債務が免責されない可能性も…【推し活】がトラブルに発展したのはなぜか?

このところ、「推し活」という言葉をメディアの特集で目にする頻度が増えているように思います。「推し活」の定義がこうだ、というものは定かではないですが、好きな人、キャラクター、モノなどを応援すること、と理解しております。

似たような事象を指す言葉として、「オタク(おたく、ヲタク)」という表現も用いられていましたが、完全に同じ意味なのかどうかと言われると、さてどうなのでしょうか。

今回は、「推し活」を発端とするトラブルをご紹介したいと思います。


推し活トラブルの実例、アイドルに……

Aさんは仕事のストレスから、体調を崩すことが増えていました。自宅に引きこもり、寝ているだけの日も増えていきました。そんなAさんを心配した友人から、気分転換にアイドルのライブに誘われたことをきっかけに、Aさんは初めてアイドルのライブに行ってみました。

ライブに参加したところ、日ごろのストレスを忘れて楽しめることに気づいたAさんは、そこからアイドルの推し活の沼にはまっていくことになりました。その後、Aさんはチケットを取るためのファンクラブに入ったり、遠征をしたりと推し活にどんどん熱中していきました。

突発的にまとまったお金が必要になったことも要因ですが、次第に月の給料だけで活動資金を賄うことが難しくなってきました。まずは身近な物を売却することから始まり、それでも不足分を補えない状態になると、キャッシングを用いた借り入れをするようになりました。給料日が来れば返せるから、という気持ちで始めた借り入れでしたが、徐々に借り入れ額が増えていきました。

1社から借り入れられる金額が上限に達すると、別の会社でキャッシングカードを発行し、さらに追加の借り入れをするようになりました。もちろん、Aさん自身もこのままでは破綻するということは気づいていましたが、応援しているアイドルへの気持ちが突然冷めることもなく、なかなかその状態を抜け出せずに居ました。

そうこうしているとき、ついに借り入れをしても返済が追い付かない状態に陥り、結局債務整理の相談を専門家にすることになりました。専門家が手続き進めた結果、債務総額は数百万円になっており、支払い方法の調整などではもはや解消できない状態になっていました。

Aさんはこうして、弁護士に依頼して自己破産するしかない、という事実に直面しました。

推し活がトラブルに発展する背景

推し活をしていたというAさんの借り入れ状況やお金の使い方を見ていくと、知人や家族に依頼して重複しファンクラブに加入していたり、知り合いに頼んでチケットを取ってもらったり、多く当選したチケットを知人に譲ったり、定価で売却したりしていることがわかりました。またグッズの購入や、限られた地域で放送されているテレビ番組の出演を追ったりもしていました。

ただ、チケットを複数購入した費用は、知り合いの分の場合は後からチケット代金を受け取っていますし、そうでない場合も定価で売却できたりしていました。1つ1つが数十万円するという購入歴ではないですし、遠征費も頻繁にかかっているというわけではありませんでした。

それでも、Aさんの総借入額は相当な金額に膨らんでおり、積もり積もって膨らんでいくことの怖さを感じる履歴でした。

Aさんは、推し活をしているときに出会った友人が、自分よりも頻繁に遠征に行ったり、海外まで出向いたりしている姿をみて、借り入れをしているのではないかと心配している、と話してくれました。自分自身の経験から、借り入れをしていれば自分より高額になっているはずだと感じてもいるようです。

Aさんは副業、定価より高額でのチケット転売、定価より安価でのチケット転売ということはしていませんでしたが、推し活費用の捻出のために、そういった行為をしている場合、勤め先が副業禁止の場合に会社に副業が発覚すれば処分を受けるリスクがあります。チケットの高額転売は、チケット不正転売禁止法違反になる可能性があります。逆にチケットを定価より安価に転売していた場合は、チケット不正転売禁止法には引っかかりませんが、相当対価で売却せずに借金で購入した物を売却して、財産を目減りさせ、債権者の債権回収可能性低下させたことになるので、仮にAさんが負債額が大きくなりすぎてしまい、法的な債務整理手続きをとろうとした際、免責不許可事由にあたると判断され、債務が免責されない可能性もあります。

推し活との向き合い方

Aさんは今回、自分自身に起きたことから、自分の生活を見直して反省することはもちろんですが、推し活を楽しんでいるすべての人に、同じような失敗をする前に、ちょっと立ち止まって、無理をしていないか考えて欲しいので、記事にして伝えて欲しいと話をしてくれました。

私も昔から『FINAL FANTASY』が大好きで、今風の表現をすれば「推し活」にあたるのではないかと思っています。関連する商品をみると欲しくなりますし、それを手に入れようと思って頑張っていた学生時代が懐かしいところです。

さらに、最近SKY-HIさんのファンになり、初めてライブに参加してみました。全国で複数回のライブ開催があるので、チケットが取りやすそうな所、行きやすそうな所と、複数の応募を検討した経験があります。自宅から離れた会場の場合、チケット代に加えていわゆる遠征費と言われる交通費や宿泊費もかかってきます。「なるほど、推し活も大変だな」と、しみじみ感じました。

握手券のために、同じCDを複数枚購入するという話を聞いたことがあると思います。その場合は、同じ物に一気にいくら使ったということがわかりやすく、そのために事前にお金をためておく人も多かったのではないでしょうか。ただ、そういった目立つ出費がなくても、1年間続くツアーを毎年可能な限り追いかけていこうと思うと、こつこつと確実に推し活予算が増えていくことは間違いないです。

推される側も、きっと無理をして欲しいとは思っていないはずです。テレビ、ラジオ、SNSというさまざまな媒体で触れ合える場を用意してくれているのは、無理をしないで会える場所を用意する、という意味もあるのではないでしょうか。

最近は地下アイドルという、身近で活動してくれるアイドルの活動や、インターネット上のキャラクターであるVirtual Riverの活動も盛んです。応援している人数が、大手芸能事務所に所属している芸能人に比較して小規模であることから、自分が頑張ることでこの子を押し上げているんだ、ということを実感しやすい反面、あと少し無理をしようと頑張りすぎてしまいやすいようにも思います。


日常に潤いを与えてくれる推し活が、生活を破綻させるようでは本末転倒。それは誰を、何を、どんな風に応援して推し活をする場合であっても同じです。推し活の楽しみ方の心得として、自分の生活の基盤がしっかりしている中で、人生に潤いを与える目的で楽しむ、ということを提言したいです。

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