津山恵子のニューヨーク・リポート Vol.11 幸福感に包まれた日 NYプライド・パレード

幸福感に包まれた日 NYプライド・パレード

「気をつけて、行ってきてね」  

6月25日、恒例のニューヨーク・プライド・パレードに向かうと近所の人に話すと、皆にこう言われた。  

性的少数者であるLGBTQ社会の権利と平等を祝う年に一度の祭典、プライド・パレード。過去10数年、毎年取材してきた。ところが、今年は6月のプライド月間を迎える前から、保守的な反LGBTQ派の不穏な動きが相次ぎ、嫌な予感がしていた。  

米国で最も売上があるBud Lightは5月、首位の座をModelo Especialに譲った。Bud Lightを売るアンハイザー・ブッシュが4月、トランスジェンダーのTikTokスター、ディラン・マルバニーを使ったキャンペーンを打ったところ、保守派によるボイコット運動が起きたためだ。同社の株価は下落し、マーケティング担当幹部が退社を強いられた。  

また、過去10年、LGBTQ関連のディスプレイやグッズを5、6月に売っていたターゲットも、反LGBTQ派の「標的」になった。「Queer, Queer」「I’m not a girl」と書かれたTシャツなどグッズは2,000点に及ぶ。しかし、反LGBTQ派の客と従業員との間で口論が起き、グッズが床にばら撒かれたりする事件が起きた。同社は5月下旬、「従業員の安全を守りたい」として、保守派市民が多い州でグッズを売るのをやめた。  

ニューヨークは、アメリカにおけるゲイの人権運動発祥の地でもある。しかし、その原点であるゲイバー「ストーンウォール・イン」でさえ、レインボーフラッグが破棄される事件が起きた。  

ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)によると、今年6月初旬までに41州で525本以上の「反LGBTQ」法案が議会に提出されている。トランスジェンダーが手術を受けられなくなり、LGBTQの子供が学校から送り返されるケースさえある。  

逆に、ニューヨーク市は、世界で最もLGBTQに優しい都市。LGBTQの権利を守る規則や制度が整っており、ホーカル・ニューヨーク州知事は、トランスジェンダーの安全を守る法案に署名した。プライド月間中は、マクドナルドの前にレインボーカラーの大きな旗が翻り、洒落たバーでは「プライド・ドリンク」、ケーキ屋では「レインボー・ケーキ」も登場。レストランに「Love is Love」というポスターが貼られる。  

沿道を埋め尽くした笑顔。子供の姿も目立った。Photo Keiko Tsuyama

プライド・パレードでは、色彩豊かなコスチュームの参加者7万5千人が練り歩き、約200万人が沿道を埋めた(ニューヨーク・タイムズによる)。

「ハッピー・プライド!」と叫ぶ人々の笑顔、笑顔。風に高く舞い上がるレインボーカラーの大量の紙吹雪や、企業の山車から絶え間なく噴き出されるシャボン玉。目頭が熱くなった。200万人の笑顔に囲まれ、幸福感を太陽の日差しのように肌で感じる。それは、ニューヨークだからこそのインクルーシブな意識が育まれているからだ。 (文と写真、津山恵子)

津山恵子 プロフィール

ジャーナリスト。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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