『Being at home with Claude~クロードと一緒に~』Zu々主宰 三宅優 インタビュー

『Being at home with Claude~クロードと一緒に~』日本ではこの2023年7月の上演で6回目となる。
この”Being at home with Claude”は、フランス系カナダ人のルネ=ダニエル・デュボワ作、1986年初演、カナダ国内外で長年にわたって再演されている作品。
今回は、作品に設定された7月4日と5日を含み、赤レンガ倉庫1号館3ホール、また、Zu々としては初の地方公演を京都文化博物館別館ホールで行う。どちらの会場も歴史的建造物の重厚なレンガ造りの建物で、モントリオールを舞台にした海外戯曲を上演するに相応しい、通常の劇場とは趣きが違う空間での公演となる。

今回の公演で4度目の「彼」を演じる松田凌。自ら「20代から演じ続ける代表作」とコメント。対峙する刑事にTV、舞台で活躍する神尾佑。刑事を支える速記者に井澤勇貴。警護官の鈴木ハルニは、初演以来、全公演に参加。このキャストでの上演台本・演出は小山ゆうな。なお、公演チケットは完売。ライブ配信、レンタル動画配信が決まっている。
この作品の上演までの経緯や作品について、Zu々主宰の三宅優さんのインタビューが実現した。

ーーこの作品はどこで見つけてきたのでしょうか?

三宅:イギリスに住んでいた時に、ロンドンの劇場街のウェストエンドではなく、「King’s Head」というパブの2階にある空間、スタンディング・コメディアンがショーをするようなスペースで上演するのを知って、観たのがきっかけですね。

ーー作品の評判はどう聞いていた?

三宅:実は、ロンドンで観たのは再演でした。その再演については「TIME OUT」という、日本で例えると「ぴあ」のような情報誌の書評で見て知ったのです。ロンドンでの初演はロテール・ブリュトーという、モントリオール出身のカナダ人が主演だとは聞いていました。ブリュトーについてはカンヌ国際映画祭で外国語映画賞を受賞した「モントリオールのジーザス」、私は大学生の時に観た映画なのですが、それに主演していた役者さん。自分が日本で観た映画に出ていたような人が、ロンドンの小さい劇場で主演したという作品の再演なのだから「ちょっとおもしろそう」と思いました。週末に街に出かけてミュージカルを観る、というイギリス滞在中はよくしていた事と同じような、気軽な気持ちで出かけました。

ーー当時は、インターネットもないし、情報を得るのは紙媒体でしたよね。

三宅:そうです。とってもメジャーな作品なら、ロンドンは地下鉄の広告とかでも知る事もできますけれど、そうでない作品に触れるには手段がそれしかなかったの(笑)。

ーーそこまでして観た作品は、インパクトが強かったと。

三宅:ですね。週末に観て、すごくショックを受けた。そんなに長い期間上演されていたわけではないですけれど、どうしても何度でも観ておきたかいと思うくらい。だから、千秋楽にも足を運びました。実は当時、ロンドンからは遠い町に住んでいたのですけど、もう一度観たいから、コーチと呼ばれる中距離バスで行った事を覚えています(笑)。

ーーその時点では日本で上演したいなとすでに思っていた?

三宅:全然。私、基本的には、演劇畑で育ってきたわけではないから。(観劇は)趣味の一つでした。当時は日本でいつか上演される、とかすら考えていなかったでしょうね。単に観劇して感動していただけです。

ーー現在のお仕事からすると、意外なお答えが。それでは、日本での上演についてはどういう経緯が?

三宅:出版業界にはいたので、知り合いには演劇関係者、役者や、漫画家はいました。まだ2.5次元という言葉もなかった頃ですけど。漫画原作の舞台をちょっとやりだした頃ですね。知人の漫画家さんの作品が舞台化されたりしていました。
でも、正直、そのクオリティには満足できなくて、周りの観客たちみたいに泣けなかった。そこで、ふっとロンドンで観た舞台「Being at home with Claud」の事を思い出しまして。「私はロンドンで観劇しで号泣した経験があるの」と友人の漫画家さんに伝えたんですね。そしたら「私も観てみたいから、日本で上演して」と言われて。「演劇に関係した事もないのにできるかっ!」と返したのですけど(笑)。私、オタク気質なものだから、ロンドンで観劇したパンフレット類は全部、残してあった。で、話題にした夜にパンフレットを読み返したり思い出したりしました。そして、原作者のデュボワさん、作品について、20年以上たってネットで調べたら、ほとんどがフランス語で、わかりませんでした(笑)モントリオールはフランス語圏なので。ただ、様々な人々に助けてもらい、偶然が重なって、カナダ大使館にご協力を頂いて、原作者のデュボワさんの連絡先を入手できて、25年くらい前にロンドンでの公演を見ました、ってファンレターのようなメールを出しました。

ーー日本で上演するなら、原作者の許諾も必要でしょうし、翻訳もしなければいけない、劇場、キャスト、演出、やるべきことが山積みですね。

三宅:メールを出した翌日に本人から、日本で上演して良いよ、これエージェントの連絡先だから、詳細はそちらと相談して、と返信が来て焦りました(笑)。で、慌ててエージェントにメールを書きました。そしたら、ロンドンで観劇した時に何か月も演劇専門の書店で探し回っても、フランス語ですら手に入らなかった台本の英語版がpdfでメールに添付されて送られてきて一気に読みました。ロンドンで観劇した時のように、最後には号泣してて。今読んでも、こんなに感動するのだし、カナダ大使館にもご協力をもらって、作者本人からエージェントを知らせてもらって、上演しない訳にはいかない、で、まず翻訳から始めました。でも、カナダの文化には詳しくないので、モントリオール出身で、当時、翻訳学を大学院で学んでいたイザベルさんを紹介して頂き、共同翻訳の形で進めました。英語、フランス語だけでなく、1967年という時代背景も考えながらですから、時間はかかりました。

ーー初演の手応えはどんな感じでしたか。

三宅:今は残念ながら無くなってしまった青山円形劇場での初演(Wキャスト主演:稲葉友さん、相馬圭祐さん)でした。私が初のプロデュース業で、何をどうすれば良いのやら・・・だった要因が大きい初日の薄い動員が、千秋楽はWキャストのどちらの回もほぼ満席という状況にできました。本当にキャスト、スタッフのおかげでした。

ーーそこから何度も再演を繰り返していますが、そこの経緯を差し支えない範囲内でお願いいたします。キャストさんのことや演出家さんのことなどお願いいたします。また、今回、松田凌さんが4度目の主演で大変入れ込んでいらっしゃいますね。

三宅:差し支える事はまったくないです(笑) 初演の後、10ヶ月後にシアタートラムで再演できる機会を頂きました。シアタートラムはかかる作品に大好きなものが多く、通っていた劇場だったので、準備期間としては短期間でしたが、上演できる機会があるなら上演したい!の想いから、スタッフに頑張ってもらっての再演となりました。
再演の演出家は、初演から続き古川貴義さんにお願いしました。その後、作品舞台と同様の7月4日&5日の2日間だけ新国立劇場が使用可能日として公募しているのを締切2日前に知り、急いで応募して利用可能となりました。とは言え、2日間でできる事、としてリーディングにチャレンジしました。その際は、シアタートラムでの再演に続いて、松田凌さんに主演の「彼」をお願いしました。
モントリオールとイメージが重なる赤レンガ倉庫1号館3Fホールの存在に気付いた際には、Wキャスト(主演:松田凌さん、小早川俊輔さん)、初のW演出という試みにチャレンジして、演出を田尾下哲さん、保科由里子さんにお願いしました。その後、東京芸術劇場シアターウエストでのフランス語版からのノーカット版の上演(主演:溝口琢矢さん)の演出を再度、田尾下哲さんにお願いしました。そして、今回、松田凌さんに「彼」をお願いする事になり、演出をどなたにお願いするか、に小山ゆうなさんの名前がすぐに上がり、私もぜひお願いしたい、となって、お引き受け頂けて、毎日、稽古場で作品が仕上がっていくのを楽しくみています。

ーー今回も横浜赤レンガ倉庫での上演、大変趣きがありますね。また、物語の設定、取調べが何時間にも及んでから始まる、というのがユニークかつ衝撃的です。

三宅:大きな川の傍にある港町モントリオールの町を観客が想起しやすい、という観点で選んだ会場です。初めて利用した際、観客の皆様のSNSのコメントやアンケートで、行き帰りの道すらも作品の世界とつながっているように感じた、と言って頂けて、今回も上演を決めました。また、同じようなレンガ造りのホールという事で重要文化財でもある京都文化博物館別館ホールでの上演を決めました。Zu々としては、初の地方公演ですが、初めて京都文化博物館別館ホールに入った時、ここで「クロードと一緒に」を上演したい!というシンプルな私の希望からの企画です。
横浜も京都ももともとは劇場ではない空間なので、スタッフワークには、通常と違う部分が多く、スタッフには苦労をかける事も多いですが、それを超える何かを観客の皆さんにお届けできる会場と思います。

ーー今回、配信もおこないますが、定点なんですよね。

三宅:2021年のシアターウエスでの公演時期が、コロナ禍で来場を家族や職場での立場的に躊躇する、諦めざるをえない、方が多くいる、と気づいていました。なので、Zu々としては初の試みでしたが、ライブ配信からのアーカイブ配信を行いました。Zu々プロデュース公演としては、2020年「ノンセクシュアル」をストレートプレイから、朗読劇に変更して録画配信をした経験を経たので、配信を行う事を決心しました。
ただ、2014年度の公演の際の契約当時には配などについてはまだ馴染みがない時期だったので、契約書の変更など2021年度にはデスクワークが面倒でした。2021年の公演も定点でライブ配信、アーカイブ配信でしたが、それには理由があって、お客様が劇場に来場されたとしたら、定点で観劇されますよね。それを意識しての定点撮影での配信を2023年度の今回も行います。

ーーこの作品を観てみたい、興味はあるけど、未体験のお客様に向けてメッセージをお願いいたします。

三宅:おかげさまで京都公演は完売。横浜公演もほぼ完売となっています。世界的なコロナのパンデミックに理解を示してもらえて、2021年から配信が可能となったばかりの作品ですので、京都の大千穐楽公演のライブ配信、アーカイブ配信と機会を多くご用意しましたので、ご覧頂けたら嬉しいです。アーカイブ配信では、横浜会場でのキャストの対談 や横浜会場のバックステージ・ツアーも収録を企画していますので、両方ご覧頂けたら(笑)

あらすじ
1967年 カナダ・モントリオール。判事の執務室。
殺人事件の自首をしてきた「彼」は、苛立ちながら刑事の質問に、面倒くさそうに答えている。男娼を生業としている少年=「彼」に対し、明らかに軽蔑した態度で取り調べを行う刑事。部屋の外には大勢のマスコミ。
被害者は、少年と肉体関係があった大学生。
インテリと思われる被害者が、なぜ、こんな安っぽい男娼を家に出入りさせていたか判らない、などと口汚く罵る刑事は、取り調べ時間の長さに対して、十分な調書を作れていない状況に苛立ちを隠せずにいる。
殺害後の足取りの確認に始まり、どのように二人が出会ったか、どのように被害者の部屋を訪れていたのか、不貞腐れた言動でいながらも包み隠さず告白していた「彼」が、言葉を濁すのが、殺害の動機。
順調だったという二人の関係を、なぜ「彼」は殺害という形でENDにしたのか。密室を舞台に、「彼」と刑事の濃厚な会話から紡ぎ出される「真実」とは。

公演概要
日程・会場:
横浜:2023年7月1日(土)~9日(日) 横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
京都:2023年7月20日(木)~23日(日) 京都文化博物館 別館ホール
出演
松田凌 / 神尾佑 / 井澤勇貴 / 鈴木ハルニ
スタッフ
原作者:ルネ=ダニエル・デュボワ(Rene-Daniel Dubois)
翻訳:イザベル・ピロドー/三宅 優
上演台本・演出:小山ゆうな
プロデューサー:三宅優
主催: Zu々
共催:赤レンガ倉庫1号館3Fホール
後援:カナダ大使館 / ケベック州政府在日事務所

★ライブ配信(アーカイブなし)
配信公演:京都 大千秋楽 (7月23日)
※定点による全景映像。スイッチングなし。

★レンタル動画
配信公演:京都 大千秋楽
特典映像:横浜赤レンガ倉庫1号館3Fの公演 バックステージツアー&キャスト対談
※レンタル動画の視聴期間は、48時間。
※定点による全景映像。スイッチングなし。

公式サイト:https://zuu24.com/withclaude2023/

取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし

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