堤幸彦が明かす「ノッキンオン・ロックドドア」を“質の高いミステリー”にするためのこだわり、そこに掛け合わさる松村北斗&西畑大吾の“真面目さ”とは

テレビ朝日系で放送中のドラマ「ノッキンオン・ロックドドア」。SixTONES・松村北斗さんとなにわ男子・西畑大吾さんがダブル主演を務める本作は、密室犯罪や衆人環視の毒殺など事件のトリック(=HOW)解明を得意とする“不可能”専門探偵・御殿場倒理(松村)と、ダイイングメッセージや現場の遺留品などから動機や理由(=WHY)を読み解く“不可解”専門探偵の片無氷雨(西畑)のダブル探偵が共同経営する探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」を舞台に、さまざまな難事件に挑んでいく本格ミステリー作品だ。

30分という短い放送時間の中でもSNSでは毎週盛り上がりを見せ、視聴者を魅了している本作。その要因の一つは、演出を手掛ける堤幸彦監督の存在だろう。「トリック」(テレビ朝日系)や「SPEC」(TBS系)などさまざまな作品で“凸凹コンビ×ミステリー”を手掛けてきた堤監督が、今回テレビ朝日で9年半ぶりにメガホンを取ることは大きな注目を集めた。いよいよ後半戦に突入する「ノキドア」、今後の放送をより盛り上げるべく、TVガイドWebでは堤幸彦監督へのインタビューを敢行。ここではその模様をノーカットでお届けする。

――キャスティングや座組が決まっていく中で「こんな作品にしたい」という考えがあったかと思いますが、撮影を通じてうまくいったところ、難しかったところをそれぞれ教えてください。

「当初から非常にコンパクトで質の高いミステリーを作りたいと思っていました。30分枠という特殊性があったので、ギャグ要素やシュールな要素は今回は控えることにして。30分といえど、ちゃんと物語の始まりがあって、混乱と気づきがあって、最終的に謎を解くというパターンは、60分だろうが2時間だろうがちゃんとあるわけで。それを30分にまとめるとなると、あまり脇道にそれることができないんです。同時に、今回のドラマは主要な4人の人物の秘密みたいなものがあって、これが非常に大きいストーリーになっていく。それも含めて撮っていくには、ミステリーに対して真面目なドラマでなくてはならないと予想していました。案の定、撮り始めると若干クスッとできる部分も入れたのですが、主演2人を中心とする骨太のミステリー展開になってきて、30分という枠の中でも逆に強い主張を持つことができるようになったと思っています。『主要な人物がなぜこの4人でなくてはならなかったのか』『今後どうなるのか』みたいなことも、最終回に向けてきちんと語られていくので、そこは楽しみにしていただきたいです。こういうドラマって、主人公たちの持つある種の秘密みたいなものが、毎週話が変わるごとに推理と分離して考えられがちだけど、今回はそれぞれのキャラクターと彼らが持っている過去の秘密みたいなものを分離しなくても違和感なく見られるようになったので、とても良かったと思っています」

――メインストーリーの流れにサブストーリーをうまく組み込めた感覚でしょうか?

「そうですね。一つ謎が解けたと思ったら『え、これ来週分かるのか』『この人たちなんで首の傷を気にしているの?』と、いろいろなことが起こるわけで、それが毎週起きる事件ともそこまで違和感なく共通していて良かったなと。脚本が本当によく書かれていて、演出的には『ホンの文字を解釈して映像化することでイメージを広げていく』みたいなことがほとんどなくて。浜田秀哉さんのお書きになったホンは本当に素晴らしいと思っていて、そのまま朗読でもいけるのではないかと思うぐらいよくできた作品だと思っています」

――「質の高いミステリーにしたい」というお話もありましたが、青崎有吾先生が手掛けられている原作の印象を教えてください。

「今刊行されている2冊を最初に手に取った時に『すごく分かりやすい』と思ったんです。推理ものでもいろいろあって、何度か戻らないと分からなかったり、名前が分からなくなったりと、行きつ戻りつで攻め上っていくものもあるけど、サクサク読めるポップな作りの原作だなと感じまして。なぜかと思っていたら、青崎先生がとてもロックなリズム感をお持ちの方なんです。ドラマ中ではできなかったけど、チープ・トリックのことがちょっと書かれていたりモチーフになっていたり、その時代のポップカルチャーとリズム感が筆のノリとリンクしていて、サクサク読める理由はそこにあるのかなと思ったりしていました。純粋なミステリーマニアであると思うのですが、一度お会いした際に話した時もそういうロックの話で盛り上がって、ミステリー以外のリズム感みたいなものが小説にもすごく大きい効果と読みやすさをもたらしていると思ったので、ドラマ作りにおいてもそれをヒントにできればと思っていました」

――原作中のテンポ感は、文字から映像にするとまた変わってくるのかなとも感じるのですが、演出でこだわられた点はありますか?

「やっぱり、BGMを作っていただいているfox capture planという3人組のバンドの音楽をどう生かすか、というところですね。それと、松村くんと西畑くんが所属しているそれぞれのグループの音楽の使い方に対してもシンプルに集中できた。1時間のドラマを作ろうとすると、最初にいろいろな方向性の曲を40曲くらい考えてからオーダーして、それをどう張り付けるかがリズムを醸し出す重要な要素になっていくんです。でも今回は、30分に凝縮されたミステリーと過去の謎みたいなものをfox capture planと両グループの音楽のみで構成できるので、リズム感を出すことにシンプルで明快なパズルの答えができたと思います。こういった原作小説に加えて、非常に理知的でシンプルだけど的を得た脚本、fox capture planのような、音数は多くないけれど心地よいメロディかつ主張の強いバンドの音楽、そしてSixTONESとなにわ男子のドラマにピッタリとはまるように作っていただいた楽曲、これらのピースがガチっと合うことで、演出的にはとてもやりやすかったです。ほとんど悩まず、答えが明確に出るドラマでした」

――ちなみに、撮影に入る前はSixTONES、なにわ男子にはそれぞれどんなイメージをお持ちでしたか?

「SixTONESは、とにかく格好いいビデオを作る人たちだなと思っていて(笑)。『誰がSixTONESのMVの監督しているのかな』とすごく興味がありました。やっている本人たちは大変だろうとも思いながら、LEDの光の使い方や振り付け、カットワークがすごくよくて。SixTONESの都会的でポップな映像を醸し出すことは本当に大変だと思うのですが、非常にクオリティーの高いものを作っているから、とても格好いいなと思っていました。なにわ男子の皆さんは、個性がある。ライブも面白くて、関ジャニ∞とはまた違うかわいらしさや愛らしさも含めて、ちゃんと自分たちの攻めるところやポイントを分かっているので、面白い人たちだなと思っていました」

――個性的なキャラクターが特徴的な物語だと思いますが、松村さんや西畑さんに「こう演じてほしい」「こういう立ち位置であってほしい」と何かオーダーはされましたか?

「松村くんは見ての通り、素晴らしい顔立ちなので、はっきり言えば無言でも成立するような人なんです。でもそれでは面白くないので『早口でバシバシ言って、言った後はそれがどう広がるかは考えなくていい。少しわがままなキャラであってほしい』と思っていたんです。そういう人が壁にぶち当たって悩む姿がドラマ的には一番面白いわけで、第1話においては、『ちょっと上から目線の人物』というイメージをお伝えしたことがあります。もちろん、彼は事前に本を読んですごく考えてきてくれていて、そんなに外れてもいなかったので、結果的には彼を後押しした形になってとても良かったです。西畑くんは『何かあっても一呼吸飲んでから話をする。ただ、丁々発止ではない、自分だけのリズム感を持っている人にしてほしい』『倒理がガッと来ても、それをキャッチボールのように受け止めるのではなくて、ちょっと変化するリズムを持っていてほしい』と伝えたような気がします。ああいうメガネキャラなので、言っていることはすごく理知的でありたいと思いましたし、登場の仕方も少しずつ変化していくので、『第1話においては倒理が曰(のたま)うことに対して少し受け身になるキャラかもしれないけど、徐々にそれは変化していくから』とも伝えました。リズム感が微妙に違う2人が、コンビとして成立しているのかしていないのか、それがよく分からない感じで出てくるドラマは面白いと思いましたし、松村くんも西畑くんもピッタリ当てはまったと思っています」

――倒理と氷雨にも関わる他のキャラクターについてはいかがでしょう?

「石橋静河さんが演じられている穿地決という人物は、実は一番難しい役なんです。目の前で見れば分かるということに『何してんだお前ら』とボケる刑事、そういうキャラはなかなか演じるのが難しいのですが、それを石橋さんが演じることは本当に面白くてしょうがない。大正解でした。場合によっては大食いキャラになったり、『私は自分の利にならないことはやらない』と言いながら、最後は刑事のさがで話に乗ってきてより一層面白くする。そのリズムの中でも石橋さんは変化球という意味ですごく良かったです。それから、駒木根隆介くんが演じている小坪清太郎というキャラが私は大好きでして。彼は置いておくだけでドラマとしての幅が出ます(笑)。畑芽育さんが演じている薬師寺薬子ちゃんもとにかくかわいらしいし、いろいろなツッコミ要因としては、事務所にいて本当に良かったなと思います。最後は主人公2人の感情を助長する、とてもいい立ち位置のところでもあるので注目していただきたいです。そして何より、私は渡部篤郎さんが大好きで、待ちに待った渡部さんの登場でした。とても若くて格好いい男の子2人が縦横無尽に活躍している中で、渡部さんで締めるというのも、もうこのドラマの“演出得”といいますか、演出していても目がうれしいという気持ちになりました」

――制作発表会見や「ノキドア ドキュメント」(TELASA)でも、松村さんと西畑さんについて「期待通り、それ以上の方」とコメントされていましたが、俳優として感じるお二人の魅力を教えてください。

「松村くんは、どんな役でも引き受けてくれるんだろうなと思いました。今回のようにちょっと面白くて格好いい役どころはもちろん、性格的に破綻してダメな感じ、昭和っぽいレトロな香りのする男性、他の作品もすごく見てみたくなります。同時に、将来的に別の作品で組めるのであれば、今作とは全く違う、もっと“やばい人”をやっても似合うと思います。俳優としていろいろな色に染められるのが一つのタイプだとしたら、そういうことではないかと思うんです。西畑くんはとにかく勘がよくて、自分で役を咀嚼(そしゃく)して現場に臨むタイプ。彼も将来的に何か別の作品を一緒にやりたいのですが、僕が一番面白いなと思うのは、(消臭剤のCMの)鬼太郎で(笑)。あの特徴のある顔立ちを生かした役どころは、今後、彼の前に絶対現れるだろうし、ちょっとシュールで面白い存在感のようなものは出せると思っているので、将来がすごく楽しみです」

――堤監督から見て、松村さんと西畑さんの共通点、逆に全然違うと感じた点をそれぞれ教えてください。

「共通点は、2人ともとても真面目。本当に尊敬に値する真面目さです。役者といっても人間ですから、この時期だと暑さでの疲労感による少しの乱れだったり、若くて勢いのある2人でも、立っているだけでつらいという状況下で限界があるはずなんです。それを全く顔に出さない、カメラ越しにその波長が見られない。ある種のタフさといいますか、これもまた役者に求められる重要な要素で、それはもう十分クリアしています。節度とマナーを持ってわきまえていて、ドラマチームの要求にもちゃんと応え、それ以上の何かを残して帰るという点では、2人とも素晴らしい才能を持っています。2人の違いといえば、見た目のビジュアルが全然違いますから、格好いい顔をした松村くんが変なことやると面白いし、かわいい顔をした西畑くんが格好いいことを言うと格好よくなる。その辺はとても演出しがいがありますし、ドラマの中にもポコっとはまる、面白い2人だと思っています。お二人を見ていると『どう料理しようか』と、どんどんアイデアが湧いてくるんですね。だから、(倒理が)料理するシーンも人参を切るだけでも本当は難しいのに、松村くんは見事にクリアしていて。あのシーン、本当に野外で作っていたので『めちゃくちゃ暑い中でお湯を沸かして、その湯気の中でいかにおいしそうなものを作るか』という意味では、松村くんは天才的だと思いました(笑)」

――会見では「堤監督からのむちゃぶり」について西畑さんが触れていましたが、撮影でむちゃぶりはいくつかあったのでしょうか?

「むちゃぶりはしたかったのですが、30分の中ではちょっとずつしかできなかったです(笑)。むちゃぶりをすると、そこからさらに上乗せをしたり、それが発展したりするのが面白くて。かつて撮らせていただいた『トリック』はまさにその連続の応酬で、それが受け入れられた数少ない作品の一つなんです。今回は多少はむちゃぶりもしましたが、割とおとなしめだったので、皆さんはちょっとほっとしたんじゃないかな?(笑)。唯一、天川考四郎の『アディオス』だけは、渡部さんの顔を見ていたらどうしても浮かんできてしまったのでお願いしました」

――撮影をしていて、「すごい」と感じたシーンはありましたか?

「これから放送になる第6話は、薬子ちゃんのたった一言の謎めいたワードから、倒理たちが大きな事件を推理していくというお話が探偵事務所の中で繰り広げられるのですが、『それは雑談なのか、リアルな事件なのか』というのが数十分の間で盛り上がっていくストーリーなんです。原作でも『これ面白いな』と最初から目をつけていて、プロデューサーの皆さまに『この回をやるんだったら僕が撮ります』と立候補していたぐらいなので(笑)、撮ることができてとても幸せでした。ただ、これって実は舞台のような会話劇で、言ってはみたものの演じる方はとても難しいはずなんです。何かものを使ったりするならうまいこと進んでいくのですが、会話だけで醸し出して表現していくのはなかなか難しい。それを松村くんは1日で撮り終えて見事にやってのけたから、もう『お見事!』としか言えないですね。びっくりしました。話が進んでいる裏でも、氷雨くんは“ある事件”を目の前で監視するのですが、監視しつつスマホでその会話劇に参入して、それに対してリアクションしながら想像だけで自分なりの推理に入っていく。これも、あたかもスマホの電波のみでつながった二つのシーンが同時に進んでいくのでなかなか難しいのですが、とても面白く作ることができました」

――これまで手掛けられてきた「トリック」や「SPEC」などでは“バディ”が大きな鍵を握っていたかと思います。今回の「ノキドア」ではバディという部分で大事にされていることはありますか?

「キャラの違いですね。キャラの違う2人が物理的にも精神的にも旅をすること、そしてその中で成長し、ある時は関係が逆転したり、ある時はボケとツッコミが反転するという、そういう自由度があるキャラ作りができると面白い。今回ははっきりと“HOW”と“WHY”と分かれていますが、時々“HOW”専門の倒理のところに“WHY”専門の氷雨が踏み込んできたり、その逆があったりと、変化と反転があるのが面白くて、これはキャラ作りの醍醐味(だいごみ)なんだろうなと思いますね。それを思いつかれた原作はやはり素晴らしいと思いますし、原作にはない、倒理と氷雨の過去にまでさかのぼってキャラ作りをされた浜田先生の洞察力は見事です。そこまで書かれているから、リーディングでも成立するドラマという気がします。これ以外の作品においてもバディものは数多くやってきましたが、今回は同性のバディという新しい面白さを発見できたと思います」

――今回、松村さんと西畑さんのバディを実際に撮ってみて、魅力的に感じたところを教えてください。

「粗暴な倒理があまり空気を読まず机に足を乗っけたり、人が死んでいるのに『ケッ、こんな事件面白くねえよ』と言ってしまうのを、常識的な氷雨が『足を乗せない!』『言い方!』とツッコむ。そのボケとツッコミはやっていても本当に面白かったですね。だんだんと色彩が変わってくるのですが、皆さんがご覧になって『あ、少しずつ変わってきているな』と思ってもらうのがいいと思います。詳しくは言えませんが、最後には『そういうことだったのか』と分かるような大どんでん返しがあるので、そこまで楽しんでもらえたらうれしいです。僕らのようなドラマや映画を作っている人間にしてみると、『キャラ作りってこうなんだよな』とふに落ちる設定になっていますし、『とにかく楽しみたい』というお客さまからすると、最初に設定したキャラが少し発展して、変化して、さらにその意味が分かるという意味では、とてもいい作りになってるのではないかと思います」

――バディという視点以外に、全体の撮影を通して印象に残っているポイントはありますか?

「今回、僕は3種類の作品作りをさせていただきました。一つは、“キャラクター紹介、ドラマの始まり、物語の始まり”という意味での第1話。非常に基本的なミステリーの作りをしっかりと作ることができて、久しぶりの感覚でした。昔、日本テレビの土曜9時でずっとそういった基本的なミステリーをたくさんやらせていただいて、そこからいろいろな変化球をもっていろいろな種類のドラマを作り上げてきた中で、60代でもう一度原点に戻らせていただいた。そういう意味では、自分でも『俺、まだできるじゃん』と思わせてくれるような第1話でしたね。第2話以降も、ある時は軽妙に、ある時はしっかりと原理主義的に、と後輩たちがドラマを引き継いでくれたから、第6話で私自身が会話のみで成立するミステリーという、ちょっとした変化球に挑戦することができました。実は(第6話は)すごく短時間で撮っていまして。テレビドラマを作る上で短時間というのは、ある種一つの価値だと思っています。『短い時間で面白いものを撮るのはプロの仕事だ』と思っていて、そういう意味では内容の面でも作りの面でも、自信を持って挑戦することができてとても面白かったです。それから、最終回も実は短い30分の読み切りではあるのですが、それまでにまき散らした謎や、倒理、氷雨、糸切美影(早乙女太一)、穿地の4人の過去との対話や決着みたいなものが次々と出てきます。それが、第1話を作った時とは全く異質のドラマを作っているような、そんなストーリーになっています。そこに参加できたこと、『ノキドア』の中で3種類の作品を作れたことはすごく光栄ですし、こんな初老のおじいちゃんが、最も暑いと言われた夏に半分もうろうとしながらこの作品を作ることができたのは、一生の思い出になりましたね」

――「短い時間でいいものを作るのがプロ」という考えは、ご自身の中でも大事にされているのでしょうか?

「私はテレビ局員でもありませんしフリーランスの者ですから、とにかく望まれた以上のクオリティーを、望まれた以下の時間で作るのが使命だと思っています。もちろん、それはこのドラマに限らずいろいろな表現の中で必要なことなのですが、この回においては、そういうスピーディーさがキャラクターたちに何かいい勢いをつけるのではないかと思っていて、両者の作りの思いのようなものがきちんとリンクしていたなと。その分、俳優さんたちには暑い中、ある種のプレッシャー感もある中で頑張っていただいたので、とにかく頭が下がる思いです。スタッフの皆さんも、最近は若くて元気なスタッフさんが頑張っているので、皆さんがこれをステップに、またいろいろな作品に羽ばたいてもらえるといいなと願っています」

――現在第5話までオンエアされましたが、印象に残っている回はありますか?

「第2話、第3話で、シャンパングラスを持って演説中に倒れるという謎はとても面白くて、『床から毒が検出されて、シャンパングラスの中に入っていたのだろう。でも無作為に選んだグラスにどうやって毒を忍ばせたのか?』という基本的な謎が徐々に解明されていきましたよね。あれはスリリングで面白かったです。倒理や氷雨たちが実演しながら解読していったり、解読した後にまた別の秘密が隠されていたりと、髙橋洋人監督が丁寧に作られていたことが面白かったです。第4話、第5話でも、女子高生役の方がたくさん出てきたのですが、女子高生役というと、どんなドラマでも記号的に扱うことが多い中で、稲留武監督が1人ずつちゃんとキャラ付けをしていたことがとてもよかったです。地下トンネルが少し不気味なイメージとしてきちんと浮かび上がってきたので、スリリングで面白く見ることができましたね。スケジュールなどいろいろな事情がある中で、これだけ緊密感のあるドラマを後輩たちが作ってくれたことにはとても頭が下がる思いですし、演出的なドラマのこだわりでは、2話と3話、4話と5話は両者とも方向性が違うけれど、今後、自分たちがグループとして作品を作ることへの財産になると思いました。場所選びにもこだわりがあって、探偵事務所は非常にリアルなスペースなんです。東中野の一角という設定なのですが、その設定で面白いのは、風景の中に中野サンプラザが映り込んでいる、実はそこに意味を持たせているんです。なぜ新宿の方向を撮らずにサンプラザの方を撮っているのかというと、そのうち(中野サンプラザが)なくなってしまうということで、70年代のロックシーンが好きな私にしてみると少し切ない思いもあって、サンプラザの画を入れています。そういう実景一つにしても、あの辺りで事件が起きているように見せられて思い通りにできているという意味では、とてもうまくいったと思います」

――「ノキドア」もいよいよ後半戦に突入します。今後の「ノキドア」の注目ポイントを教えてください。

「これから放送される第6話においては、密室劇といっても“推理側の密室劇”なんです。それが面白いんですよね。氷雨くんは別のところにいるけど、大部分のストーリーは探偵事務所の会話劇によって成立している。第6話だけ取り出して東京・本多劇場あたりで推理劇として構成もできるような、そんな内容になっています。そういう意味では、最終話までぜひご期待いただければと思います」

――ちなみに、クライマックスに向けて“キーパーソン”を挙げるならどの人物になりますか?

「美影です。犯罪コンサルタントというところまでは分かっているのですが、『何者!?』と感じている人が多いと思うんです。『美影がまた人を殺したぞ』なんてセリフもあるわけで、『どうやって人を殺しているのか』『なぜ人を殺しているのか』と、その辺が一番面白いポイントになってくるのかなと思います。役回りがだんだん解明されていくのですが、ミステリーそのものの立ち位置といいますか、美影と呼んでいる男の登場から最終回に向かっての立ち振る舞いが、実はこのドラマの大きな要素でもあるので、ここはあまり説明せず、オンエアを楽しみにしてもらいたいと思います」

【プロフィール】

堤幸彦(つつみ ゆきひこ)
1955年11月3日生まれ。愛知県出身。演出家・監督。95年のドラマ「金田一少年の事件簿」(日本テレビ系)で注目を集め、その後も「TRICK」(テレビ朝日系)、「ケイゾク」「SPEC」(ともにTBS系)など数多くの大ヒットドラマを演出。ほかにも、映画「20世紀少年」三部作、「イニシエーション・ラブ」「天空の蜂」「真田十勇士」「人魚の眠る家」「十二人の死にたい子どもたち」「望み」「ファーストラヴ」「ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”」、舞台「電車男」「テンペスト」「悼む人」「魔界転生」「巌流島」など数多くの作品を演出してきた。

【番組情報】

オシドラサタデー「ノッキンオン・ロックドドア」
テレビ朝日系
土曜 午後11:00〜11:30
※放送終了後、TVer(https://tver.jp/series/srlxv6mww1)で最新話を見逃し配信
※TELASA(https://www.telasa.jp/series/13629)では、全話独占配信中

取材・文・撮影/平川秋胡(テレビ朝日担当)

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