Mr. Melody【杉真理 最新インタビュー②】大瀧詠一、佐野元春、竹内まりやを語る  大好評!杉真理インタビュー第2回!

『Mr. Melody【杉真理 最新インタビュー①】僕はずっと “アンチ歌謡曲” です』からのつづき

5月5日に初めての自伝となる『魔法を信じるかい ミスターメロディ・杉真理の全軌跡』(DU BOOKS刊 / 著:杉真理 構成:佐々木美夏)が発売。昨年リリースされた『Mr. Melody〜杉真理提供曲集〜』も好評な日本屈指のメロディメイカー杉真理。インタビュー第2回では、佐野元春、竹内まりや、川原伸司など、これまで出会い、互いに影響を受けた人々との関わりや、大きな転換期にあった『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』への参加についても語ってくれた。

杉真理が語る佐野元春の音楽性とは?

―― 杉さんがデビューして間もない頃の佐野元春さんとの出会いの話も興味深かったのですが、佐野さんの音楽性をどのように捉えていますか?

杉:彼の音楽はみんなが思っているよりも幅広くて、いろんなチャンネルがあると思います。本当に才能があるし、最初に「Bye Bye C-Boy」を聴いた時はぶっ飛びましたね。彼が大学生になったばかりの時かな?

―― これが後々の『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』につながっていくのですね。

杉:そうですね。佐野君には僕と近いものを感じます。音楽の話をすれば盛り上がるし、お互い色々なものを聴いてきたし。ただ、佐野君の音楽は佐野君が主人公で一番輝く。僕は主役ばかりだと飽きてしまう。脇役もやりたいタイプなので。脇役だったり、監督だったり…。作品は主役ありきですが、それだけでは成り立たない。僕はついつい欲張りで色々とやってみたくなる。

でも、佐野君の音楽は佐野元春が主役で、真ん中で歌って、表現することで一番輝くと思います。だから彼の幅広い音楽的趣味は隠し味として彼の表現の中に出てくる。僕は、そんな隠し味の部分を真ん中に持ってきて誰かに歌ってもらう。僕が主役ではないな、という曲も作りたくなってしまうので。

―― そういうスタンスだから杉さんは色々な人への楽曲提供が出来たり、CMに提供したりというのがあるのですね。

杉:そうですね。逆にそういう仕事をやっているうちに、そんな気持ちになったのかもしれません。僕はたまたま作曲の仕事やCMの仕事を与えられたので、この部分での楽しみというのが分かってきました。

ポップスの大切な要素のひとつを教えてくれた竹内まりや

―― 話は変わりますが、大学の後輩である竹内まりやさんについても、色々お書きになっていますよね。

杉:彼女との付き合いはもうすぐ50年になります。

―― まりやさんからは、どのような影響を受けましたか?

杉:あまりにも身内すぎて、彼女の音楽は正しく語れないような気がして。逆にね、まりやが昔、僕のライブを観に来てくれた時、「杉さんがステージに出てきて、みんながわーっと盛り上がると泣けてきちゃうのよね」と。もう僕にとっては保護者ですね。「お母さん嬉しいわ」、「お兄ちゃん、頑張ったね」という視点で彼女は僕のことを見てくれていると思います。

あまりにも身近すぎて兄妹みたいなので、まりやの作品には音楽的な冷静さで喋れない自分がいるのがあります。一度、(山下)達郎君と話した時に、「この子(まりや)曲作れると思った?」と聞くから、「全然思わなかった」って言ったら、「やっぱりね」と(笑)。それが、これだけ国民的な歌手になって、僕も「みんな、まりやの曲を聴いてくれるんだ」という兄貴みたいな気持ちになりますね。だからひとりのアーティストとして聴けない気持ちがありますね。

―― そんな間柄でも知らないうちにお互いが影響を受けている部分があると思うのですが。

杉:あります、あります。僕が『魔法の領域』というアルバムの中で、「僕らの日々」という曲で、まりやに詞を頼みました。僕は自分の楽曲の中で、自分ではない人に作詞をお願いしたのが4曲しかないんです。

そのうちの1曲ですが、まりやの書いてきてくれた詞に僕は絶対にこういう言い方をしないというフレーズがあったので、ちょっと反発しました。「世渡り上手の大人なんか」という歌詞でしたが、僕の中に「世渡り上手」という言葉はないんですよ。世渡り上手をしようなんて気に一度もなった事がないので。だから「世渡り上手」について彼女と何度かやりとりがあった。

その時に「私は下世話なんですよ」って言うわけ。もちろん謙遜して言ったのですが、よく考えたら、下世話というのは分かりやすいという意味で、まりやが多くの人に受けている大事な要素だと思うんです。誰にも分かりやすくて、気持ちの中に入った後の深さはその後の話ですが、とにかく分かりやい言葉で心の奥に忍び込むというのは大切だと分かりました。「なるほど! まりやはそうなんだ!」と勉強になりました。

―― ポップスの大切な要素のひとつですよね。

杉:そうなんですよ! やはり自分が頭でっかちになっていたところがあったんですね。だから勉強になりました。今もその言葉を歌っています。

―― 杉さんにとって、歌詞の師匠が須藤晃さん、作曲の師匠が川原伸司さん(共に音楽プロデューサー)と言っていましたが。

杉:僕にとって二人は結構直球を投げてくるんですよ。いい感じの直球だから抵抗をせずに受け入れます。例えば、川原さんから「このメロディ、ちょっと弱いな」と言われると、それが結構当たっているんです。確かに弱いなと思っているところを突かれますね。大抵のミュージシャンは「そこがいいんですよ」と言い返すと思いますが、言い返せないほど、ドスッときますね(笑)。

―― それは杉さんと川原さんがメロディに対して同じ見方をしているということですか?

杉:そうですね。コード進行とかも「コードはこれじゃねぇだろ」とかね。

―― 逆に川原さんの曲はどうですか?

杉:僕も言いますよ。川原さんは川原さんで、「どうせ杉に聞かせても評価しないだろ」と思っているかと。例えば、「少年時代」なんていう名曲も、僕にはずっと教えてくれなかった。後で知ったんです。それで、「この曲大好きです」と最近ようやく伝えました(笑)。

影のテーマがマージービートだった「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」

―― ここからは杉さんの転換期である『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』について詳しくお聞きしていきます。このアルバムで杉さんの音楽に初めて触れた人も多いと思います。このアルバムの参加が、その後のキャリアにどのような影響を及ぼしましたか?

杉:まずは、「好きなものを好きと言って何が悪いんだ」ということですね。このアルバムの収録曲でもある「Nobody」は、当初ボツになりかけていたんです。それを大瀧(詠一)さんが拾ってくれた。他のスタッフは、「ビートルズっぽい曲は若い人に響かない」と言っていた。僕も「あぁそうだよな、解散してまだ10年ちょっとだし、一番古臭いと思われるんだろうな」という感じがあったので、これはボツでも仕方ないなと思っていた。そんな矢先、大瀧さんが「これで行こう」と言ってくれた。そのビートルズっぽい「Nobody」で僕を知ってくれた人がこうやっていらっしゃるわけですから。

―― 素直にカッコイイと思いました。後々ジョン・レノンが亡くなった時の衝撃から書かれた曲だということを知って。この曲には少年の疾走感というか、魂が剥き出しになっている部分もあるし、それでメロディはポップだし、うまく中和されている魅力があります。この本にもありましたが、このアルバムがリリースされた80年代の前半って、ビートルズが好きと大きな声で言えなかった時代でしたよね。

杉:そういう時期でしたね。頭でっかちな僕らの周りは特にそうでしたよね。

―― 僕は当時ビートルズって、優等生が聴く音楽というイメージがありました。

杉:そういう人もいましたね。教科書に載っていたからね。今の若い人に聞くと、ビートルズは優等生の音楽だと思っていたけど、知れば知るほど不良の音楽だと。反骨精神があって、人種差別のことにも階級差別のことにも言及していた。かなりの尖った若者でしたね。

―― 楽曲作りについても、ソングライティングもメンバーが担って、それまでの分業制がなくなったわけですからね。レコーディングも自分たちがやって…。

杉:そうですよね。今の音作りのOSをほとんど作り上げたのもビートルズだったので。

――『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』は、影のテーマがマージービートということですよね。やはり大瀧さんですからフィル・スペクター的な印象が強いのですが、佐野さんの「彼女はデリケート」はエディ・コクランのようなイメージがあって、杉さんがマージービート担当という印象があります。

杉:裏テーマがマージービートというのが、ずいぶん後になって大瀧さんから聞きました。まぁ正しく大瀧さんが目論んでいたことを僕がやっちゃったなと。大瀧さんの「白い港」は、後で分かったのですが、フィル・スペクターのプロデュースでビートルズの「Hold Me Tight」をカバーしているザ・トレジャーズというバンドがいて、実はそれが大きな元ネタになっています。

大瀧さんは、ずいぶん後になってから佐野君と僕に「君らはいいよね。ダイレクトにビートルズが表現出来て。俺らは出来ないんだよ…」と。やりたいけど、世代的にも屈折しているんですよ。だから、一度屈折したマージービートでこのアルバムの収録曲を作り上げた。佐野君は、ビートルズにかなり近寄っている。僕はもうそっちに行っちゃったから。だから、大瀧さんは多分「してやったり!」と思っていますね。

―― このように音楽的な役割分担が明確なアルバムだったと思いますが、3人の精神的な役割分担はありましたか?

杉:そうですね、やはり大瀧さん、佐野君は理論武装をしてバッチリというタイプですが、僕は「だって好きなんだもん!」という感じで自由にやらせてもらいました。だからそう言った意味では、佐野君の方が年下だけど、あの時点では佐野君が長男で、僕が次男という印象を持っていました。

若いミュージシャンに大きな影響を与えた「STARGAZER」

――『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』が82年で翌年には『STARGAZER』という素晴らしいアルバムがリリースされますよね。これは、ここまでの杉さんのキャリアの集大成的アルバムと言ってもよいですか?

杉:そうですね。

――『STARGAZER』にはマージービートと未来感が共存していますよね。音も重厚だし、次の世代に放っているという印象があります。

杉:その意識は全然なかったですが、当時はやりたいことがいつ出来なくなるかわからないからやっておこう、という気持ちで作りました。いろんなタイプの曲をここでやろう!ということで。

―― このアルバムが後進に与えた影響について考えることはありますか?

杉:この前も『STARGAZER』の全曲ライブをやりましたが、若いミュージシャンが結構来てくれまして。ボヘミアンズでギターを弾いているビートりょう君なんかも来てくれましたが、このアルバムがリリースされた頃、彼は生まれてないんじゃないかな。外崎銀河君という23歳のキーボーディストでシンガーソングライターも僕のアルバムを集めてくれていて…。そういう人たちが後に登場するなんて思いもよらず作っていたので。あの頃の僕からしたら信じられないです。

―― 杉さんはソロ活動と並行してバンドもいくつかやられていますよね。BOX、Piccadilly Circusなど。バンドとソロの一番大きな違いはどこにありますか?

杉:バンドにはバンドとしてのパーソナリティがひとつあります。このバンドにしか出来ない曲とか、やってはいけない曲とか。縛りがあって。

―― それは、ソロの時とは違うものですか?

杉:全然違いますね。例えばボックスの場合は、リーダーがいないバンドです。色々なことを民主的に決めなくてはいけない。そういう部分はビートルズと似ているかもしれないです。Piccadilly Circusは僕がリーダーなので、また立ち位置が違います。だからこのバンドで出来ない曲をソロに回したりもします。逆にソロでしか出来ない曲というのもバンド活動を通じて分かることがありますね。

カタリベ: 本田隆

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