同志社大学~文化情報学部のカリキュラムを2024年度より一新し分野横断・探究型の学びを鮮明に。総合知を備えた人材を育成

データサイエンスを用いて文化を研究する同志社大学文化情報学部。2005年の学部開設以来、時代に先駆け文理融合型の学びを推進してきた。2024年度からはカリキュラムを抜本的に改革。分野横断型・探究型のコンセプトをさらに鮮明にし、「総合知」の創出を目指す。「総合知とはあらゆる知の総合で新たな価値を生み出す力のこと。本学部ではこれからの社会にイノベーションを起こせる人材を育成していきます」。設立当初から同学部のデータサイエンス教育を設計してきた宿久洋教授に改革の全貌を伺った。

「文化」を「データ」で読み解くことで人間を理解し

持続可能な社会の実現に資する

データサイエンスとは、統計学や情報学をベースにデータから新たな価値を導き出す学問。情報技術の進展でデータ化できる対象やデータ量は飛躍的に増加しており、ありとあらゆる分野で応用されていることから、昨今、社会からの需要が拡大し続けている。

そうしたなか、同志社大学文化情報学部ではデータサイエンスのスキル習得にとどまらず、「研究対象となる文化」と「方法論としてのデータサイエンス」を横断的・総合的に学ぶ文理融合型の学びを推進している。なぜ文化を学ぶのか、宿久洋教授はその狙いをこう明かす。

「それはこれからが「人間の時代/Human age」だからです。環境破壊、紛争、貧困など、先行きの見えない課題の解決の糸口をさぐるためには、人間を理解すること、すなわち、人間の営みである文化を探究することが重要です。本学部では“人間が何を求め、何を幸せと感じ、どういったときにどんな行動をとるのか”を考察してデータを深く解釈し、人間に本当の幸福をもたらす事業や持続可能な社会の実現に資する総合知の創出を見据えています」

総合知とは人文・社会学、自然科学などあらゆる知の融合であり、新たな価値を生み出す力のこと。内閣府でも現代社会のイノベーションの源泉になると必要性がうたわれている。

宿久教授はさらに続ける。「理論の研究に加え、歴史、言語、認知、経済など多様な分野と結びつき、課題を解決することがデータサイエンス研究の推進材です。どんなテーマでも扱えるというのがこの学問の面白さ。まさにダイバーシティ(Diversity・多様性)&インクルージョン(Inclusion・包括性)を実現する学問といえるでしょう」

AIの登場で知識への価値観が変容

学ぶべきデータサイエンスを再定義

データサイエンスという言葉は社会に浸透しつつあるが、実のところその定義はあいまいだ。さらにChatGPTで注目を浴びるようになった大規模言語モデル(LLM)の発展によりこれまで重視されてきた知識や技能の価値観が大きく変容していると宿久教授は指摘する。

「こうした背景を踏まえ、文化情報学部が目指すデータサイエンス教育とは何かを再定義し、カリキュラムを一新したのが、2024年度から実施する『探究型・総合知創出型教育プログラム』なのです」

新カリキュラムの特徴は大きく2点だ。

第一に、データサイエンス教育の柱を「数理科学」「統計科学」「計算機科学」に定めるとともに、全員が基礎知識を身につけるため「同志社データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」を必修とした。同学部は文系・理系の出身者が半々で、その興味の対象もさまざまな文化・現象・技術におよぶことから、共通言語となるデータサイエンスの基礎習得を強化したかたちだ。

第二に、必須科目を1~4年次を通して設置し、段階的に探究型の学びを深めていけるようなカリキュラム構成にした。具体的には、1・2年次に「文化情報学1~4」で文化情報学の基礎知識とリサーチリテラシーを習得。3年次春に「ジョイント・リサーチ 」で専門分野の異なる教員によるプロジェクト型のグループワークを実践。3年次秋の研究室配属後は「リサーチ・セミナー 」で研究テーマを決定し、4年次の「リサーチ・プロジェクトI・Ⅱ 」で探究型の学びの集大成として卒業研究を行う流れだ。

こうした必修科目を土台に、専門科目として「文化科学系科目群」「データ科学系科目群」「先端・融合系科目群」と多様な科目を提供し基盤的な知識を深めていく。また文化情報学に関わる基礎教養を習得するための「文化科学系教養科目群」「データ科学系教養科目群」も設置されている。

また同学部では、学生を大学という教育機関のユーザーではなく研究機関の一員としてとらえ、同学部の役割を教員と学生が共同で研究活動を行う「研究機関型教育機関」と位置付けている。学生に、社会から恩恵を受けるTAKERでなく、社会に恩恵をもたらすGIVERとして社会参加を求めている点にも、探究型・総合知創出型の理念が表れているといえるだろう。

「情報」の担い手としてのキャリア形成

~ディベロッパーとハイレベルユーザー~

文化情報学部の学びの先に想定されるキャリアの方向性として大きく2つあるという。

「第一はデータサイエンスの手法を極めたディベロッパーです。大学院を経て研究開発職やITベンダーやメーカーなどでデータサイエンティストになるなど専門職としてのキャリアに進みます。第二がデータサイエンスの知識を自身の職務に活用できるハイレベルユーザーです。物事を俯瞰的にとらえてデータを分析し、応用できる人材には、今やあらゆる企業が注目しています。文化情報学部の学生には、データサイエンスで文化を探究することで総合知の獲得を目指し、人間の時代をけん引する人材になってほしいですね」と宿久教授は高い期待を寄せている。

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