何が起きているのか「ハリウッドのストライキ」長期化は不可避か

SAG-AFTRAの俳優とアメリカ脚本家組合(WGA)の脚本家がパラマウントスタジオの外でストライキ(Photo by REUTERS)

北米で7月21日に同時公開された『バービー』と『オッペンハイマー』。『バービー』が女性監督作品として歴代最高のオープニング記録を叩き出し、他方でクリストファー・ノーラン監督の入魂の3時間という超大作『オッペンハイマー』も大ヒットしたことで、2作品合わせて「バーベンハイマー」と称され、大きな話題を呼んでいます。

ところがその後、『バービー』側のアメリカ本国の宣伝が悪ノリという言葉では許容しきれない、特に日本では断じて受け入れがたいネットミームの拡がりを、半ば歓迎する姿勢をとったことで、国際問題に発展しかねない状況となってしまい、非常に残念に思います。

そんな中で、『バービー』のジャパンプレミアが8月2日に都内で行われました。グレタ監督や吹替版を担当した高畑充希などが登壇しましたが、主演&製作のマーゴット・ロビーは不在でした。

(Photo by:Allison Bailey via Reuters Connect)

脚本家組合と全米映画俳優組合が合同でストライキに

今回のマーゴット・ロビーの来日中止と先月の『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』のトム・クルーズの来日中止は同じ理由。つまり、全米映画俳優組合のストライキによるものです。

このストライキによって、作品の撮影はもちろん、プロモーション活動も制限されます。日本ではあまり報道されていませんが、海外でのプレミア上映も同様にキャストの登壇が中止となっています。

二つの理由

7月14日から続く今回のストライキは、米脚本家組合(WGA)と全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)が連動する形になり、規模が大きくなりました。この二つの組合が同時にストを行うのは、何と1960年以来、63年ぶりです(ちなみに前回のストで俳優組合の代表を務めたのは、故ロナルド・レーガン元大統領でした)。

俳優・脚本家連合が求めているのは二つあり、一つは「報酬の設定」という二次使用料の収入体系、もう一つが「AIの導入」による影響です。

コロナ禍で一気に広まったサブスク動画配信サービスですが、現在の契約では、作品は売り切りのため、どれだけ多く視聴されても追加収入が発生しない仕組みになっています。

配信側が視聴回数を公にしていないこともあるのですが、配信で得られる二次利用の利益の再分配が行われていない状態が続いています。

2000年代以降、DVDやブルーレイディスクなどのソフト販売・レンタルは右肩下がりで、映画が公開された後の二次利用の主戦場は配信サイトに移っています。

ただ、経営者側(スタジオ側)の意見としては、映画の公開だけでは投資が回収できない多額の製作費や宣伝費を、配信サービスに作品を売ることでリクープ(回収)しているという実情もあり、交渉が難航しています。

もう一つ、大きな問題となっているのが「AI技術の導入」です。

CG技術が発展した時にも問題になりましたが、メインキャストの脇にいるエキストラに近い立ち位置で、これからキャリアを積んでいく若手俳優たちが丸々AIに取って代わられるのではないかという危機感が俳優の間で拡がっているのです。

さらに言えば生成AIによって映画の脚本も作られるのではないかというところまで来ていて、これについても脚本家たちは危機感を抱いています。

今回のストライキは、まさに「AI対人間」の存在意義をかけた運動なのです。

2023年8月2日、ニューヨークのNBCユニバーサル本社前で。キルステン・ギリブランド上院議員、ジェリー・ナドラー下院議員ほかWGAとSAG-AFTRA関係者ら。(Photo by Lev Radin/Sipa USA/REUTERS)

ストライキによって作品の制作は止まります。当然ながら俳優・脚本家の収入源が絶たれることを意味していて、長期化すれば生活すらできなくなってしまう可能性もあります。

この事態を受けて、ドゥエイン・ジョンソンらトップスターが組合に多額の寄付をして、ストライキの長期化を支援する動きもあります。

日本ではどうなる?

アメリカのストライキを受けて、日本でも同じようなことが起きるのではないかという疑問の声も出ていますが、現状では起きにくいと言えるでしょう。

日本でも半世紀以上前、ほぼすべての俳優が大手映画会社に所属していた時代には大規模な労働組合運動がありました。戦後すぐの「東宝争議(1946年から1948年)」などはその代名詞と言える出来事で、GHQのアメリカ軍まで出動する騒ぎとなりました。

国内では、西田敏行が理事長を務める日本俳優連合(日俳連)がありますが、加入者は約2600名で、積極的な組合としての活動は見られません。

一方で、今年6月に所属事務所の「トライストーン・エンターテイメント」社長に就任した小栗旬は、俳優らの労働組合の必要性を長く訴えています。事務所の垣根を越えて賛同者も集まっているとの話ですが、実現にはまだ多くの課題があるようです。

労働組合の活動目的

時代が変わっても、労働組合が求めることは労働環境の改善や保障であることには変わりません。もちろんエンターテインメントの世界でも同じことです。

今回のストライキ騒動も、双方の主張は譲れず、一朝一夕に解決する事柄ではありません。現在のところ放送作家を含む脚本家連合が1.1万人、俳優組合には約16万人が加入していますが、長期化、複雑化が予想されます。

文:村松健太郎(映画文筆屋)/編集:M&A Online

村松 健太郎

2002年から映画館勤務で業界入り。2016年頃から映画文筆家として活動を開始。脳梗塞を患ったために杖片手に試写室や映画会社を行ったり来たりしています。映画祭の審査員やインディーズ映画の宣伝などもしていますが、興行出身ということもあって、少しでも多くの人の足が劇場に向かってほしいと願う日々です。年間300本の新作とそれ以上の過去関連作を見て回っています。

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