今回の韓国への措置は日本の外交史上、例を見ない汚点|和田政宗 日本外交には理念があるのかと疑問に思う事態が続いている。外交上の大チャンスを逃したり、詰めるべき点を詰めない「なあなあ外交」が行われている――。

外交上絶対にやってはならないこと

対韓国では、昨日21日に、輸出手続きを簡略化できる「グループA(旧ホワイト国)」の対象国に再指定した。韓国には、日本から輸出された軍事転用の恐れがある物資の管理体制に不備があり、平成30(2018)年に海上自衛隊哨戒機への火器管制レーダー照射が起きた翌年、この問題への解決の意思が韓国側にないことを受け実施されたものである。

今回の再指定にあたり、日本政府は韓国側の輸出管理の実効性を確認できたためとしているが、火器管制レーダー照射問題は全く解決していないなかでの措置である。

すでに、日韓通貨スワップ協定は先月、再開が決定された。通貨スワップ協定は、通貨危機時にドルなどを融通し合うものだが、日本は米国と中央銀行間で上限のない通貨スワップ協定を結んでおり、通貨危機時にはいくらでもドルを融通できる。

すなわち日韓通貨スワップ協定は、我が国には全くメリットがなく韓国を助けるだけのものだが、そもそもスワップ協定再開の交渉を中断したのは、平成28(2016)年に釜山の日本総領事館前に慰安婦像が設置された国際法違反への対抗措置であった。

これらの問題が全く解決しないまま、通貨スワップ協定も、輸出手続きグループAへの復帰も立て続けに行っているのである。これは外交上絶対にやってはならないことで、韓国側が解決しない限り再開も復帰もさせないと韓国側に決断を促すものが、韓国側がその決断を示さないのに日本が勝手に復帰も再開も決めてしまったのである。

つまり、今回のことを前例とし、韓国は、「日本が厳しいことを言ってきても時間が過ぎれば何とかなる」と判断することになる。両国間の最大の懸案である竹島問題はどうするのか。韓国側は、「解決しなくても時が経てば何とかなる」と考えるに違いない。

私は政治家としてだけでなく学問の分野においても日本外交史を研究してきたが、今回の韓国に対する措置は日本の外交史上、例を見ない汚点と言うべきものである。

「琉球館」を訪問した玉城デニー知事

そして、対中国である。中国は「琉球は中国の属国であり、沖縄はそもそも中国のものである」との主張を強めているが、日本政府はこれらの主張に対し手を打たないばかりか、助けるようなコメントを出してしまった。

それは、玉城デニー沖縄県知事が中国の李強首相と今月5日に会談したことについて、松野博一官房長官が記者会見で「歓迎する」と述べたことである。

今回の玉城知事の行動は極めて危険なものである。先月、中国共産党機関紙の人民日報は、習近平国家主席が福建省にある「琉球館」について言及したことを報じた。「琉球館」は、過去、琉球の出先機関の役割を果たし、朝貢貿易の象徴的な施設である。

そして、今回の訪中で玉城知事は習近平氏の発言に呼応する形で「琉球館」を訪問したのである。「琉球は属国であった」との中国の主張を追認するかのような行動である。沖縄県は今年4月に「地域外交室」を設置し、「沖縄独自の地域外交を進めていく」としている。

県としての国際交流であるなら分かるが「独自の地域外交」とは何を指すのか。国としての外交は日本政府が一元的に担うものであるが、玉城知事の考えている外交とは何なのか。政府は、これらを踏まえコメントすべきではなかったが、「歓迎する」と言ってしまったのである。

さらに、中国については、福島第一原発の処理水放出をめぐり、外交トップの王毅中国共産党政治局員が「汚染水」と発言し、香港特別行政区政府は、処理水放出後に10都県産の水産物を直ちに輸入禁止する計画であると発表した。全く科学的根拠に基づかない主張であり、すでに三陸などでは水産物の価格下落が始まっている。

「風評いじめ」は絶対に起こしてはならず、私は政府に対し、中国が科学的根拠に基づかない主張を続けるのであれば、中国に対し経済制裁を科すべきであると要請した。中国の主張は到底許容できず、漁業者の生活を守るためにも政府は断固たる行動を中国に対して取るべきである。

白紙に戻ったNATOの東京事務所開設

外交上の大チャンスを逃したことについても言及しなければならない。

今月中旬、岸田文雄首相はNATO(北大西洋条約機構)首脳会議に出席した。NATOが東京に連絡事務所を開設する機運が高まっていたが、中国との関係を重視するフランスのマクロン大統領の反対で、開設案は合意に至らず白紙に戻ってしまった。

岸田首相はマクロン大統領を説得して開設の合意を得るべきであったが、なぜしなかったのか。日米同盟、日米豪印クアッドに加え、日本がNATOと連携できれば、日本がアジア太平洋の平和構築のため中心的な役割を果たすことができるのにである。

NATO事務所が東京に開設されれば、侵略国からの我が国の抑止力を高めるだけでなく、アジア太平洋全体が中国、北朝鮮やロシアへの抑止力を高めることができる。

現在、日本は安倍晋三元首相の取り組みにより、地域や世界の平和構築のために日本が防衛戦略上で主導的役割を果たすことができ得る立場となった。そして、TPPには新たに英国が加盟し、ウクライナからも正式に加盟が申請された。

TPPは日本が主導して成立させた枠組みであり、日本は経済連携による世界の平和構築でもリーダーシップを取ることができる立場なのである。これを活かさない手はないのだが、岸田首相はどこまで力を入れるのだろうか。NATOの東京事務所開設は絶対に実現させなくてはならない。

崩壊した「戦後秩序」のなかで、日本が防衛戦略においても経済戦略においても世界の中心でリーダーシップを取ることが、世界の平和と安定につながる。今こそ行動の時だ。

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和田政宗

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