講演✕対談「女性が考えるほんとうの女性活躍社会とは」(令和5年6月24日開催)~ 仕事と子育てと女性たちと

「仕事」と「家事・育児・介護」の両立について、多くの女性は悩むのではないでしょうか。

夫婦共働きの世帯は年々増えており、令和4年には7割を超えました。

女性が活躍できる社会の実現をめざした「女性活躍推進法」が2015年に成立し、女性が能力を発揮できる仕組みが徐々に作られてきています。

しかし、現在でも家庭内で「家事・育児・介護」の多くを担っているのは女性です。

令和5年(2023年)6月24日に開催された「仕事と子育て」「女性活躍社会」を語るイベントに、女性が活躍するためのヒントを探しに行ってきました。

登壇したのは、不動産会社を経営する角田千鶴つのだ ちづる)さんと、インテリアデザイナーの吉田恵美よしだ さとみ)さん。

第一線で活躍する女性たちが考える「ほんとうの女性活躍社会」とは、どんなものなのでしょうか。

ミニ講演会1 不動産業を通して「誰もが活躍できる社会」へ

まずお話を聞かせてくれたのは、山陽不動産の角田千鶴さんです。

角田千鶴さんプロフィール

広島県福山市出身。

有限会社山陽不動産副社長、株式会社山陽管理社長、一般社団法人ふくやま社中理事など多くの顔を持つ。

2人の娘を持つ母でもある。

山陽不動産の取り組み

山陽不動産を創業したのは、角田さんの祖母でした。

一家を支える必要に迫られ、女性でも男性と同じように収入が得られる不動産業を始めたのです。

山陽不動産には、平日は介護をし家族が休みの日曜日にだけ働く人、プロのサッカー選手を目指して午前中は練習をし午後から仕事する人など、多様な働き方をする人たちがいます。

その働き方を実現できるのは、仕事をすべて「見える化」し、何をしたか、どこまでできているのかを、共有管理するシステムがあるからです。

そのため、たとえば急に子どもの具合が悪くなって休みを取るときでも、他の人がすぐにサポートできます。

そもそも介護と両立させるために始めた会社だから、それをするのは当たり前

と角田さんはこともなげに話しますが、その当たり前がどこの会社でも取り入れられることを願わずにはいられません。

起業家や若者を支援

角田さんが起こした山陽管理という会社では、2013年に空きビルを買い取ってリノベーションし、福山初のインキュベーション施設(事業の創出や創業を支援する施設)を作りました。

手頃な価格で利用できるこの施設を拠点として、ネイルサロンやリンパマッサージ、司法書士や行政書士といった「士業」の人たちなど、これまでに約50社が起業しています。

国や自治体とも創業イベントを開催し、学生や若い人たちに向けた創業啓発活動をおこなってきました。

2018年には福山で初めて、経済産業省の「創業機運醸成賞」を受賞しています。

家庭と仕事

横浜の大学で建築を学んだ角田さんは、一部上場企業に就職しますが、会社のルールで結婚退職を余儀なくされました。

「どこで何をして人生を過ごしたいのか」を真剣に考え、山陽不動産を自分が継ごうと決意。

パートナーとともに福山に戻ってきましたが、会社の経営状態は芳しくありませんでした。

「本当にお金がなくて、子どもたちのオムツも買えないような状態」で、覚悟を決めて会社を立て直してきたとのこと。

イヤイヤ期の子どもを育てたり介護をしたりしながら仕事するのは簡単ではなく、お母さんや友達など、周りの人と助け合ってきたそうです。

介護や育児をしながらの仕事は助け合いながらやればできる、経営者が会社の組織を変えていくことが大切だと、強く訴えました。

これからの目標

「不動産業を通して町に貢献したい。

起業家や若い人を支援することと合わせて、子育てや介護をしながら働く人や、夢に向かって挑戦しながら働く人も働きやすい環境を整備したい」

と角田さんは目を輝かせて語ります。

角田さんの目標は、福山を次世代から選ばれる町にすること。

大学や就職のために福山を離れている若い人たちが帰ってきたくなる町にするために、大人にできることはいろいろあると思わされました。

ミニ講演会2 次なる地平を生み出すデザイン術

次にお話をしてくれたのは、インテリアデザイナーの吉田恵美(よしだ さとみ)さんです。

吉田恵美さんプロフィール

福岡県北九州市出身。

YZDA(Yoshida + Zanon Design Atrium)代表。ニューヨーク州とニュージャージー州を拠点に活躍中。

アメリカ人の夫との間に息子が2人。

インテリアデザイナーを中心に活動

おもに富裕層を対象とした住宅のデザインを提供している吉田さんのコンセプトは「折衷の美」

和の心を取り入れたデザインは、世界最大のデザインサイト「Houzz(ハウズ)」で10年連続「ベスト・オブ・ハウズ」を受賞しています。

インテリアデザインの仕事はただ空間を格好良く見せるためのものではなく、住む人の生活の質を高めるもの、そして住む人の健康や安全、福祉を守るものだと吉田さんは語ります。

一人ひとりのライフスタイルやライフステージに寄り添ったデザインの提案を、大切にしているそうです。

また、建築と環境問題は切り離せません。

世界中で森林保全や環境保護に取り組む団体である「ONE TREE PLANTED」と提携し、一つのクライアントの仕事が終わるごとに、世界のどこかに木を植える活動もおこなっています。

2018年には東京にもオフィスを構え、日本での活動も始めました。

メディアへの出演や講演活動、地域創生活動などに加え、書籍の出版など仕事の幅を広げています。

起業までの道のり

北九州市出身の吉田さんは、予備校時代の先生に刺激を受けて、海外を目指しました。

ミネソタ州の短大に入ったものの、何を勉強したいのかがわからず模索するなかで、先生に勧められたのが「リベラルアーツ(幅広く哲学や心理学、文学、美術などの純粋な教養を学ぶ)」でした。

講座のために訪れた東欧で建築に魅了され、インテリアデザインの道へと方向を定めます。

アートとサイエンス、感性と論理の二つの思考で学ぶため、アイオワ州立大学工学部のインテリアデザイン科へと進みました。

大学卒業後、建築会社で働く間に結婚し、子どもを2人授かります。

パートナーは転勤が多い仕事でした。

家族が一緒にすごせること、自分自身のキャリアもあきらめないことを考えて、吉田さんは独立を選びます。

パートナーの転勤で引っ越した回数は11回にのぼりましたが、この引っ越しがデザイナーとして仕事をするうえでの大きな強みになったのだそうです。

ニューヨークでは、多様な民族、多文化のバックグラウンドを持つ顧客相手にデザインを提供します。

吉田さんが引っ越しをして肌で感じたのは、州によって異なる文化や歴史があり、宗教や国の違う人々が暮らしているということでした。

これまでとは違う視点を得た吉田さんの仕事は、ますます充実していったのです。

海外での子育てと仕事

実家から遠く離れた海外での子育ては、大変なことも多くありました。

日本とは違って産後2日目で退院しますが、家に帰って2日後に夫が出張に行ってしまったときには、1階のソファーを中心にして1週間を過ごしたのだとか。

近所の人や夫の会社の人、飛行機で5時間かけて来てくれるコロラド州の家族、ベビーシッターなどの協力で、子育てと仕事を乗り切ってきたそうです。

「ニューヨークには、5,000人以上のフリーランスのデザイナーがいます。

そのなかで継続して仕事をしていくために、自分で自分をプロデュースしながらやってきました。

アメリカでは子育てしながら仕事をしている女性がほとんどなので、女性活躍という言葉は私にはあまり馴染みがありません。

しかし、やはり仕事と子育てのバランスは重要ですし、子育ての経験は仕事にも生きてきます」

対談 子育てしながら働く女性たちへ

続いて、今回の主催者である、こころもち学習ネットワーク代表の難波博孝(なんば ひろたか)教授を交えて、子育てと仕事についてさまざまな意見が交わされました。

「今まで大学の先生たちの『最終講義』を多く聞いてきたが、一度も家庭の話を聞いたことがない男性の目には家庭や子どもが見えていないと感じた」という難波教授の話をきっかけに、話が展開していきます。

  • 我が家の場合、本当にお金がなかったので夫は外でお金を稼ぐ、子育てはまったくしない、というスタイル。育休を取るか取らないかも、家庭の事情に合わせて夫婦で決めることだと思う。(角田さん)
  • アメリカ人の夫は子育てにも家事にも関わってくれるけれども、出張が多くて家にいないことが多かった。引っ越しのたびに近所の人には挨拶をして状態を伝え、何かと助けてもらった。(吉田さん)
  • 子どものいる友人と助け合っていた。私が忙しいときは子どもたちを見てもらい、友人が忙しいときには我が家でお泊まり会をした。夫婦だけではなく、第三者と一緒に子育てできる選択肢が大切。(角田さん)

会場からは「日本の男性は、女性たちと会話ができていないと感じる。女性に対してはきつい世の中だと、娘を持って初めて気づいた」という意見が出ました。

  • コミュニケーションの講座では、思い込みを捨て、一人ひとりの話を聞くようにと経営者たちに伝えている。(吉田さん)
  • 最近の高校では「探求授業」が取り入れられ、地域の課題について自分で考えてディスカッションをおこなっている。今の高校生たちは、少しずつ自分の思いを伝えられるようになってきていると感じる。(角田さん)

「女性だったから大変だったこと、女性だったからうまくいったことを教えてほしい」という質問もありました。

  • 出産や子育てで自分の時間がないときには、周りが活躍するなかで自分だけが遅れていくという気持ちがあった。しかし、その経験が今の経営に生きている。(角田さん)
  • 早くからSDGsを学び、Microsoft PowerPointなどを使いこなしている子どもたちが、何年かすれば社会に出てくる。この子たちの価値観を経営に生かさなければならない。それがわかっているのは子育てをしている女性経営者ならでは。(角田さん)
  • アメリカの建築業界も男性社会。そのなかで仕事をするには「どうすれば自分の選んだ道で生きていけるか」の視点が重要。インテリアデザイナーは細かなことに気配りが必要な仕事なので、女性の視点が生かしやすい。(吉田さん)

ほんとうの女性活躍社会とは

福山の女性経営者と、海外で活躍するインテリアデザイナーの2人が同じように語ったのは「子育てをした経験が、今の仕事に生きている」ということでした。

子育て中の女性が直面する不自由さは、介護をする人や夢に向かっている人など、さまざまな人とも共通するところがあるようです。

その不自由さは、会社や社会の仕組みを工夫することで大きく変えられる可能性があることも、今回のお話から見えてきました。

ほんとうの女性活躍社会とは、「女性」だけではなく「誰もが」活躍できる社会のことなのかもしれません。

そして、誰もが活躍できる社会になれば、その人の経験がまた社会に還元され、さらに誰もが暮らしやすい社会になっていくのではと感じました。

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