トランプ元大統領への4回目の起訴。支持層に向けて行われているデジタルマーケティング戦略と高まる共和党内の支持(市川裕康)

カバー画像:Photo by Joseph Chan on Unsplash

8月14日、アメリカ南部ジョージア州の大陪審はトランプ前大統領が2020年11月の大統領選挙で敗れた同州の結果を覆そうとしたとして、トランプ氏を含めた19人を起訴しました。トランプ氏の起訴は今年3月以降、今回で4回目になります。政治アナリストの間では、こうしたスキャンダルがトランプ氏を傷つけることはなく、むしろ積極的に彼を助けているというのが通説となっているようです。

これまでの一連の起訴が共和党内の支持者にどのような影響をもたらしているかについて、世論調査やその間のトランプ陣営のソーシャルメディア活用の状況等を詳しく掘り下げてみたいと思います。

最初の起訴以来広がるトランプ氏のリード

トランプ氏が3月末にニューヨークで初めて刑事告発を受けて以来、共和党予備選でのリードは広がるばかりです。

今年3月末時点では、トランプは共和党予備選有権者の45.3%の支持を得ていたのに対し、2番手フロリダ州知事のロン・デサンティスは27%でした。選挙分析サイト「FiveThirtyEight」の世論調査平均によると、直近の8月15日時点において共和党員の52.7%がトランプ氏を支持し、デサンティス氏は14.8%となっており、その差がさらに大きく広がっていることが分かります。

度重なる起訴は政治的迫害の犠牲者であるというトランプの主張を受け入れる保守層を活気づかせる一方で、トランプ氏のライバルで彼を攻撃する勇気のある者は・マイク・ペンス前副大統領等一部を除き、ほとんどいない状況です。

最近の世論調査(ニューヨーク・タイムズ/シエナ:実施期間7月23日〜27日)によると、トランプ氏に非常に忠実な岩盤支持層は共和党有権者の37%を占め、残りの共和党有権者の中には、トランプに好意的な層(37%)と反対する層(25%)の2つの主要グループがあることを示しています。トランプ氏岩盤支持層は彼の欠点にもかかわらず支持しているのではなく、彼に欠点があるとは思えないから支持しているといえます。

一方、8月2日〜3日にかけて行われた世論調査(ロイター/イプソス)によると、米共和党員の45%がトランプ前大統領が重罪で有罪判決を受けた場合は同氏に投票しないと回答し、「投票する」と回答した 35%を上回っています(残りは「わからない」と回答)。

FiveThirtyEight提供による最新の世論調査(8月15日時点) 

画像:FiveThirtyEight

注:「FiveThirtyEight」とは、アメリカの選挙結果の予測や政治、スポーツ、経済、科学に関する統計分析を専門とするウェブサイトで、サイトの名前は、アメリカ合衆国の大統領選挙での選挙人総数538に由来しています。2008年にデータ・サイエンティストのネイト・シルバー氏によって設立され、その後2010年にニューヨーク・タイムズに買収された後ESPN傘下となり、現在ABCニュースのサイトの一部として選挙予測の分野での権威あるサイトとして知られています。2023年春にABCニュースによるスタッフ削減が行われた際に創業者のネイト・シルバー氏が退き、6月下旬からはかつてThe Economistにおいて選挙予測サイトを立ち上げた実績を持つ若干26歳のエリオット・モリス氏が責任者として就任しています。

【関連記事】トランプ大統領の勝率は?米大統領選予測サイトを23歳のデータ・ジャーナリストが作成!(2020年6月公開)

度重なる起訴はトランプ氏の資金調達にも貢献〜活発な寄付依頼のマーケティング活動

トランプ氏の法的な訴訟に対する戦略と政治的なマーケティング戦略は絡み合っているようです。以下の図はウォールストリートジャーナルの解説動画の中で示されているトランプ陣営に対して寄せられた寄付額の推移です。3月末の1回目の起訴に比べて勢いは減少しているものの、起訴される度に献金が集まっていることが伺えます。

ウォール・ストリート・ジャーナルより引用 

SNS広告や電子メールを通じた献金依頼キャンペーン活動

起訴される度に多くの献金が寄せられるのはニュースの報道等でトランプ氏の認知度が高まっていからだけではなく、Facebook広告やトランプ氏が立ち上げた独自のSNS(Truth Social)での投稿、或いは電子メールでのダイレクトメールを通じたキャンペーンを積極的に行っていることも見逃せない点です。

前回のコラムでもご紹介したMeta社が提供している広告ライブラリを閲覧することで、トランプ陣営が以下のような様々なパターンの広告画像、動画、テキストを使った広告素材を、ターゲットグループ毎にカスタマイズして配信していることが伺えます。

トランプ支持者からの寄付を求めるフェイスブックのスポンサー広告 

トランプ氏が2022年2月に自ら立ち上げた独自のSNSである「Truth Social(トゥルース・ソーシャル)」においては約590万人のフォロワーに対し、起訴されてからの1日の間に20回以上もの投稿を通じ「法的なプロセスを政治的な武器とした」として民主党を批判したり、「魔女狩りだ!」等と訴え、支持者を鼓舞し寄付を募ってます。

また、別の保守系SNSで今年の4月に閉鎖されたパーラー(Parler) の過去の登録ユーザー宛にスポンサーメールとしてトランプ氏からのメールが送付されています(私もかつてパーラーに登録していたため、本日(8月16日)送付されたメッセージを目にしました。「新たな起訴に関する私の声明」と題したメールでは以下のような強い口調で民主党への批判的な文章が綴られています。過去に何度かこうしたメールが送られていることがニュース記事でも報じられてます。

*[Donald Trump Is Still Using Dead Parler’s Email List(パーラーは死んだが、トランプはまだそのニュースレターを使って資金を集め、リベラル派を圧倒している)](https://gizmodo.com/donald-trump-still-using-parler-email-list-1850543570)  [6/16 Gizmodo] 

メールに書かれているメッセージの一部
“「アメリカでは、正義と法の支配は公式に死んだ。

CNNでさえ彼女の正当性を疑問視するほど極端な反トランプバイアスを持つ左翼の検察官は、犯罪を犯していないにもかかわらず、私を起訴した。

これは、民主党による4回目の選挙妨害行為であり、ホワイトハウスをペテン師ジョーの支配下に置き、2024年の選挙で最大の対立候補を投獄しようとするものである。”

メールの末尾には『「私は決して屈しない」と宣言した同士たち』というキャプションをつけた動画で寄付者を募る構成になってます。

Palerから配信されたメール内の動画

3回目と4回目の起訴がこれまでのように多くの献金をもたらし、共和党内での支持を更に高めることになるかはまだ分かりません。とはいえ、4回にも及ぶ起訴をされたにも関わらず、こうした状況を逆手に取るような選挙キャンペーンが綿密に計算され、様々なチャンネルで支援を募る動きがあることは注目に値すると思われます。日本で生活していると想像もできないような選挙戦が行われていると感じることも多いですが、選挙活動におけるデジタルメディア戦略の一つの例として、「地道」で 「したたかな」取り組みを行っている点はアメリカのネット選挙の現状を知る上で参考になりそうです。

8月23日(水)に開催予定の「ネット選挙フォーラム 2023」(主催:イチニ株式会社(選挙ドットコム))において「アメリカ大統領選挙に見るネット選挙とNIPPONの可能性」と題したセッションのモデレーターを担当させていただきます。よろしければぜひご参加ください。

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