なぜトランプ元大統領が共和党指名候補争いで圧倒的な支持を得ているのか?〜2024年米大統領選に向けた熾烈なデジタルメディア戦略の現状(市川裕康)

カバー画像:Photo by Jon Tyson on Unsplash

2024年11月の米大統領選まで約15ヶ月、予備選挙まで半年をきり、少しずつアメリカの大統領選の話題が報道でも伝えられるようになってきました。

最近では米連邦大陪審が8月1日、2021年1月6日の連邦議会占拠事件にかかわった疑いでトランプ前大統領を起訴したことが話題になってますが、現在トランプ氏は共和党大統領候補者指名争いでは大差をつけて先頭を走っています

米大統領経験者として初めて起訴された今年3月以降、既に3回も起訴されているにも関わらず、起訴がされる度に寄付が集まり、トランプ氏支持層からの更なる支持が高まっているようです。その様子はバイデン政権と民主党が司法制度を味方につけ、トランプ氏はまるで「魔女狩り」のように自らが政治的迫害の犠牲者として演じているかのようです。

大統領選挙への出馬の要件は①「アメリカ生まれ」②「35歳以上」③「アメリカに14年以上居住」という条件を満たせば可能とのことですが、「そもそもなぜこんなことになっているのか?!」と海の向こうで起きているアメリカの大統領選挙の様子を見るにつけ、分かりにくいことが多いと感じます。

一方で、世界の政治、経済、外交・安全保障に依然大きな影響力を持つアメリカが行う4年に1度の選挙の状況に注意を払うことは、国内の政治、選挙の今後のあり方を考察する上でも多くのヒントが得られるのではないかと思います。

また、大統領選といえばキャンペーンの際に欠かすことが出来ないコミュニケーション手段となりつつあるデジタルメディア戦略に関しては、国内でも国政選挙を近く控える日本においても注目が集まるテーマと思われます。

そこで、今回は普段のニュース報道ではあまり報じられにくいと思われる各候補者のデジタルメディア、SNSの利活用状況をご紹介することで、アメリカで行われている大統領選挙の理解を深めるための情報源をご紹介してみたいと思います。

特に個人的に注目したのは「トランプ氏がフェイスブックやトランプ氏の独自SNS『Truth Social(トゥルー・ソーシャル)」』等で想像以上に積極的に発信していること、そしてフェイスブックやインスタグラムのターゲティング広告をしたたかに運用し、いずれAIも活用して更に洗練させていくのではないか」という点です。

SNS上ではバイデン大統領を凌駕するトランプ氏

バイデン大統領とトランプ候補の各ソーシャルメディアのフォロワー数比較

Truth Social = *2022年2月にトランプ氏が独自に立ち上げた保守系SNS

まずはバイデン大統領とトランプ候補の各種SNSのフォロワー(チャンネル登録者)数を観てみましょう。(編集部注:いずれも8月頭時点)

バイデン大統領のX(ツイッター)アカウントは3730万人にフォローされている一方、トランプ氏のX(ツイッター)アカウントは、2021年1月の連邦議会襲撃事件を受け、ツイッター社から「暴力行為をさらに扇動する恐れがある」として凍結されてました。その後、イーロン・マスク氏がツイッター社を買収後、2022年11月19日に凍結解除を伝えたものの、トランプ氏は復帰するつもりはないとして、2021年1月9日にバイデン大統領就任式への不参加を告げる投稿を最後に更新が停止したままになっています。ただ、8750万と数多くの人にフォローされたままになってます。

意外だったのはFacebookとInstagramアカウントです。バイデン大統領のFacebookフォロワー数1165万人/Instagramアカウントのフォロワー数1745万人に対し、トランプ候補のFacebookアカウントフォロワー数は3451万人、Instagramフォロワー数2342万と、数多くのフォロワーを抱え、2023年1月25日に凍結解除された後、積極的に利用されていることが伺えます。

また、あまり話題になる機会は少ないですがトランプ氏が2022年2月21日に自ら立ち上げた独自のSNS、「Truth Social(トゥルー・ソーシャル)」においては、保守的なトランプ氏支持者が数多く集い、フォロワーの数は575万人にも登ります。

なお、7月に新しくメタ社が新しくスタートしたThreads(スレッズ)に関しては、現時点でバイデン大統領、トランプ候補ともにアカウントは開設されてないようです

日本からでも公開情報として閲覧可能だったX(ツイッター)での利用を停止したことで日常的にトランプ氏の日々の動向は伝わりにくくなった分、逆にフェイスブックやインスタグラム、そして独自SNSのTruth Social では岩盤支持層に対して積極的な呼びかけを続けていることを改めて認識する方も多いのではないでしょうか。

トランプ氏のFacebookページでのいいねやコメントはバイデン大統領の約7倍

今度はFacebookの実際の運用状況をBuzzSumoという分析ツールを使って見てみましょう。トランプ氏のFacebookページ投稿数はバイデン大統領の2割程度と数は少ないものの、いいね、コメント、シェアなどのエンゲージメントのボリューム数全体で見てみると、バイデン大統領のページの7倍近い規模のエンゲージメントを獲得していることが分かります(2023年5月〜7月までの直近3ヶ月間)。

(筆者注*以下水色のデータはトランプ氏のもの、紫色のデータはバイデン大統領のもの。政府の機密文書を不適切に持ち出した疑いでトランプ氏が起訴された直後の[6月10日は最もエンゲージメントが高かった](https://www.facebook.com/DonaldTrump/videos/961423951675649/)ことが伺えます。)

Facebook ページの投稿数やエンゲージメントの分析(BuzzSumo調べ)

ターゲットごとの巧みな広告戦略を展開、AIでさらなる進化へ!?

さらにもう一歩踏み込んで、今度はFacebookとInstagramのアカウントにおいて、バイデン大統領とトランプ候補がそれぞれのどのような広告をいつ、誰に対して、どのくらいの費用をかけているかも確認することが可能です。

Meta社が提供している広告ライブラリは広告の透明性を保証するために提供されていて、誰でも無料で閲覧することが可能です。社会問題、選挙、または政治に関連する広告は7年間アーカイブされているので、過去に出稿されたものも閲覧が可能です。

例えば直近3ヶ月間の各陣営による広告出稿費用を比較すると、バイデン陣営は既に200万ドル分の広告を出稿していて、トランプ陣営は30万4400ドルしか出稿していないことが分かります。

Facebook & インスタグラムの広告出稿状況を確認することができるメタ社広告ライブラリ より

更に驚くのは、それぞれの広告がFacebookとInstagramにどのように投稿されたか、直近2週間を振り返っただけでも様々なバージョンのイメージ、ビデオ、テキストがカスタマイズされ、ターゲット地域も振り分けた上で広告が出稿されていることです。既に生成AIがもたらしうる脅威について議論が行われていますが、今後15ヶ月の間にこうした広告戦略にAIがどのように利用されていくのか、注意深く見守っていきたいと思います。

Facebook & インスタグラムの広告出稿状況を確認することができるメタ社広告ライブラリより

共和党候補者争いはトランプ氏がリード!本戦でも互角の戦いか!?

今後米大統領選については何度となく言及され、共和党候補者指名争い、そして本戦へとレースが続いていきます。

ニュースメディア等でも頻繁に参照されている政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」をご紹介します。様々な世論調査データをタイムリーに収集し公開している点でとても参考になります。

以下は共和党大統領候補の支持率の推移になります。トランプ候補が大きく差をつけて首位を保ち、その後をフロリダ州知事のロン・デサンティス氏が追う展開となってます。

様々な世論調査データを統合しリアルタイムで更新しているサイト「リアル・クリア・ポリティクス」より

その他、リアル・クリア・ポリティクスでは現時点で仮にバイデン大統領とトランプ候補で本戦で対戦した際にどちらに投票するかのデータも刻々と更新しています。現時点ではほぼ互角と言ってよさそうです。

様々な世論調査データを統合しリアルタイムで更新しているサイト「リアル・クリア・ポリティクス」 より

以上、今回はバイデン大統領とトランプ候補のSNSの利活用状況、広告出稿状況を確認するメタ社による広告ライブラリ、政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」をご紹介しました。大統領選はこの先15ヶ月後とまだまだ先の話ですが、今後少しずつ米大統領選の動向もレポートしていけたらと思っております。

8月23日(水)に開催予定の「ネット選挙フォーラム 2023」(主催:イチニ株式会社(選挙ドットコム))において「アメリカ大統領選挙に見るネット選挙とNIPPONの可能性」と題したセッションのモデレーターを担当させていただきます。よろしければぜひご参加ください。

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ネット選挙解禁10年目の節目に、選挙の現場を熟知する現職議員や、選挙研究のトップランナーが語る、ここでしか聞けないトークが満載。参加費は無料となっておりますので、お気軽にご参加・ご取材ください。

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