『外道』はロックファン必聴の日本を代表するアルバムである

『外道』('74)/外道

外道の結成50周年、バンドの中心人物である加納秀人の音楽活動55周年を記念した豪華BOXセット、『外道50th Anniversary』BOXが8月16日に発売された。渡辺香津美、山本恭司、角松敏生、デーモン閣下、ROLLYらがゲスト参加した新録による2枚組の同名CD、ライヴレコーディングしたLP『外道 拾得LIVE』に加えて、公式ブック、Tシャツを同梱。ファン垂涎、必携のアイテムと言える。今週はその外道の1stアルバム『外道』を取り上げようと思う。ライヴ盤だからこそ、その瑞々しくも卓越した音像が、包み隠されることなく収められた作品である。

このサウンドはロックの本質

M1「香り」から完全に持っていかれる。ヘヴィだがキャッチーなギター。疾走感がありながらブレずに安定したリズム隊。そこに乗る、ポップなユーモアを帯びた《ゲ…外道》や《サ……サルマネコジキ》といった歌。ロックの定義なんてこの先、一生言語化できないだろうが、このサウンドが醸し出す空気感は間違いなくロックである。ロックとはこういうものであると言ってもいいかもしれない。ロックの必要条件が全部入っている。『外道』はそういうアルバムだ。本作未体験という方で、くるり、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、NUMBER GIRLなど、2000年前後の日本のロックが好きな方、併せて、それらのバンドからの影響を公言しているASIAN KUNG-FU GENERATION、9mm Parabellum Bulletなどが好きだという方にはお薦めしたい…というか、そこら辺の人はマストリッスンの一枚と断言してもよかろう。

外道というバンドのすごさは追々語っていくとして、まずは『外道』収録曲を解説してみよう。M1は前述の説明に尽きるとは思うが、《サルマネコジキ》と言いながら《外道はおのが香り/外道はおのが姿》という歌詞は皮肉が効いていると思えると同時に、何となく哲学的にも感じてしまう。そのひと筋縄ではいかないところもロック的と言えるかもしれない。

M2「逃げるな」はスピーディーだったM1から一転してテンポは落ち着くが、ヘヴィさは相変わらずで、むしろどっしりとした重さがいい感じに伝わってくる。ギターリフはやはりキャッチーで、どちらかと言うとベースリフが引っ張っていたように思われるM1に対して、M2ではギター、ベースのユニゾンに近い感じで迫ってくる。ドラムは必要以上にフィルインを入れている様子で、これは弦楽器が鳴らす白玉の隙間を埋めていると思われる。バスドラムの連打も聴こえる(2バスかもしれない)。合わさった3つの音の圧が強い。かと思えば、間奏前でリズム隊はシンコペーションをピシッと決めるキレの良さも見せる。間奏で鳴らされるギターソロがまたいい。ヘヴィさから少し表情を変えた旋律を奏でるのだが、これは何ともなまめかしいというか、色っぽい。加納秀人(Vo&Gu)は決して勢いだけで迫るギタリストではないことが分かる演奏だ。アルバム冒頭2曲で掴みは十分である。

M3「外道」はアルバムタイトルチューンであると同時に、バンドのアンセム的な楽曲であろうか。以下の歌詞からすると、それもあながち間違った見方でもないだろう。

《外道は行く 未来のない明日へ/絶望という名の 旗を かかげ/破壊といういけにえを たっぷり 供えて/永遠の安らぎに いざなう》《外道は行く 未来のない明日へ/舌先三寸の 湖を渡り/せせら笑いを浮べ/地獄のみにくい 豚共の肉をあさりに》《見よ 外道は 美しく 空しい/犠牲の炎で 愚か者の楽園を照らす》(M3「外道」)。

かなり退廃的内容だ。《未来のない明日へ》、Sex Pistolsの「God Save The Queen」の《There’s no future, no future/No future for you》を少し彷彿させるが、発表は外道のほうが4年ほど早い。まぁ、あちらは英国王室をこけにしたもので、趣旨はまったく異なるわけだが、明確な対象が分からず、抽象的な言い回しをしている分、M3は多様な解釈ができるとは思う。個人的にはロックという音楽ムーブメントの本質、ひいては外道というバンドの存在理由や意義を示したものと解釈もできるかもしれないと思っているのだが、果たしてどうだろうか? サウンドがThe Rolling StonesやThe Whoを想起させるものでもあるので、そんなことも考えてしまった。

秀でたギターと絶妙なグルーブ

M4「ロックンロールバカ?」はChuck Berryの「Johnny B. Goode」的…というか、そこから派生して古今東西あらゆるロックに引用されている3コードのロックンロール。ここでも《ドザクサ まぎれ Rock'n Roll/下手な英語で 銭もうけ》という歌詞が痛烈で、サウンドと併せて考えると間違いなくシニカルな楽曲だとは思う。ここではギターのカッティングにも注目したい。イントロはそれこそ例のベーシックなメロディでありつつも、歌が入るとその背後でのストロークはかなり細かい。鋭いと言った方がいいだろう。M4をオールドスクールなロックンロールで終わらせていないのはギターサウンドだし、これも外道の特徴であると思う。

M5「ダンスダンスダンス」ではそれがさらに発揮されている。ファンキーなダンスナンバー。曲調が曲調だからだろう。加納のギターが冴えわたっている。比べるわけではないけれど、個人的には、のちのBOØWYの「BAD FEELING」での布袋寅泰を思い出す軽快さだと思うし、高速での弦の刻み方はTMGEのアベフトシを想起した。また、M5は《外道のリズムに/踊り狂おう Dance Dance》と歌われ、イントロ前では加納から手拍子のリクエストがあり、中盤では観客とのコール&レスポンスも収められている。そこでの三三七拍子は外道のライヴの定番だったようだ。外道は暴走族に支持されたということで物騒なバンドというイメージもあろうが、この辺からは、バンド自体は大衆的というか、ロック的なフレンドリーさがあったこともうかがえる。

M6「ビュンビュン」からはLPのB面。《いかした皮ジャン リーゼント/ビュン・ビュン・ビュン・ビュン/俺の自慢のスピード マシン/可愛い スケを 後に 乗せて/OK! Baby go go go》という歌詞からは、フレンドリーなバンドではあったとはいえ、彼らも暴走族を意識していたことが分かる。ノイジーで疾走感のあるギターサウンドは確かに暴走を連想させるものではあろう。理解はできる。

その一方で、M7「いつもの所で」ではミドルテンポのブルースを聴かせているのだから、勢い粗暴なバンドとだけで片づけられない。ここでは、やはりギターが素晴らしい。テクニックだけではなく、フィーリングもしっかりある。中盤からラストまで楽曲の半分がギターソロとなっていて、そう聞くと冗長だと思われるかもしれないが、聴く者を惹きつけるメロディー展開は、個人的にはもっと聴いていたいと思うほどだ。リズム隊がボトムをがっちりと支えることで絶妙なグルーブを生み出しているのも、魅力的に聴こえる要因だろう。圧倒的に聴いていて気持ちのいいナンバーだ。

続くM8「腐った命」、M9「完了」では再び疾走感のあるロックチューンを展開。ともに印象的なギターリフが楽曲全体を引っ張る様子はまさしくロックそのもので、本稿冒頭でいくつか日本のロックバンドを実名で挙げたけれども、それらが好きな人にとってM8、M9のリフとその耳触りは大好物ではないかと思う。M8では前述したカッティングも聴けるし、《目を覚ませ 奴隷達/墓場の中から 這い上がれ》《お前の命の輝きを/目にもの 目にもの 見せてやれ》といった歌詞もポジティブで、ストレートにロック的と言える。M9はとにかく演奏が圧巻。M7は楽曲の半分がギターソロと紹介したが、M9はさらに長い。楽曲のタイムは7分半程度で、後半30秒くらいは観客の歓声と拍手なので、演奏はおおよそ7分といったところ。『敦盛』の一節を引用した歌は1分30秒くらいまでで、残り、つまり5分半程度は全て演奏で占められている。8ビートを刻むドラム、生真面目とも思えるほどに延々とリフレインされるベースに乗せて、暴れる続けるギター。ギターは間違いなくアドリブだろうが、厭味のないフレーズが鳴らされているからだろうか、緊張感が持続していく。5分30秒頃にはリズム隊も変化し、それまで以上にグルーブが際立ってくる。ライヴのクライマックスに相応しい熱演である。演奏後の観客の反応には感嘆符“!”が混じっているように思えるのは筆者だけではあるまい。

日本のロックバンドのレジェンド

M10「やさしい裏切りを」はライヴのアンコール曲。“外道を愛するみなさんに1曲捧げます”とのMCのあとで鳴るのはアコギのストロークである。歌も叙情的で、サウンドからすればフォークソングと言ってもいい代物だろう。意外にも…と言うと外道に失礼かもしれないが、そう思う人がいてもおかしくないだろう。ただ、この『外道』ののちの楽曲を聴けば、その音楽性は大分幅を広げているので、加納の中では一本筋が通っているのは間違いないと思われる。歌のメロディーラインは、前述したM2やM7のギターからも伺えたところだし、《嘘を缶詰にして売り歩くのやめた》や《悩みと涙を 仮面の下にしまい/歩き回るのは/これで終わりにしよう》といった歌詞も本作の他の楽曲に通底する文学性もある。

M11「スターと」はトラックとしてはラストなのだが、これは楽曲ではない。如何にも暴走族らしいバイクとそのラッパらしき音が収録されている。外道のライヴの空気を音源に遺そうと画策したのだろうか。タイトルは“Start”にもかけているようにも思えるし、そこにはユーモアがあるようにも感じられる。何かを暗示したのかもしれない。外道の奥深さを伺わせるというと、いささか大袈裟かもしれないけれど、余韻を残すラストではあろう。

さて、ここまで解説してきたアルバム『外道』のリリース年を改めて言えば、1974年である。この1974年は他にどんなロックバンドが世に出たかというと、四人囃子の『一触即発』が同年のリリースで、カルメン・マキ&OZ;も同じ年にシングル「午前一時のスケッチ」でデビューしている。甲斐バンドのデビューシングル「バス通り」も1974年発売(同曲は甲斐氏にとっては黒歴史らしいが…)。アメリカではBad Companyがデビューアルバムを発表し、AC/DCがシングル「Can I Sit Next to You Girl/Rocking In The Parlour」を携えて本国オーストラリアでツアーを行なったのも1974年だ。忘れてはならないのはTHE ALFEE。当時はALFIEという名前で、デビュー曲「夏しぐれ」は松本隆作詞、筒美京平作曲のアイドル的なフォークソングでロック色はほぼなかったし、ブレイクするにはそこからまだ時間を要したけれど、THE ALFEE が1974年にデビューしたのは疑いようのない事実だ。そこからずっと現役を続けているTHE ALFEEはすごいし、上記のバンドもみんな、すごいのだが、外道もかつて何度か解散、活動停止しているものの、2010年以降は活動を継続しているようなので未だ現役である。外道もまた日本のロックバンドのレジェンドなのだ。そこをダメ押し気味にも強調しておきたい。『外道』を聴いてもらえれば、同時期の洋楽に勝るとも劣らないサウンドであることも分かってもらえるはずで、そこを考えると、これまでの評価が不当だとまでは思わないまでも、正直言って、まだ低いように思う。結成50周年を機に今まで以上に多くのリスナーに届いてほしいと願うところだ。

願うと言えば、個人的にはこのアルバム『外道』の復刻もお願いしたい。1989年、1998年、2002年に復刻していたようだが、現在は廃盤の模様。収録曲そのものは45周年記念でリリースされた『外道参上』(2018年)に曲順もそのままに収録されているし、こちらはサブスクでも聴ける。リマスタリングされているようで、音もクリアーでもある。M10「やさしい裏切りを」は別テイクのバンドバージョンが収められていて、M11「スターと」もシンセっぽいが被せてある(細かく調べてないが、この他にも加工しているものがあるかもしれない)。それはそれで構わないのだけれど、オリジナルというか、1974年版の方がライヴの空気感を余すところなく再現しているように思う。全体的に音はざらついているし、籠ってもいるのだが、そっちのほうがリアルであるような気がする。CDやレコードじゃなく、サブスクに載せてくれてもいいので、何とかお願いしたい。需要はあるように思う。

TEXT:帆苅智之

アルバム『外道』

1974年発表作品

<収録曲>
1.香り
2.逃げるな(ALBUM VERSION)
3.外道
4.ロックンロールバカ?
5.ダンスダンスダンス
6.ビュンビュン(ALBUM VERSION)
7.いつもの所で
8.腐った命
9.完了
10.やさしい裏切りを
11.スターと

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