ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた神秘的な星形成領域 科学観測開始1周年記念画像が公開

こちらは地球から約390光年離れた「へびつかい座ロー分子雲領域(Rho Ophiuchi cloud complex)」の一部です。画像の横方向の範囲は満月の見かけの直径の5分の1程度に相当します(視野は6.65×6.23分角)。へびつかい座ロー分子雲領域は「へびつかい座」から「さそり座」にかけて広がる星形成領域で、近くには名前の由来になった「へびつかい座ロー星」や、さそり座の1等星「アンタレス」があります。

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測された「へびつかい座ロー分子雲領域」の一部。ウェッブ宇宙望遠鏡の科学観測開始1周年を記念して公開された(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, K. Pontoppidan (STScI), A. Pagan (STScI))】

この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で取得したデータをもとに作成されたもので、ウェッブ宇宙望遠鏡の科学観測開始1周年を記念して公開されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています(※)。

※…この画像では1.87μmを青、2.0μmをライトブルー、3.35μmをシアン、4.44μmを黄、4.7μmを赤で着色しています。

星形成領域とはその名が示すように新たな星が形成されている領域で、“星のゆりかご”と表現されることもあります。ウェッブ宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、画像で示された範囲には約50個の若い星が含まれており、その大半は質量が太陽と同程度か太陽よりも軽いといいます。星形成領域のガス雲は豊富な塵を含み、星を形成しつつある特に高密度のガス雲は暗い部分として写っています。

鮮やかな赤は水素分子のジェットを示しています。ジェットは若い星からガス雲を突き破るようにして双極方向に放出されたもので、STScIは新生児が伸ばした両腕に例えています。画像の上側には水平方向に、右側には垂直方向に放出されたジェットが写っています。

また、画像の下半分には明るい部分が広がっています。STScIによると、この部分はその中央で輝く「S1」と呼ばれる太陽よりも重い星の恒星風によってガス雲が侵食され、洞窟のように彫り込まれています。S1を取り囲む明るい色のガスは宇宙で一般的に見られる多環芳香族炭化水素で構成されています。

【▲ 動画で見る「へびつかい座ロー分子雲領域」】
(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, K. Pontoppidan (STScI), A. Pagan (STScI), N. Bartmann (ESA/Webb); Music: Stellardrone - Twilight)

2022年7月の科学観測開始からまだ1年ですが、ウェッブ宇宙望遠鏡はすでに観測史上最遠クラスの天体や太陽系外惑星の大気組成、身近な太陽系の惑星などに関する重要な観測データをもたらしました。得られたデータによって解明された謎もあれば、新たな疑問も提起されており、2年目に入ったウェッブ宇宙望遠鏡による今後の観測結果も引き続き注目を集めそうです。

ウェッブ宇宙望遠鏡の科学観測開始1周年記念画像はSTScIをはじめ、アメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)などから2023年7月12日付で公開されています。

Source

  • Image Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, K. Pontoppidan (STScI), A. Pagan (STScI)
  • NASA \- Webb Celebrates First Year of Science With Close-up on Birth of Sun-like Stars
  • ESA/Webb \- Webb celebrates first year of science with close-up on the birth of Sun-like stars
  • STScI \- Webb Celebrates First Year of Science With Close-up on Birth of Sun-like Stars

文/sorae編集部

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