南果歩, 栗原英雄, 山下リオ, 市川知宏, 入江甚儀, 山口まゆ 出演&荒井遼 演出『これだけはわかってる ~ Things I know to be true~』開幕

『これだけはわかってる ~ Things I know to be true~』が開幕した。
原作者はオーストラリアで最も高く評価される 劇作家アンドリュー・ボヴェル(Andrew Bovell, 1962-)。この作品は2017年にリーディングドラマとして初演。その時に演出を手がけた荒井遼が再び、この作品に挑む。

物語は末娘のロージ(山口まゆ)の独白で始まる。毛糸の帽子、大きなリュック、典型的なバッグパッカーの格好。あちこち旅をし、そして出会いもあり、別れもあった様子。

家に帰る、懐かしい我が家、そこには父と母、そして兄姉、彼女も入れて6人家族、皆、成人している。母は看護師の仕事をしている。父は、家の庭の薔薇の手入れ、そして長女のリップ(山下リオ)の子供の送り迎え。一見、何も問題ないように見える家族だが、それぞれなかなか言えない事情があるように見える。

末娘のロージ(山口まゆ)は少女の面影を残しているが旅の経験からなのか、家族の諍いをハラハラしながら見つめるも、不必要に介入はしない。繊細そうな長男のマーク(市川知宏)、仕立ての良いスーツを着こなす次男のベン(入江甚儀)、メガネをかけたデキる風なピップ(山下リオ)。テキパキとした母・フラン(南果歩)と優しそうな父・ボブ(栗原英雄)。

ボブは元自動車工だったが人員削減で早期リタイア。子供達が抱える、”言えないこと”が現代社会においてリアリティのある設定。家族の日常をコラージュ風に切り取っているが、そこに描かれている風景がリアル、会話も現実的。絵に描いたような”仲良し家族”ではなく、衝突することも日常、決して順風満帆とは言えない、摩擦が起きて諍いも起きる。それが当たり前。子供達の独白シーン、彼らが抱えている問題や葛藤が語られる。季節は変わらず春夏秋冬が巡る、セットの薔薇の花、俳優陣が動かす、満開だったり、散りかけたり、枝だけだったり、蕾だったり。華やかな薔薇の花には棘がある。家族だから言えること、言えないこと、どこか甘えがあったり。

『これだけはわかってる』それは各々異なるかもしれない。会話の中にも『わかってる』と言うフレーズも出てくる。家族だからわかってること、自分はわかってると思ってたけどわかってなかったこと。傷つきたくないからわかってるふりをするのか、あるいは本当にわかってたのか、そこは観る人の解釈。だが、そこに確実にあるのは”家族”、そして人間。家族である前に皆、一人の人間である。この物語はどこかの誰かの話を飛びこえて芝居を観ている観客の話にもなりうる。2幕でボブとフランの結婚記念日のシーンがある。普段着から、一転してちょっとおしゃれな花柄のワンピースのフランとスーツを着たボブが踊るシーンがある。長年連れ添ってきた、その年月、ささやかな幸せを感じる二人のダンスは緩やかで愛に満ちている。公演は7月9日まで。

イントロダクション
物語はオーストラリアの地方都市アデレードの郊外。いわゆる地方都市。そこにプライス家の日々がある。
母親のフラン(南果歩)は看護師、父親のボブ(栗原英雄)は元自動車工。今は長女ピップ(山下リオ)の子供の迎えや庭の手入れ、特にそこに植えられたバラの手入れが主な彼の仕事だ。
そこにヨーロッパへ一人旅にでていたはずの末娘のロージー(山口まゆ)が帰ってきた。どうやら旅先で出会った男性との恋に やぶれ、心の傷を癒すために家族の元へ戻ってきたようだ。
プライス家は六人家族。長女のピップは教育局で働くキャリアウーマン、長男のマーク(市川知宏)は IT 系のエンジニアで 次男のベン(入江甚儀)は金融関係で働いている。どこにでもある家族の会話と風景がそこにある。一家を切り盛りする母親 を中心に皆が家族を想い、慈しみ合っている。とても明るい活気のある家族。しかし、それぞれがなかなか家族に言い出せない 悩みや問題を抱えていた。
一番近いはずの家族、でも実はもっとも遠い存在と感じることがある「家族」。打ち明けられない悩みや、本当に言いたいこと が伝えられないもどかしさ。そして本当は愛していると伝えたいのに、感謝しているのに、それがことばにできない時、あるいは意図 せずに酷いことばを投げつけて、傷つけ合ってしまう家族との関わり。
わたしたちの人生はこんな痛みや悲しみや、もちろん喜びもですが、家族や人との関わりの中で経験し、自分が「わかっていること」、自分にとって「本当のこと」のリストを増やしていくのでしょう、決してそれを知らなかった頃には戻れないことを知りながら・・・・。
春・夏・秋・冬・・・、そして春・・・。再び巡ってくる季節、木々や花たちは1年前と同じように芽吹き、花は咲く。しかし、その 春は1年前の春とは確実に違う春なのです。
この物語はそんな家族のとある1年間の物語です

概要
日程・会場:2023年6月30日(金)~7月9日(日) 東京芸術劇場 シアターウエスト
作:アンドリュー・ボヴェル
翻訳:広田敦郎
演出:荒井遼
出演:南果歩、栗原英雄、山下リオ、市川知宏、入江甚儀、山口まゆ

公式サイト:https://tspnet.co.jp/whats-ons/koredake/

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