大山登山「初心者向けと思えない」 準備不足で事故続出 山岳救助隊パトロールに記者が同行

チェーンに捕まりながら岩の上を渡る登山者=6月7日、伊勢原市の大山

 新宿駅から約90分と都心から気軽にアクセスができる伊勢原市の大山(標高1252メートル)は、日帰りで自然を楽しめる観光地として登山客に人気を集めている。ただ、登山届を出さずに訪れる人も少なくなく、さらに準備不足で遭難や事故に遭うケースが続出している。本格的な夏の到来を前に、現場をパトロールする県警山岳救助隊に記者(27)が同行した。

 アジサイが初夏を彩る6月、朝方まで降っていた雨はやみ、快晴で絶好の登山日和となった。上司から登山の危険箇所の随行取材を求められたのは前日のことだったが、体力に自信がある記者は意気揚々と山の麓に降り立った。この日はケーブルカーが休みで登山客は少なかったが、7年ぶりの登山に心は躍っていた。

 大山はケーブルカーで標高約700メートルの大山阿夫利(あふり)神社下社まで登ることができ、ネットで検索すると「初心者向けの山」「登山を始めたばかりでも楽しめる」との紹介文が出てきた。確かにすれ違う登山客は本格的な登山ウエアを着ている人もいれば、半袖、短パン、スニーカーといった軽装者も少なくなかった。

◇上司の誘い断れば…

 山道を歩いて20分ほど。息は上がり、会話する余裕はなくなっていた。上司からの誘いを断れば良かったと思ったが、もう後には引けない。傾斜の厳しさに加え、ごつごつした岩や木の根、雨水を含んで滑りやすい斜面。歩きにくい地面に体重をかけるたび、じわじわと体力が奪われていく。

 右足のくるぶしにピリッとした痛みを感じると、3センチほどのヒルが血を吸っていた。

 記者のはいていたズボンは9分丈で、靴下との間に肌が露出する隙間があった。出血はしばらく止まらない。心が折れそうになりながら、登山用の服装の重要さを身に染みていた。

 休憩場所に着いた時には、汗で服がビショビショになっていた。率いてくれた山岳救助隊の北條保徳警部補には「喉が渇いたとか、おなかが空いたとか思う前に水分や栄養を摂取することが大切」と教えられた。すでに喉はからから、空腹も感じていたので、慌ててカバンの中からペットボトルとゼリー飲料を取り出した。

 歩き出して3時間後、山頂に到着すると、広大な大地と青々とした相模湾の眺望が広がっていた。カップルで訪れていた東京都在住の女性(26)に声をかけると、「初心者向けとは全く思えない」と苦笑し、「傾斜が思った以上にあったし、斜めになっている岩の上を渡っている時は転びそうになった。登山用の靴は必要だと思う」と汗を拭った。

 記者も深くうなずいた。

 「この山は初心者向けなのだろうか─」と。

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