベイトスタイルには、エキストラファストテーパーのロッドが扱いやすい。どこに落としどころを見出すべきか。

シングルフットガイド搭載の理由

独自設計のブランクスでビルドアップされる“GLOK Gen2”のなかでも、最難関かと思われた680XHだが、意外にも仕上がりははやかった。

菅沼「僕のイメージを職人さんに伝えて、最初にあがってきたものが完璧でした。一発でできちゃったんです。素材自体は630MHや650MHと同じく中弾性のカーボンなんですが、ここまで粘りがあってトルクが強くて、なおかつ“感度”がいいロッドはなかなかないと思う」

ワームの釣りであればボトムや障害物、バイトなどの感知能力としてイメージしやすい「感度」という要素だが、フロッグ用ロッドにおいてもそれは必要だと菅沼さんは語る。

菅沼「オーバーハングのシェードの奥に撃ち込んだりして、目視できない状態でフロッグを操作することもよくありますよね。そんなとき、頼りになるのは手元の感覚だけ。きれいにドッグウォークしているようすが感じ取れるのは最低条件で、極端にいえば、フロッグが左右どちらを向いているのか、という部分まで伝えてくれるロッドじゃないと仕事にならない」

PEラインの使用が前提だった630MH・650MHとは異なり、このロッドはビッグベイト+フロロカーボンも想定したガイドセッティングに変更。さらに特徴的なのは、ダブルフットガイドはストリッピングガイド(バットガイド)のみで、そのほかはすべてシングルフットにしている、という点だ。

エクストラヘビー級のロッドともなれば、強度のあるダブルフットのガイドを少なくとも3~4個はセットするのが定石である。事実、製造元のメーカーからも「ダブルフットが1個だけで大丈夫ですか?」と確認されたという。

菅沼「XHパワーのわりに見た目は華奢なので不安に感じるかもしれませんが、強度的にはまったく問題ありません。PEラインやパワーゲームにはダブルフットじゃなきゃダメ、というのは過去の話ですよ。それより、シングルフットにしたことでロッドが軽くなるメリットのほうが圧倒的に大きかった。一日に何百何千とキャストを繰り返してロッドワークを繰り返す釣りなので、軽いほうが精度も集中力も最後までキープできます」

バットガイド以外はすべてシングルフットを採用。軽くなって操作性がアップするのはもちろん、素直に曲がりやすいテーパーを構築しやすいよさもある

680XHで使用するのはレギュラークラスのフロッグを中心に、回転性能の高い最近のリールであればコンパクトフロッグも扱える。ビッグベイトであればタイニークラッシュやジョイクロなど2ozクラスが適正ウエイトで、ピッチング主体で使うならクラッシュ9などの4oz級も射程圏内だ。

― DF GLOK Gen2 680XH ‘The Mighty’

【スペック】

  • ルアーウエイト:3/8~3oz
  • ライン:10~25lb/PEラインMAX65lb
  • 価格:61,600円(税込)

「フロッグとビッグベイト、それぞれ百点満点にこなすのは不可能だと思っていました。めざしたのはそれぞれ70点でしたが、結果的にはトータル120点の出来になったと思います(菅沼)」。海外への怪魚系遠征なども想定してグリップは脱着可能になっている。

菅沼「僕がいちばん最初にフロッグを作ってから、今年でちょうど10年なんです。それからずっとやり続けていて、いまだに飽きないどころか、さらに世界が広がっています。バスフィッシングのなかでも、フロッグほど洗練されたスタイルはほかにないと思うんです。この“特殊で偏った遊び”に、記事を読んだ人が少しでも興味を持ってくれると嬉しいですね」


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