野菜づくりは社会づくり、nestが鴨志田農園から社会課題の解決方法を学ぶ(前編)

鴨志田農園で説明を聞くnestのメンバー(東京・三鷹市、写真はいずれも6月17日のフィールドワークの様子)

東京・三鷹市にある鴨志田農園は、会員が各自のコンポストケースで生ごみを一次処理し、その後農場で二次処理をした堆肥から野菜づくりをしている。消費者に「野菜が美味しい」という間口から興味を持ってもらい、ライフスタイルに資源循環を組み込んでもらうことに成功している。同じ志を持つ若い世代が共創し、アクションを起こすサステナブル・ブランド ジャパンのユースコミュニティnest [SB Japan Youth Community]は、5月と6月のプログラムで鴨志田農園について学び、現在の農法と活動に至った経緯、堆肥づくりや社会課題解決に向けた視点の持ち方など、鴨志田農園を経営する鴨志田純氏の話に聞き入った。前編と後編で紹介する。

今回nestは、鴨志田農園の野菜づくりから持続可能な社会を考察。都市で資源を循環しながら農作物を作っている鴨志田農園の手法から、どのような視点を持ち、社会課題解決に向き合い取り組んだらよいのかを学んだ。プログラムは、5月20日に事前学習、6月17日にフィールドワークが行われた。

生産者と消費者は対等な関係性にある

オンラインのみで開催した事前学習には21人が参加。鴨志田氏の講演は、質疑応答を挟んで前半と後半に分かれて行われた。

冒頭、鴨志田氏は、自分にとって「どういう野菜をつくるか」は「どういう社会をつくるか」ということだと話した。数学の教師だった2014年に実家の農園を継ぎ、その後2018年には教師を辞めて専業農家となった。ECサイトで農産物を販売するほか、地域が支える農業「CSA(Community Supported Agriculture)」を展開している。CSAは、会員となった消費者が、生産者と農産物の種類や価格等について、代金前払いで契約を結ぶため、生産者は年間で資金が得られるので作付けや販売計画が立てられやすく、生産に注力できるというメリットがある。

鴨志田農園は現在、40世帯の会員と共に生ごみから堆肥を作り野菜を生産する、資源循環型のCSAを実践。さらに、生産者と消費者の在り方として、「リスクの共有」と「対等な関係性」であることを目指している。台風などの災害で農作物を生産できない地域があれば、消費者もその農作物を食べられないのだと思い至り危機感を持つこと。また金銭を支払うから消費者が偉いというわけではなく、対等な立場でやり取りすること。鴨志田農園ではそういった関係性ができているという。

鴨志田氏は、生ごみから堆肥を作るコンポストの可能性として、「防災機能性」「イノベーションの触媒性」「コンポスト葬」の3つを挙げた。コンポストは災害時にトイレとして使用でき、これからの社会制度設計のキーワードである「フェーズフリー(緊急時も平常時でも活用できる機能)」を満たすという。また、コンポストをきっかけに集まってくるさまざまな専門家の「現代の社交場=コミュニティ」となり、イノベーションが生まれることを期待できる。最後の「コンポスト葬」は遺体を堆肥化する考えで、すでに米国では事業として認めている州があるという。

取り組みテーマは「教育×農業」、ごみ捨て場で働く子どもたちがきっかけ

なぜ、鴨志田氏はコンポストに注目したのか。それは中学2年生の時に、青少年赤十字海外プログラムでラオスに行ったことが原体験となっている。鴨志田氏が支援物資を届けに行った学校は、トタン屋根で雨漏りをしており、木の机や椅子は腐り、一つの教科書を3人で使っていたという。「その時、自分が受けていた教育は当たり前でないと気づいて、教師になろうと決めた」と当時を振り返る。その後、バックパックで世界中を旅し、旅から見えた社会問題をどうやったら解決できるか考え続けた。

訪れたネパールに触れ、「世界の90パーセントはごみを埋めている。なぜ埋めるかというと、水分を多く含む生ごみが混ざっているから。燃やすのは日本だけ」だと話した。「日本の生ごみは95-98%が水分で、水を燃やすようなもの。そのために生ごみ1トン当たり760リットルの徐連材を輸入して、6000億円の税金がかけている」と指摘する。だが、埋め立てにも問題があるという。埋立地に刺さっている塩化ビニル管は、生ごみ由来のメタンガスを抜くためだ。つまり自然発火してしまう恐れがあり、ごみの山は“スモーキーマウンテン”と呼ばれている。

鴨志田氏
5月20日当日資料より

こうした問題に鴨志田氏が気づいたのは、アジア各国のスラム街やゴミ捨て場などの貧困地域を取材し支援を行っている池間哲朗氏のドキュメンタリー番組を見たときだったという。「あなたの夢はなんですか?」と問われ、悪臭が漂うフィリピンのスモーキーマウンテンでごみ拾いをする少女が、劣悪な環境で働いている自分は、長く生きられないと考えているから「私の夢は大人になるまで生きること」だと答えた。その内容をまとめた池間氏の著書『あなたの夢はなんですか?』を読み、大きな影響を受けたという。

以来、鴨志田氏の取り組みテーマは「教育×農業」となった。「社会課題解決には長期的に関わること、自分の国でアプローチすることも大事。『シンクグローバル、アクトローカル』という考え方がいい」と力を込める。農業を始めて2年、ネパールからメールで問い合わせが来たことから、ネパールの教育に関わることになった。会いに行ってみると、相手は外国人で初めて日本の小学校の教員免許を取った教育者で、「子どもたちの働き場所を作りたい」と相談を受けた。ネパールでもフィリピン同様に、スモーキーマウンテンという社会問題があった。

鴨志田氏はネパールで古くから行っている自然由来の堆肥技術を参考に、生ごみを分別して堆肥化する有機農業を提案した。専門家に技術を教わるため、教師を務めながら金曜日夜から日曜日夜まで8カ月三重県に通い、技術をネパールに伝えた。この活動はECO system(E:Education、C:Compost、O:Organic agriculture)というネパールの政策になっている。

講演前半の最後に鴨志田氏は、「不確定要素が多い時代で、未来を良くしていくのは実際とても難しい。チャンスや誰かから相談があった時に『的確に打ち返す』という技術が必要で、このやり方が正しいとひとつ決めてしまうと視野が狭くなる。鴨志田農園のやり方を、いくつかある選択肢のひとつとして見てもらえたらいいかと思う」と結んだ。

義務教育は技術家庭科でいい

その後、nestのメンバーから、「教育の制度自体に農業を組み込むことで、子どもが技術を身につけ将来的にも稼げると思う。だが、既存の教育制度に組み込んだり、農業に関する教員の専門知識や土地や設備など整えたりしなくてはいけないが、実現の可能性はあるか?」「自分の周りに農家がいなくて、農業に対して距離を感じる。だが一方で、農業に火がついたら爆発的に若者世代に広がるような気がしている。教育以外に取り組み方はあるのか?」などと質問があった。

鴨志田氏は、小学校で堆肥の授業をしているという。都心には馬術部が多く馬糞が活用できるので、馬糞を堆肥化し野菜づくりをしている。また、一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパンの支援により、東京都多摩市立愛和小学校が学校菜園から「食」を学ぶ授業をしていると紹介し、「個人的には、義務教育は国語や算数などを中心にするのではなく、実生活に役立つ技術家庭科を教えるべきだと思う」と付け加えた。またもうひとつの質問に対して、「若者だけでなくて、あらゆる世代の消費者と食の現場との接点はなくなっている。自分で食べ物を作ってみると農業がよくわかる」と答えた。

続きは後編へ

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