M&A支援登録機関の実態、「成約ゼロ」が7割超

2023年度の登録数は最多の3133件

中小企業庁が公募している2023年度(5月分まで)のM&A支援登録機関が3,133件となり、過去最多を更新した。中小企業が安心してM&Aに取り組む基盤となる登録制度が浸透した形だが、支援機関の大半は成約実績を持っていない。登録数はさらに伸びそうなものの、中小M&Aの活発化にどう結び付けるかが課題となっている。

M&A支援機関登録制度は2021年8月に運用開始。経済産業省が策定した「中小M&A推進計画」に基づく取り組みで、二度の公募を実施した初年度は2,823件のフィナンシャル・アドバイザー(FA)と仲介業者が登録した。翌年9月にスタートした2022年度公募は12月分(2,887件)までで前年度の登録数を上回り、年度末時点で3,117件に上った。

中小企業庁「令和5年度公募(5月分)における登録について 別紙2」より引用

登録数が伸びた背景には、国の事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用事業)の対象となるM&A仲介手数料などへの補助が、支援機関の提供するサービスにしか適用されないという事情がある。一方、3,133件のうち2割余りの681件はM&A支援業務専従者数が1人もいない。さらに、全体の約半数に当たる1,568件は「1~2人」にとどまっている。

また、支援機関の設立年代も「2020年代」「2010年代」が9割近くの計2,767件に達し、専従者数が少なく業務経験も浅い事業者が大半を占める。支援機関として得られる実質的なインセンティブは事業承継・引継ぎ補助金を活用できることしか見当たらないため、支援機関の増加が中小M&Aの掘り起こしに直結するとは考えにくい。

成約ゼロが7割、登録継続は書類提出のみ

中小企業庁がまとめたM&A支援機関登録制度の実績報告を見ても、2021年度に登録した2,823件の事業者のうち、同年度中にM&Aの最終契約に至ったのは723者と3割にも届かない。成約実績のなかった1,971件はデュー・デリジェンス(買収監査)など特定の工程を支援した活動報告を提出したが、残る129件は未提出(書類不備9件を含む)だった。

マンパワーもノウハウも乏しい事業者が成約までサポートする機会を得るのは困難と言わざるを得ないが、支援機関は実績報告か活動報告の提出時に登録継続申請書を提出すれば次年度の登録を継続できる。そのため、支援機関であり続けること自体はさほど難しくないが、成約実績のない事業者が圧倒的に多い状況が続けば登録制度の形骸化も懸念される。

成約実績の8割は仲介業者

また、実績報告で上がったM&Aの契約数は譲渡側3,403件、譲受側3,275件の計6,678件だが、支援機関にとってメリットがあるはずの事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用事業)の申請数は毎回1,000件に到底及ばない。公募回数を重ねるごとに減少傾向も見られるが、支援機関に対する申請の働き掛け強化など当局が抜本的な対策に乗り出す動きは鈍い。さらに、成約実績はM&A専門の仲介業者に偏っており、4,109件と全体の約8割を占めている。

中小企業庁「実績報告 | M&A支援機関登録制度」より引用

支援機関の種別は仲介とFAがほぼ6対4の比率だが、仲介に次ぐ1,210件の成約を達成したのは登録数が100件に満たない金融機関だ。中小M&A市場で支援機関の存在感を高めるためにはFAや士業等専門家、コンサルタント会社などの活躍が不可欠となる。

最低手数料の最頻値は500万円

一方、支援機関にはさまざまな業種・業態が参入しており、M&Aプロセスの手数料体系・算定方法も統一されていない。中小企業庁の調査によると、2021年度の成約実績を報告した事業者が設定する最低手数料の最頻値は500万円だった。次いで多かったのは2倍の1,000万円。また、成功報酬の算出でレーマン方式を採用している割合は、全体で84.1%だった。

中小企業庁「実績報告 | M&A支援機関登録制度」より引用

国は支援機関の質の確保・向上による適切な取引環境の整備を目指し、中小M&Aガイドラインの改訂作業を進めている。国内初で唯一のM&A仲介業界自主規制団体であるM&A仲介協会(代表理事・荒井邦彦ストライク社長)も公正・円滑な取引の促進を掲げ、2023年度はM&Aアドバイザリー業務に係る責任賠償保険制度の創設などの施策を展開する。

文:M&A Online

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