「日の丸コンテナ会社ONEはなぜ成功したのか?」|編集部おすすめの1冊

数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Onlineがおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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日の丸コンテナ会社ONEはなぜ成功したのか? 幡野武彦・松田琢磨 著、日経BP刊

2021年度に日本企業で最も最終利益が高かったのは約2兆8501億円を稼いだトヨタ自動車。では、2位はどこか?約2兆1800億円の最終利益をあげたONEである。2022年度も2兆1378億円の最終利益を計上しており、2年連続の2兆円を超えた高収益企業だ。その前身は、赤字垂れ流しで「お荷物」となった不採算事業の「寄せ集め世帯」だった。

ONEは川崎汽船、商船三井、日本郵船の国内大手海運3社がコンテナ船部門を切り離して2017年7月に設立した新会社だ。日系企業ながら本社はシンガポールに置き、グローバルで高いシェアを確保する欧州系、成長著しい中国系のコンテナ船会社と激しい競争を繰り広げている。

コンテナ船は海運会社にとって「本流中の本流」とも言える事業だが、「コンテナを運ぶ」という差別化が難しいビジネスだけに景気変動による需要の増減が激しく、価格競争が厳しいなどの課題があり、国内3社はいずれも大幅な黒字に悩まされてきた。

そこで大手海運3社は景気に左右されにくいタンカーや、柔軟な運用ができるバラ積み船、固定客相手の自動車運搬専用船に経営資源を集中することを決断したのである。

切り離されるだけあって、その将来性も危ぶまれていた。価格競争で生き残るため、シェアトップの欧州コンテナ船会社が巨大コンテナ船を相次いで建造。赤字体質の新会社に、そのような余裕はない。ONEは厳しい船出が予想された。しかし、初年度こそ親会社3社からの引き継ぎなどの業務負担もあり赤字に陥るが、その後は予想に反して急成長を遂げる。

その理由は、第一に赤字部門で親会社から「厄介払い」されただけに、過度な経営干渉がなかったこと。有望事業であれば積極的に関わって自らの「手柄」にするため何かと口出しされるものだが、将来性が危ぶまれる事業では「巻き添え」になるのを恐れて距離を置かれる。本社を東京ではなく、コンテナ輸送の拠点となるシンガポールに置いたのも奏功した。

次に赤字部門の寄せ集めだったため、「われこそは親会社の代表」とばかりに主導権争いをする状況になかったこと。企業統合の際に最も問題となる情報基幹システムは「一番新しいから」というシンプルな理由で日本郵船のOPUSに決まるなど、PMI(経営統合プロセス)は合理的かつ迅速に進んだ。

そして、コンテナ船部門の経営統合が当事者である民間企業主導で実施され、政府や金融機関が関与しなかったこと。コンテナ船事業と同様に不採算で本体から切り離された半導体や薄型ディスプレーなどの新会社が、政府から多額の補助金を受けながら経営が行き詰まったのも、政府や融資に携わった金融機関からトップ人事を含めて様々な干渉があったのに加えて、重要な経営判断で「お伺い」を立てる必要があり、投資やマーケティングなどの企業戦略が後手後手に回ったためだ。海運大手3社のみが設立に関わったONEでは、そうした外部からの介入に悩まされることなく迅速な経営判断を下せる環境にあった。

赤字部門を本体から切り離し、再編することで生き残る「事業再生型M&A」の好事例を紹介した1冊だ。「赤字事業など、さっさと切り捨ててしまえ!」との意見もある。本書では有力なコンテナ船会社を失った米国が国際コンテナ輸送船を手配できず、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴う「巣ごもり消費」による品不足で急激な物価高騰に陥ったことを指摘。社会における「事業再生型M&A」の重要性を意識させる内容になっている。

ただ、ONEの好業績の背景にはコロナ禍に伴う国際コンテナ輸送の急増という予想外の「追い風」があったことも否めない。今後のONEに動向に注目しておく必要があるだろう。(2023年2月発売)

文:M&A Online

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