日本生まれ外国籍の子「在留許可」へ 米国にもある不法移民の子を守るDACAダーカとは?

By 「ニューヨーク直行便」安部かすみ

イメージ写真(Mehmet Turgut Kirkgoz による写真: https://www.pexels.com/ja-jp/photo/17525989/)

日本生まれ&育ちの子に「在特」付与の方針

日本で今年6月、改正入管法が成立した。これにより入管施設の長期収容がより解消されると共に、在留が認められない外国人の速やかな国外退去(強制送還)を促しやすくなったとされる。

しかし在留資格のない親の下、日本で生まれ育った子どもの処遇について、人道的な配慮を求める声が上がっていた。

今月3日、「一定の条件を満たせば、法相の裁量で在留特別許可(在特)を(家族にも)付与へ」と、毎日新聞などが報じた。参照

出入国在留管理庁のデータによると、強制退去処分が出ても帰国を拒んでいる外国人は4233人(昨年末時点)。うち日本生まれの18歳未満の子は201人。在特により7、8割の子どもが引き続き日本で暮らせるようになるという。

アメリカでは?

移民大国アメリカは、移民や難民の数、そのような人々の受け入れ態勢、国の地理(島国か陸続きか)が日本とはまったく異なるため、単純な比較ができない。またアメリカ国内でも州によって事情や対応は異なる。

例えば、移民が特に多いニューヨークやロサンゼルスなどの大都市圏(主に民主党寄りの州)は、不法移民に比較的寛容とされている。このような都市はサンクチュアリ・シティ(聖域都市)と呼ばれ、他州と比べて不法移民に対してある程度の保護が設けられている。(例えば、聖域都市では在留資格がない人も運転免許証を発行してもらえ、無料の英語クラスを受講できるなど)

このような都市では、警察が路上で職務質問をすることがあったとしても、その者が合法滞在者か不法移民かを尋ねることはない。

アメリカでは不法滞在者を含むすべての移民は、都市の労働力として欠かせない存在になっている。ニューヨーク市内の不法就労者の数は50万人以上とも言われる。「低賃金労働者」の彼らは一般市民がやりたがらない仕事(例:農業、縫製業、清掃業、飲食業の皿洗いなど)を担い、都市機能を底辺から支えている。もはや移民なくして都市活動が成り立たないと言われるのは、そんな理由からだ。

これについては賛否あり、主に共和党は保守派を中心に、手厚い移民政策や保護に反対の傾向がある。国境の壁を築き大量の移民の流入を阻止しようとしていたトランプ政権と異なり、民主党は人道主義の立場から手厚い保護政策を掲げているが、ハリス副大統領が旗を振る移民対策は大失敗。メキシコとの国境に中南米から亡命希望者が押し寄せ、大きな社会問題になっている。南部テキサスなどの移民拘留センターは移民(亡命希望者)ですし詰め状態で、受け入れ体制がパンク。ちょうど1年前の昨年8月から、ニューヨークなどにもバス(や飛行機)でそのような人々が大量に送り込まれているが、受け入れ先の各都市もすでにパンク状態だ。(次回以降詳しく説明する)

このように、日本から見れば到底信じられない、まるで「ザル」のようなズブズブの移民対策こそが、アメリカの現状である。

ただし、アメリカに住んでいる者として一つ言いたいのは、この国はヒューマニタリアン(人道主義)において、日本や他国を先行く先進国でもあるということだ。

上記の人々を無下に祖国に送り返せないのは、国交がない国があるというのも理由の一つだし、国境警備の予算が十分でなかったり、対策を先送りしてきた議会の責任も大きかったりするが、人道主義に則っているということもある。

不法移民の子も、この国では当然守られるべき存在として扱われる。アメリカは出生地主義だからこの国で生まれた子はアメリカ国籍が与えられる。問題は、子どもの時に親に連れられて渡米し、そのまま在留資格がなくなった後もアメリカに滞在しているケースだ。その子を守る移民システムはある。DACA(日本語の記事ではダカという表記もあるがアメリカ発音ではダーカが近い)プログラムと呼ばれているものだ。

DACA(ダーカ)とは?

DACA(Deferred Action for Childhood Arrivals 子どもの入国後の国外強制退去の猶予措置)。2012年6月、オバマ元大統領によって導入された移民政策で、簡単に言えば、幼少時に親にアメリカに連れて来られそのまま不法滞在となっている人々を保護する制度のこと。

この制度で救済されるのは、2012年6月15日の時点で

などの条件を満たす人。

Photo:国境から移民が殺到して1年。NYの移民受け入れホテル前は荒れている(今月1日)。

この場合、2年間は国外退去処分の対象から外し、就労も可能になる(2年ごとに更新可)。ただし犯罪者は対象外。そしてこの措置は、不法移民に法的地位や、連邦政府による福祉や教育支援の権利を与えるものでもないし、市民権取得の保証をするものでもない。

またDACAに関係なく、アメリカにいるすべての子どもは、親や自身の在留資格に関係なく、無料で高校までの公教育を受ける権利がある。参照

筆者は知人の男性(当時30代前半)とカフェで話をしていた時に、貴重な話をしてくれたことを思い出す。南米出身の彼は、幼少時に親に連れられアメリカに入国し、そのままオーバーステイ(不法滞在)になったと言った。公立高校を卒業したものの市民権がないので国外には出られない状態だった。しかし彼は米軍に入隊し一定期間軍隊で働き、グリーンカードを申請し最終的には市民権を得られたということだった。以前筆者が取材した日本出身のコメディアンのケースもそうだが、この国にはこのような話はいくらでもあるから、彼らがこの手の話をする際、包み隠すような仕草は見せない。

Photo: 今年7月28日、米・メキシコ国境のリオ・グランデ川を渡ってアメリカに向かう人々。国境に中南米から移民が殺到し、社会問題になっている。

DACAを含む不法移民をめぐる制度については、米政党、議会、司法の中でも意見が対立し、政権が変わるごとに指針が揺れる。この参照記事(エキスパートの前嶋和弘さんによる)にもあるように、DACAは現バイデン政権では認められているものだが、20年6月15日にDACAの廃止決定を認めないとする判断を示した最高裁も、DACAが合憲かを示すことはしていない。DACAを含む移民政策の是非は今も賛否両論分かれ、大変複雑な問題だ。

(つづく)

Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止

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