子どものころ小銭を握りしめて、いつも楽しみに近所の駄菓子屋さんに行っていました。
大人になった今でも子どもと一緒に駄菓子屋さんに入るときは、ワクワクしてついお菓子を手に取ってしまいます。
「まほうのだがしや チロル堂」は、普通の駄菓子屋とは少し仕組みが違うようです。
2022年度のグッドデザイン賞を受賞した、まほうのだがしや チロル堂。
2023年2月福山市に「チロル堂 大門店」がオープンしました。
「昔からある駄菓子屋さんとは違うお店ってどんなところだろう」と、心躍らせながら行ってきたので紹介します。
まほうの駄菓子屋
「まほうのだがしや チロル堂」は、奈良県生駒(いこま)市に本店があります。
“駄菓子屋”とお店の名前についていますが、いくつもの顔をもっているのです。
- 駄菓子屋
- 子どもの居場所
- カフェ
- 憩いの場
アトリエe.f.t(アトリエ イーエフティー)代表の吉田田タカシ(ヨシダダ タカシ)さんらが、「地域で子育てをする」感覚を共有したいとスタートさせました。
吉田田さんは、「楽しい」をつくりだすことをベースとして活動している人です。
チロル堂のコンセプトは「つくる・ひらく・わける」。
- つくる=自分たちでつくる
- ひらく=誰でも来やすい場所を開く
- わける=余っていれば分け合う
このコンセプトが、チロル堂の「まほう」につながっているのです。
まほうの仕組み
「チロル堂」には、1日1回100円で回せるガチャ(カプセルトイ)があります。
それは、18歳以下の子どもだけが回せる、まほうのカプセルが入っているガチャです。
カプセルの中には、チロル堂の中だけで使える通貨「チロル札」が1~3枚入っています。
チロル札1枚は店内で「100円」として使えたり、カレーになったり。
つまり、「まほう」によって100円が100円以上に変わるのです。
今日は、まほうがかかるかな。
子どもたちはドキドキしながら、ガチャに向かいます。
かわいい印が押されている竹製のチロル札が大好きで、やって来る子どもたちも多いそうですよ。
チロる(寄付する)
チロル堂では、大人が寄付をすることを「チロる」と言っています。
チロる(寄付する)方法は、いくつかあります。
- ランチを食べて
- 駄菓子屋や野菜などお店に必要なモノで
- 現金で
- 振り込みで
カフェでは誰でも飲食を楽しめますが、大人用のメニューにはチロ(寄付)がついています。
つまり「ランチやドリンク代に寄付を含んでいる」ので、おいしいものでくつろぎながら子どもたちを「応援」できるのです。
子ども用のメニューはチロル札でも購入できます。
子どもたちが店内で買う駄菓子やランチに使う野菜など、直接「モノ」を持っていくことでも寄付になります。
近くに住む人たちから自家製の野菜をよくもらうので、とても助かっているそうです。
チロル堂 大門店
2023年2月、福山市大門町に「チロル堂 大門店」がオープンしました。
カフェや貸しスペースとして利用できる「然〜あるがまま〜」は、古民家をリノベーションした施設です。
お店の中にはたくさんの木や自然素材が使われていて、名前のとおり、あるがままのんびりとくつろげる場所でした。
チロル堂はその場所で、毎週火・水曜日の正午〜午後5時に営業しています。
チロル堂 大門店を運営しているのは、10人のスタッフです。
不動産会社を経営する人や、介護士の資格をもつ人など働いている環境はさまざま。
それぞれ違う仕事や特技を持つ個性豊かなスタッフがいますが、みなさん子どもを支えたい想いは同じです。
営業日にお店に出られる人が、代わる代わるで手伝いにきています。
チロル堂の理想は、家族のように「地域で子どもを育てて、見守る」こと。
運営しているスタッフたちや、地域の人たちも一緒に子どもたちを見守ります。
子ども食堂として
近くにある小学校の子どもたちは、学校が終わってから気軽にふらっと立ち寄る、そんな場所になっているようです。
1日に平均およそ20人の子どもたちが来るのだそう。
100円でガチャを回すと出てくる店内通貨の「チロル札」。
チロル札を手に握りしめて自分で好きな駄菓子を選ぶのは、きっと待ちに待った楽しい時間ですよね。
お腹が空いたらおいしいご飯も食べられます。
お店の中には広い大きなテーブルがあって、そこで宿題をする子どももいました。
わからないところがあれば、子どもたち同士で教え合うことも。
新たな出会いもあり、学校とはまた違う友達との交流ができそうですね。
本やおもちゃも置いてあるので、みんな思いおもい好きな時間が過ごせます。
「自分がいていい場所」がある。
その安心感が、子どもたちの心に温かい灯をともしています。
カフェとして利用する
カフェとしても誰でも利用できるチロル堂には、ランチや手づくりおやつ、ジュースやコーヒーなどのドリンクがあります。
野菜がたっぷり入っている体にやさしいランチは、大人にも子どもにも人気です。
小さいお子さんが野菜をパクパク食べると喜ばれているそうですよ。
そのとき手に入る材料によって、あるいは調理を担当するスタッフによって、メニューはいろいろ変わります。
けれども、変わらないのは「食べた人がほっとするように」との心配り。
メニューのほとんどに「チロ(寄付)」がついているので、食べることで応援ができますよ。
Instagramに、おやつや日替わりプレートの内容など載せてあるので、チェックしてみてくださいね。
気軽に集える憩いの場
だれかと何でもいいからおしゃべりがしたい、子どもを連れてどこかでのんびりしたい、などと思ったときに気軽に行ける場所として利用する人がたくさんいます。
小さいお子さんと一緒でものんびりとゆっくりできる場所です。
Instagramを見つけて市外など遠くから来る人もいるのだとか。
オープンは週に2日だけですが、常連さんたちはいつも心待ちにしているようです。
取材に行った当日は、スタッフ10人のうち5人が集まってくれました。
来てくれたスタッフに、「チロル堂 大門店」を立ち上げたきっかけや想いなど詳しくお話を聞きました。
チロル堂 大門店のスタッフにインタビュー
チロル堂をオープンする以前は、カフェや貸しスペースとして利用していた場所だった「然〜あるがまま〜」。
どんなことがきっかけでチロル堂としてオープンしたのでしょうか。
当日来ていたスタッフの沼本さんを中心に、経緯やこれからの展望などについて聞きました。
誰でも過ごせる居場所を作る
──チロル堂 大門店誕生のきっかけを教えてください。
スタッフたち──
誰でも過ごせる場所がほしいと想ったことがきっかけです。
新型コロナウイルス感染症が流行していたとき、公園は使えなくなり、自粛を余儀なくされ、友達づくりの機会が少なくなりました。
子どもも私たち大人も閉塞感がありましたよね。
知り合いたちと「この日のこの場所に行けば誰かに会える、そんな場所があるといいよね」と話していたときに、タイミングよくチロル堂の募集があるのを見つけました。
今、私が持っているこの場所を使えばできるな、とひらめいたんです。
チロル堂の全国展開の募集があったとき、希望者は本店の奈良県生駒市へ行く必要がありました。
研修を受けに行くと「思いを共有できるなら、オープンしていいよ」と許可をいただきました。
地元の福山市大門町でオープンするにはどうすればよいか、吉田田タカシさんや創始者メンバーに相談していたころが今となっては懐かしいです。
その後「まほうのだがしやチロル堂」の仕組みが、2022年度グッドデザイン賞を受賞されメンバーみんなで大喜びしました。
この取り組みを地元福山でオープンできたことを大変うれしく思っています。
何かが得意な人と一緒に楽しむ日「○○がおるでぇ」
──チロル堂 大門店の特徴はありますか?
スタッフたち──
「〇〇がおるでぇ」といって、特定のスタッフとおしゃべりをする日などを設けていることです。
チロル堂 大門店にはさまざまな経歴や特技を持つスタッフが10人います。
何かが得意な人と一緒に、ちょっとした悩みや今日の出来事などの“他愛のない”を楽しんでもらう日が「〇〇がおるでぇ」。
コーヒーを飲みながら、ひと息つく時間を楽しむだけでもいいんです。
育児中のお母さんやお父さんたちには、お子さんと一緒にぜひ遊びに来てほしいですね。
毎日、家事や育児に追われていると出かけることもできず、だれとも会っておしゃべりしていないという日もあると思います。
心に余裕がないと、イライラしてしまい、子どもや家族に優しくできないことがありませんか。
楽しくおしゃべりをしていると、自然と笑顔になれますよね。
集まった人同士でお互いを労いほめたたえる会というものもあるんですよ。
そんなほっこりした時間が、お母さんやお父さんたちの元気のもとになったらいいなと思っています。
──チロル堂をオープンしてみて気づいたことはありますか?
スタッフたち──
事業として継続していくには、正直、今の仕組みだけでは難しいと感じています。
そのためには、まずたくさんの人に知ってもらわなければいけません。
そして、この活動に共感してもらい、チロル堂 大門店に足を運んでもらうことが必要だと思っています。
他県でチロル堂を運営している人たちからお話を聞いて、試行錯誤しているところです。
新たな試みとして、2023年5月末の夜にチロる酒場をオープンしました。
初めてでしたが、たくさんの人が来てくれて大盛況だったんですよ。
これからも楽しみにしていてくださいね。
新たな拠点作り
──これからやりたいことはありますか?
スタッフたち──
福山市内に、また新たな拠点作りをしたいと考えています。
今、開店に向けて準備をしているところです。
子どもたちだけではなく、大人たちにとっての居場所にもしたいので、チロル堂の形にはこだわっていません。
もともと、チロル堂の前から運営していた鶴亀大福では、「今こんなことに困っている」「こんな場所があったらいいよね」との想いから、介護カフェやお茶会などの活動をしていました。
子どもとかお母さんとか、人を「枠」で区切っていくのではなく、誰もがつながっていける場を目指しているところです。
チロル堂 大門店の近くの物件を自分たちで少しずつ改装しています。
子どもたちも手伝いに来てくれて、楽しみながらリフォームしているんですよ。
壁紙をはがしそこに絵を描いて、子どもたちはどうすれば楽しい空間にできるのか一生懸命考えます。
近所の人や知人・友人は、ありがたいことに野菜やくだものを持って来てチロって(寄付して)くれるんですよ。
チロル堂の活動を通して、どんどんつながりができて「つくる・ひらく・わける」の輪が広がってきているのがうれしいですね。
おわりに
チロル堂 大門店は、2023年2月にオープンしてからまだそれほど時間は経っていませんが、さらに活動の場をひろげるための準備が着々と進んでいます。
子どもも大人もどんな人も、温かな気分になれる場所が増えていくのですね。
どんどん進化していく「まほうのだがしや チロル堂 大門店」から目が離せません。
ちょっと息抜きをしたくなったときや、誰かと話をしたくなったときには、一度訪れてみてはいかがでしょうか。