【MLB】不調にあえぐゲレーロJr.は本当に不調か?

写真:2021年には大谷と本塁打王を争ったゲレーロJr.だが…

MLBファンに「今季期待された成績を残せなかった選手を挙げて」と言ったら、どの名前が挙がるだろうか? 巨大契約を結びながらも相次ぐ離脱に悩まされるアーロン・ジャッジ(ヤンキース)? それともサイヤング賞を受賞した昨年から一転、大きく負け越すシーズンを送るサンディ・アルカンタラ(マーリンズ)だろうか?

実際に聞けば十人十色の答えが返ってくるだろうが、今回はブルージェイズのブラディミール・ゲレーロJr.に注目したい。2021年には大谷翔平やサルバドール・ペレス(ロイヤルズ)と三つ巴の本塁打争いを展開。最終的に48本塁打で本塁打王を獲得した選手だ。

そのゲレーロJr.は今季、ピリッとしないまま9月を迎えようとしている。ここまでの成績は564打席で打率/出塁率/長打率が.267/.340/.438と、いずれも過去3年間で最低に近い成績。いずれもリーグ平均よりは上だが、ゲレーロJr.が残してきた成績を考えれば物足りない。本塁打も20本で、3年連続30本塁打を達成できるか微妙な状態になっている。

もともと守備に難があり、打撃での貢献がそのままチームへの貢献につながるゲレーロJr.だが、この不調の影響で総合的な貢献度を計るWARは大幅低下。本塁打王に輝いた2021年には6.3、2022年でも2.8あったのが今季はわずか0.4(Fangraphs算出)。ほとんど控え選手と変わらない程度の貢献しかできていない。

いったいゲレーロJr.の成績に何が起こっているのだろうか。

ここまで見ると何か重大な問題があるようにも思えるが、MLB公式のデータサイト「Baseball Savant」の成績を見ると少し認識が変わってくる。たとえば打球速度や角度から算出された推定打率である「xBA」を見ると、今季のゲレーロは.302。両リーグの規定打席到達者138人中5位の好成績だ。平均の打球速度は92.8mphで、本塁打王となった2021年(95.1mph)ほどではないものの、規定打席到達者中9位。多くの面で依然としてリーグトップクラスの打撃技術を備えていることがうかがえる。少なくとも、この程度の成績で終わるような打球の質ではないことは確かだ。

このゲレーロの事例は、ゲレーロほどの打撃技術を持ってしても毎年突出した打撃成績を残し続けることは簡単ではないことを示しているように思われる。様々な外部環境や偶然によって、本来アウトの打球がヒットになったり、あるいはその逆になったりするからだ。Fangraphsの上級ライターであるダン・シンボースキー氏によれば、実際の打率が予測された打率と同程度に安定するためには1154打席、つまり2シーズン弱の打席が必要だという。

ある程度このような要素を理解して選手を応援することも、野球を見るうえでは重要なのかもしれない。

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