金沢工業大学~プロジェクトデザイン教育を柱に就職率トップを堅持。「コーオプ教育」により企業の一員としてさらに実践力を磨く

最新の就職率99.9%(2023年3月卒業生実績)、大学就職率ランキングでは不動の首位を獲得している金沢工業大学。「自ら考え行動する技術者の育成」を教育目標に掲げ、チームで問題の発見から解決までの過程・方法を実践しながら学ぶ「プロジェクトデザイン教育」を独自に展開している。さらに2020年度からは、学内の講座と企業での就業体験を融合させた「コーオプ教育プログラム」を開始。産学共同教育の充実を図っている。大学事務局進路開発センターの二飯田一貴次長に、各プログラムについて伺った。

ビジネスパーソンとしての基礎力を養い

「自ら考え行動する技術者」を輩出

「本学では、プロジェクトデザイン教育(PD教育)を専門科目の上位に位置づけ、“人の話を聴く、自分の意見や考えを相手に的確に伝える、議論した内容をまとめる”といったビジネスパーソンとしての基礎力養成に力を入れています。当然ながら、専門分野のカリキュラムは充実させていますが、学んだ専門知識を社会で活かすためには、顧客が何を求めているのかを考え、解決に向けてチームで協働する力が欠かせません。だからこそ、PD教育で身に着けたことが、就職活動では『自分の強み』や『学生時代に力を入れたこと』として生きてくるのです」

近年、中学・高校でも「探求学習」として、課題の発見と解決に向けた主体的・協働的学びに重点が置かれるようになり、全国の大学では課題解決型学習(PBL=Project Based Learning)の導入が進んでいる。しかし、金沢工業大学ではこうした潮流が起こる以前の1995年からPD教育への取り組みを開始、すべての学科で導入するなど先んじて手を打ってきた。これこそが“就職に強い大学”の基盤になったといえるだろう。

加えて、いま注力しているのが、一歩進んだ「イノベーションを起こせる人材」の養成だ。政府が提唱するソサエティ5.0が目指す、バーチャルとリアルが高度に融合した新時代の技術者には、革新性が求められる。そこで、国際的な研究機関として知られるSRIインターナショナル(スタンフォード大学より独立)と共同で「SRIワークショップ」を企画。2014年度から毎年3月と9月に、2日間の日程で、スタンフォード大学のイノベーション創出ノウハウを実体験する機会を提供してきた。参加者は例年150~200人にのぼるなど好評を博し、2023年度の入学生からは、このワークショップを前身とした学習が3年次の必修科目となるという。

「これにより、さらに強固な学びの流れができました。1~2年次にPD教育で基礎固めをして、3年次の前期でSRIのノウハウを学習。後期から研究室に所属して研究テーマを深めながら、4年次で企業など外部とつながりを作り、共同研究などを通じた実践を行います。これまで以上に、顧客ニーズを意識した技術者の育成が可能になるでしょう」と二飯田次長は力をこめる。学生一人ひとりに世界水準の教育を実践することで、「イノベーション力」を身につけたグローバル人材を目指していく。

企業と大学が共同でプログラムを策定

長期の就業体験でリアルを学ぶ「コーオプ教育」

PD教育プログラムで培った力を、実践・応用する場として導入されたのが「KITコーオプ教育プログラム」だ。コーオプ教育(Cooperative Education.)は「大学のカリキュラムと、これと同レベルの高い完成度の教育価値を持つ就業体験」が融合したもので、20世紀の初めにアメリカで始まった産学協同教育だ。金沢工業大学では2020年から導入し、世界標準コーオプ教育(CWIE)に準拠したプログラムとしては、国内で初めての実施となった。

一般的なインターンシップと異なるのは、企業主導ではなく、教育主導の「正課教育」である点。また、大学と企業が共同でプログラムを策定していることだ。学生は企業から報酬を得て業務に従事し、指導教員と企業側の実務家教員によって、総合的な学修評価が行われる。

プログラムの流れとしては、まず、企業の第一線で活躍する技術者を実務家教員として招き、事前教育(全7回の寄付講座)を行ったあと、学生を選抜。選ばれた学生が4ヶ月から1年にわたって、企業で一社員として実務に従事する。学生は派遣先の企業で、最先端の技術に触れながら、実社会の課題を発見しその解決に取り組むことで、理論と実践の両方を効率的に学んでいく。

「短期の就業体験ではお客さま扱いで終わってしまいがちです。しかし、このプログラムでは、長期間社員として雇用して頂くかたちになるので、上司や先輩の指導を受けながら、組織の一員としての姿勢や、チームでの仕事の進め方を身につけることができるのです」

現在、コーオプ教育プログラムの協力企業はNTT西日本、鹿島建設、NECグループなど10数社、企業からの問い合わせは年々増えているという。加えて、研究室の指導教員の推薦により、特定の研究を行うために企業へ派遣されるケースもあるそうだ。

実際に参加した学生のなかには、大学での研究に関連する業務で成果を出した学生、企業とマッチングし就職を決めた学生、知識を深める必要性を感じ大学院進学をした学生もいるという。学部4年次または大学院生が対象だが、参加希望の学生は着実に増えている。

「学内ではすっかり定着し、寄付講座を受講する学生のあいだでは“選抜されたい”と競争意識も生まれているようです。現在は情報系の学科を中心に実施していますが、早期に全学科に導入できるよう準備を進めています」

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