大村雅朗のアレンジはアウトロが魅力? 八神純子「ポーラー・スター」の聴きどころ  八神純子の新境地を切り開いた「ポーラー・スター」

八神純子の新境地を切り拓いた「ポーラー・スター」

1978年に「みずいろの雨」の大ヒットでブレイクした八神純子は、翌年も「想い出のスクリーン」、「ポーラー・スター」とヒットを連発し、ニューミュージック界の旗手として活躍の幅を広げてゆく。特に「ポーラー・スター」は、これまで得意にしてきたラテン系サウンドから宇宙をイメージする華やかなサウンドに変わり、八神さんの新境地を切り拓いた1曲となった。

タイトルの「ポーラー・スター」とは北極星のこと。自分を見守る存在として北極星に語りかける歌詞からは、アーティストへの道を本格的に踏み出した八神さんの決意と不安が透けて見える。

一方、曲の聴きどころは何といってもサビだ。力強く2回繰り返される「♪ 輝け ポーラー・スター」に続く「♪ 教えて私の未来 」の音程が、1番では1音ずつ下がるのに対し、2番の後のリフレインでは逆に1音ずつ上がり、最後はボーカルが演奏に吸収されて終わる。

1番では未来への不安、リフレインでは未来への希望を北極星に願う心境が、八神さんの透んだボーカルから鮮やかに伝わってくる。こうした曲の世界観を生み出したのが、八神さんの「みずいろの雨」が出世作となり音楽界の表舞台に登場した作編曲家の大村雅朗である。

今回は、大村さんの初期作品「ポーラー・スター」からアレンジの魅力を探りたい。

暗くて広い宇宙を浮遊するような大村雅朗のアレンジ

7枚目のシングル「ポーラー・スター」は、これまでのアコースティックなアレンジから一転し、シンセサイザーを多用したきらびやかな音が主流となる。ゴージャスでキラキラしたイントロ、広い宇宙に向けて飛び立つようなギター、暗く広い宇宙を浮遊するような間奏。そんな演奏とボーカルが代わる代わる表舞台に立ち、聴く耳を飽きさせないのも、大村さんのアレンジの魅力である。 八神さんも、著書『大村雅朗の軌跡1951-1997』に収録されたインタビューのなかで次のように語っている。

「〜私が歌ってないところがすごくいいんです。歌っているところは歌っている人が主役になるようにしてくれて、それ以外のところで大村さんが、ここぞとばかり才能をぶつけてくる~」

上述の著書によれば、大村さんの出身母体であるヤマハの音楽制作ポリシーは、ポプコンをやっていた関係上「あまり楽曲には手を入れず、アマチュア感を非常に大切にしていたが、編曲を含めた音作りにはずいぶんこだわっていた」らしい。大村さんの音作りへのこだわりは、このポリシーを受け継ぎ、発展させた証。特に、暗く広い宇宙や星空が思い浮かぶ荘厳でロマンチックな音作りは、大村さんの真骨頂だと思う。

音楽が消えるまで聴いていたくなる、変奏曲のようなアウトロ

この曲のアレンジで特筆すべき点は、もう一つある。歌い終わった後の演奏、つまりアウトロだ。 思えば、大村さんがアレンジした八神さんの初期作品には、アウトロに凝った曲が多い。「思い出は美しすぎて」、「みずいろの雨」、「想い出のスクリーン」のシングル3曲が良い例で、演奏をじっくり聴いてくれと言わんばかりに一定の時間がアウトロに割かれ、すぐにはフェードアウトしない。しかも、演奏されるサウンドはアウトロでしか聴けないものばかり。この3曲では、日本屈指の名ギタリストである松原正樹さんが、見事なソロ演奏をアウトロで聴かせてくれるので、音楽が消えるまで聴いていたくなる。

そんな最後までじっくり聴かせるアウトロの傑作が「ポーラー・スター」だと思う。

まず、アウトロに1分近い時間が贅沢に割かれている。これは、これまでのシングルのアウトロで最も長い。ただし演奏はギターではなく、間奏で使われた宇宙を浮遊するようなシンセサウンド。これが3回繰り返され、回を重ねるごとにストリングスが加わり、音の厚みを増してゆく。この変奏曲のような ”弦アレンジ” が素晴らしく、アウトロだけで一つの作品を聴いているような出来栄えだ。八神さんも「その部分だけ何回も聴いたりした」と、上述のインタビューで語っているが、大いにうなづける。

80年代に大きく花開いた大村雅朗の才能

この ”弦アレンジ” は、翌年にヒットした「Mr.ブルー~私の地球」でも、地球と宇宙の壮大な世界観を表現するのに使われている。この曲は歌詞のない段階で大村さんがアレンジを完成させていたと八神さんは語っているが、アウトロの細部までこだわり抜いて宇宙の世界観を作り上げた「ポーラー・スター」の経験が生かされたに違いない。

こうした楽曲にふさわしい世界観を作る点において、当時の大村さんは最先端を走っていた。そして、その才能は80年代に大きく花開き、数多くの傑作が生まれた。その源流の一つが、80年代前夜に生まれた「ポーラー・スター」であったように思う。

<参考文献>梶田昌史、田渕浩久著『作編曲家 大村雅朗の軌跡 1951-1997』DU BOOKS(2017)

カタリベ: 松林建

アナタにおすすめのコラム 新しい発見に感動!八神純子「想い出のスクリーン」時代を超えるシティポップ

▶ 八神純子のコラム一覧はこちら!

80年代の音楽エンターテインメントにまつわるオリジナルコラムを毎日配信! 誰もが無料で参加できるウェブサイト ▶Re:minder はこちらです!

© Reminder LLC