“咲妃みゆならどう演じるか”を期待されているはずなので「私は私で勝負しよう」と思っています!――舞台「少女都市からの呼び声」インタビュー

アングラ界の巨匠・唐十郎の舞台「少女都市からの呼び声」に出演する咲妃みゆ。作品の世界観・お芝居のジャンルなど、これまで立った舞台とは一線を画す内容だが、咲妃は今回の出演に対して、並々ならぬ思いを持っている。本作への思い、初めて挑戦するストレートプレーに懸ける意気込みを語ってもらった。

――舞台「少女都市からの呼び声」は、唐さんの名戯曲であり、演出を務めるのは唐十郎作品を多く手掛けてきた金守珍さんです。咲妃さんは、2010年から17年の間、宝塚歌劇団に所属し、退団後も華やかなミュージカルの世界で活躍されてこられましたが、アングラ演劇に対してはどんなイメージをお持ちですか?

「一筋縄では理解できない奥深い世界、という印象を持っています。過去に、宝塚出身の愛希れいかさんが出演された舞台『泥人魚』を拝見する機会があって。ただただ衝撃を受けて、気付いたら終演していた記憶があります。美しさと複雑さ、不思議さと恐怖など、いろいろなものが混ざり合った世界だなと感じましたし、まるで現実社会そのものだなと。今回もいろいろな発見が待ち受けていると思うと、とてもワクワクします」

――主演の安田章大さんとはお会いになりましたか?

「(※取材時)まだお会いしたことはないのですが、安田さんを知る方々から『熱意のある大変素晴らしい方だよ』と伺っていて。いつかご一緒したいと思っていた矢先に共演のお話をいただいたので、とても楽しみです」

――演じられる雪子については、どんな印象をお持ちですか?

「彼女はこの世に存在できなかった人物。そんな中で『愛とは?』『現実世界ってどんなところ?』と、知りたい欲望を持っている印象です。同時に『生きたい』という強い生命力も感じました」

――そして、何と言っても、今回は初めてストレートプレーに挑戦されますね。

「歌劇団時代に培ってきたものが、私の大部分を占めていて。ただ、歌劇団独特のお芝居や表現の仕方がどの舞台でも通用するとは限らないということを、いろんな作品を通して感じました。その特徴を抜いていく作業に、ここ数年はエネルギーを費やしてきましたが、真実味を持ってセリフを発することの難しさや、それができた時に『しっくりきた』感覚をようやく感じられるようになって。おそらく卒業して間もない頃に、ストレートプレーに携わらせていただいたら、すごくつまずいていたと思います。こうして経験を積ませていただいた今、出演が決まったのはありがたいことだと感じております」

――ストレートプレーのどんなところに魅力を感じますか?

「人間の本質に容赦なく迫る作品が多いところです。それこそが演劇だなと。さまざまな舞台を拝見する機会がありますが、客席に座って身構えずに、お芝居に没入できる。その時間がたまらなく好きで。心が痛くなる作品もあるし、温かくなる作品もありますが、自分のさまざまな感情を容赦なく引っ張り出してくれるのが、ストレートプレーの魅力だと思います」

――これまで取り組んできたお芝居とは、だいぶ異なりそうですね。

「宝塚時代から徹底的な役作りを目指してきましたが、それもあえてやめようと思っていて。『ちゃんと役を作り上げたい』という気持ちが強ければ強いほど、ガチガチになって周りに散らばっているヒントを拾いにくくなってしまう。今まで出演させていただいた舞台でも、ふわっと力が抜けている瞬間に『それがいい』と言っていただくことが多かったので、完璧を求め過ぎない感覚を大事にしたいです」

――逆に「力を入れたお芝居」というのは、若い頃から培ってきたものであり、咲妃さんの血となり肉となっているものだと思います。それを抜くのは、かなりのことですね。

「ミュージカル『マチルダ』では、海外の演出家さんがついてくださっていたのですが、“演じようとしないこと”を追求される方でした。それをするのはとても勇気がいることで。華やかな衣装、セット、音楽などいろんな要素が取り巻いている中で『ただ存在することに徹して。その方が存在感が際立つよ』と、アドバイスをくださったんです。あと、最近いただいて心にガツンと来た言葉があって。『あなたは、何かを習得する時期は過ぎた。習得してきたものを、今度は自分の中で生かしていく作業に入りなさい』と。“咲妃みゆならどう演じるか”を、演出家の金さんも期待されているはずなので、『私は私で勝負しよう』と思っています」

――「マチルダ」から今作まで少し期間がありますが、リフレッシュの時間はつくれましたか?

「最近は、ドライブがリフレッシュになっています。あと、2年前から野球観戦という趣味が増えまして。いつか自分の運転で球場へ行って試合を見る、という目標があるんですけど、球場までのルートに興味が湧いてしまい、誰も近づかないオフシーズンに、球場までドライブしたんです。しかも1日に千葉と埼玉の2球場に行きまして(笑)。静寂に包まれた球場を眺める機会はそうそうないので、いい経験になりました」

――WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)はご覧になりました?

「もちろんです! 私が推しているオリックス・バファローズの選手をはじめ、普段はライバルである他チームの皆さんが同じ目標に向かって力を合わせる姿は、もう感動以外の何物でもなかったです」

――身の回りでも野球にハマッた方がいるとか。

「そうなんですよ! 『マチルダ』でご一緒した昆夏美ちゃんなんですけど、WBC中に私がルールを説明したり、『この選手にはこんなドラマがあってね…』と話していたら、野球に興味を持ってくれまして。今ではラーズ・ヌートバー選手がお気に入りだそうです!」

――好きな物を広めたい熱量が、咲妃さんは特別高いですよね。

「自分がいいと思うものは、周りの方に伝えたくなるんです(笑)」

――では、舞台本番中のルーティンはありますか?

「声帯が丈夫な方ではないので、楽屋や自宅でも吸入器は欠かさず使っております。ちょっとした不調から、いろいろな病気が歩み寄ってきてしまいますから。私は首の骨がよくズレるのですが、そうすると実は、首と直接関係ないような場所に影響が出てしまったり…。声帯もそうなんです。喉の周りの筋肉が硬直してしまうのは、どこか体のバランスが崩れて、そこをかばうために硬くなっている場合があるので、接骨院へよく足を運んでいます。あと、朝ごはんは絶対に食べる!」

――召し上がる朝食のメニューは決まっているのですか?

「和食ですね。親しい友人にも『おみそ汁を飲みなさい』と勧めていて。大事ですよ、おみそ汁! 刻んだショウガを入れると体がポカポカになるし、温活にもつながります。普段、おみそ汁は飲んでいますか?」

――飲んでいないです…。

「ぜひ飲みましょう!」

舞台の話をする時は、終始りんとした表情で話す咲妃。しかし、趣味の野球観戦やドライブの話題になると、その雰囲気は一変。好きなことに対して、熱く語る姿にギャップを感じた。雪子との共通点について「好奇心旺盛なところが似ている」と話していたが、それがお芝居でどのように生かされるのか楽しみだ。

【プロフィール】

咲妃みゆ(さきひ みゆ)
1991年3月16日生まれ。宮崎県出身。魚座。B型。元宝塚歌劇団雪組のトップ娘役。2017年に退団後、女優として活躍。主な出演作は、ミュージカル「GHOST」(18年・21年)、「NINE」(20年)、「マチルダ」(23年)など。24年にはブロードウェイミュージカル「カム フロムアウェイ」への出演を控える。

【作品情報】

THEATER MILANO-Za オープニングシリーズ/COCOON PRODUCTION 2023『少女都市からの呼び声』

東京公演】
日程:7月9日~8月6日
会場:THEATER MILANO-Za

大阪公演】
日程:8月15~22日
会場:東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール

文/真貝聡 撮影/青木渚

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