病気受け入れ社会復帰へ 長与町・神宮麻美さん 9月からオンラインで菓子販売

アイシングクッキーなどを作る菓子工房開設を目指す神宮さん=長崎新聞社

 病気があっても社会復帰したい-。パニック障害とうつ病の症状を抱える長崎県西彼長与町の神宮麻美さん(27)は9月、カラフルなクリームでクッキーをデコレーションするアイシングクッキーなどのオンライン販売を始める。病気を公表し、新たな挑戦を始めようとしている。
 2014年、幼い頃からの夢だった保育士を目指し大学に進学。現実とのギャップや人間関係などに悩んでいた時、教室で過呼吸に似た強い症状に襲われた。同じことが起こる不安と恐怖で教室に入れなくなり、やがて家から出られなくなった。
 かかりつけ医に相談し、心療内科を受診。パニック障害とうつ病と診断され、薬での治療が始まった。大学を1年間休学したが、18年に退学。「社会のスタートラインにも立てない」。孤独感と敗北感にさいなまれた。
 退学後、さまざまなアルバイトをしながら生活。次第に症状がなくなり、保育士の国家試験に自力で合格。充実した日々を過ごしていた20年6月、家で強烈なめまいに襲われた。病院に行くと「再発」。体調に合わせて勤務を調整したが、発作は続き、大学時代から続けていた飲食店での接客にも苦手意識が生まれた。
 病状は一進一退。今後も繰り返すと考えるうちに、それも含めて自分だと認めることができた。一度認めると気持ちが楽になり、前向きになれた。
 「病気を抱えながらできることを探そう」。できることを考え、趣味のお菓子作りにたどり着いた。昨年夏、営業に必要な食品衛生責任者の資格を取得。販売方法は体調に左右されにくいオンラインにする。商品は交流サイト(SNS)で人気が高いアイシングクッキーと、得意のガトーショコラに決め、2月には、アイシングクッキーマイスターの資格も取った。
 菓子づくりの拠点を探していたら、知人が同町内の空き家を貸してくれることに。店名はフランス語で「おとぎの国のエマ」を意味する「ema au pays des fées(エマ ウ ペイ ディ フィ)」。「絵本を読んでいるような温かく優しい気持ちになってほしい」という願いを込めた。
 神宮さんは「こんな人もいると知れば、周りの人に優しくなれる。いろんな境遇の人が少しでも生きやすくなるきっかけになれたら」と笑顔で語った。地元の素材を使った新商品のアイデアも膨らんでいる。
 現在、借り受けた家を菓子工房に改装し、必要な設備を設置するための資金をクラウドファンディング(CF)で募集。8月10日まで。リターンは、アイシングクッキーと2種類のガトーショコラの組み合わせなどがある。

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