良品計画は、空き家などの遊休資産を活用し、「MUJI BASE」と名付けた中長期滞在施設を日本各地に展開する。8月には千葉県鴨川市に、第一弾となる、築100余年の古民家にリノベーションを施した「MUJI BASE KAMOGAWA」をオープン。“一棟貸しの宿”として2泊以上の滞在者を受け入れ、地元鴨川の食と農をテーマに地域事業者とも協業し、生産者から農業を学びながら、鴨川の生活文化を体験できるプランなどを提供する。同社は企業理念に『感じ良い暮らしと社会の実現』を掲げており、今後、日本民家の空間的価値に現代のライフスタイルを掛け合わせたMUJIBASEを、無印良品ならではの地域再生と新たな暮らしの一つのカタチとして消費者に訴求していく考えだ。(廣末智子)
同社によると、MUJI BASEの展開に至った背景として、首都圏に人口が集中する一方、全国各地で使われていない古民家の増加や、失われていく郷土文化の継承が社会課題となっていることに着目。コロナ禍を経て働き方が多様化し、場所にとらわれないライフスタイルへと、人々の生き方が多様化する社会にあって、遊休不動産などを中長期滞在施設として活用することで、滞在者が「知らない土地で日常を過ごすなかで豊かな感性を育み、さまざまな生活の知恵を学ぶことができるような地域の拠点」とするコンセプトが固まったという。
1棟目は東京からいちばん近い棚田の残る千葉・鴨川に
「MUJI BASE KAMOGAWA」は、東京からいちばん近い棚田として知られる大山千枚田が近くに残る鴨川市大幡地区にあり、日本の原風景を彷彿とさせる田園が広がる。木々や草花が生い茂り、鳥などたくさんの生き物が棲む、そのすぐ傍らで人が生きる里山の暮らしが残っている。
同社は2014年から同市内の釜沼北集落で、棚田保全と里山コミュニティの活性化を目指す「鴨川里山トラスト」活動をスタート、2017年4月には同市と「地域活性化に関する協定」を締結し、一企業としてこの地域での、これからの人と自然の共生の在り方を模索してきた経緯がある。
そうしたなか、2019年から社内研修施設として運用していた築100余年の古民家を今回、「MUJI BASE KAMOGAWA」としてリニューアルした。生まれ変わった建物は広い土間を活用したキッチンダイニング、和と洋を融合させた居間など、日本民家の空間的価値を残しながら、現代のライフスタイルに合致した無印良品らしいデザインとなっている。
最大収容人員は5人で、料金は5万5000円から(2泊3日の場合)。8月には千葉地域のブランドメロン「千葉アクアメロン」の収穫体験のほか、日本の酪農の発祥の地ともされる同県南部の牧場で、牛が自由に歩き回れる“フリーストール牛舎”での酪農について学び、餌やりなどを通して牛と触れ合い、新鮮な牛乳やバター、チーズを味わえるツアーなどもオプションとして提供する。
宿泊予約は旅行コミュニティプラットフォームから
一方、同社は2022年9月に世界最大級の旅行コミュニティプラットフォームであるAirbnb (エアビーアンドビー)の日本法人と、日本の宿泊施設の多様化と地域のにぎわいづくりに寄与することを目的に包括連携協定を締結。全国各地の空き家や地方自治体が所有・管理する住宅などの遊休不動産を共同でプロデュースし、良品計画がインテリアコーディネートやリノベーションを担当した施設をAirbnbのプラットフォーム上で予約できる仕組みを構築し、すでに北海道清水町の移住体験住宅(旧教員住宅)の運用例がある。これと同様にMUJI BASEも、宿泊予約はAirbnbのサイトから受け付ける仕組みだ。
『感じ良い暮らし』を体験し、さまざまな地域に居場所があるライフスタイルの可能性を
良品計画執行役員でソーシャルグッド事業部管掌を務める長田英知氏は、同社におけるMUJI BASEの位置づけを、「良品計画が地域の“土着化”を実現する上での重要な施策の一つだ」とし、今後について「数値目標は定めていないが、鴨川を含む南房総エリアのみならず、全国各地の空き家を活用しながら、積極的な展開を行っていきたい」と強調。
その上で、消費者へのメッセージとして、「MUJI BASEは、地域固有の暮らしや産業、文化を、無印良品が考える『生活の基本と普遍』に基づいて構築した、新しい暮らしの起点＝BASEとなるものです。宿泊される方には、MUJI BASEでの滞在を通して、当社のコンセプトである『感じ良い暮らし』を体験していただくとともに、さまざまな地域に居場所がある、新しいライフスタイルの可能性を感じていただきたい」と語っている。
