山下達郎「GREATEST HITS!」その音楽性だけでは語れないロックンロールの熱量  完全限定版でリイシュー! 自身がセレクトした12曲を収録「GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA」

自身がセレクトした全12曲で構成された「GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA」

山下達郎の音楽性は、海よりも深い。そしてこれと相反して、聴き手の音楽知識の有無に関わらず、全てのリスナーの心に、砂漠に水が染み込むように心を潤わせてくれる。そして、圧倒的な熱量で、聴く者の体は勝手に動き出す。

この度、9月6日に山下のベストアルバム『GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA』が完全生産限定盤としてリイシューされる。このアルバムは、1976年から1982年までにリリースされた6枚のアルバムから、自身がセレクトした全12曲で構成されている。そしてここには「LOVELAND, ISLAND」「RIDE ON TIME」「FUNKY FLUSHIN'」「BOMBER」…といった珠玉のダンスチューンが並ぶ。これらの楽曲は、当時のディスコでヘヴィーローテーションされ、大きな盛り上がりを見せた。そして今のクラブ界隈でもフロアを沸かせ続けている。

昔も今もディスコ / クラブのキラーチューンとしてフロアを沸かせる山下達郎

ディスコカルチャーの中で、かつて邦楽はご法度という不文律があった。今と違い、“邦楽はダサい” というのが最先端を行くディスコDJたちの認識だった。しかし、その例外が山下達郎だった。

以前小林克也氏にインタビューした時も当時について、「大阪のディスコでは、洋楽メインの選曲の中で、DJが達郎のレコードもかけていたんです。それで一番達郎が受けている。ディスコによってかけるタイプの曲が違うけど、どのディスコでも達郎の曲なら共通して盛り上がったようです。当時の東京のディスコでは邦楽をかけることはありませんでしたが、大阪はかけていたんです」と、興味深い話を聞かせてくれた。

この大阪のムーブメントが東京にも飛び火したことは想像に難くない。僕が知る84年以降の新宿、渋谷のディスコ、特にサーファー系の「渋谷 LA・SCALA(ラスカラ)」や「渋谷 Candy Candy」では、「LOVELAND, ISLAND」や「RIDE ON TIME」がリリースからしばらく経った時期にも関わらず大きな盛り上がりを見せていた。

しゃべりの新宿、繋ぎの六本木

東京のディスコは当時、「しゃべりの新宿、繋ぎの六本木」と言われていた。つまり、敷居が低く、サービス精神が旺盛な新宿のディスコは、初心者にも楽しんでもらうためにDJはしゃべりで盛り上げ、誰もが知る邦楽(和モノ)をフロアの熱がピークに達する直前に、伝家の宝刀がごとくスピンした。いわゆるディスコチューン的なナンバー以外だと、80年代初頭には、沢田研二「お前にチェックイン」やレトロ感満載の平田隆夫とセルスターズ「ハチのムサシは死んだのさ」が大きな盛り上がりを見せた。

80年代半ば以降になると、邦楽のキラーチューンはアン・ルイスの「六本木心中」や少年隊の「仮面舞踏会」だった。しかし、当時のDJがスピンする山下達郎のナンバーはこういった盛り上がりとは一線を画し、六本木のディスコで多くみられたマニアックなファンが洋楽と同列に楽しめるナンバーとして愛されていた。

誰もが知る「LOVELAND, ISLAND」や「RIDE ON TIME」にしてみても、当時だとジャーメイン・ジャクソンやシャラマーなどのブラック・コンテンポラリー系のアーティストと繋ぎ、フロアでは「こう来たか!」という感じで、徐々に熱が帯びてゆく。そこには “ドッカーン” と盛り上がる新宿の和モノチューンとは明らかに一線を画し、あくまでも洋楽と同列だった。

山下達郎の精神性が集約された「BOMBER」

山下のファルセットを絶妙に織り交ぜる歌声は、ひとつの楽器のようであり、それであってこそのグルーヴがディスコフロアを沸かせるには最高なのだが、ひとつの疑問として「なぜ、日本語にこだわるのだろう」というのがあった。これに対して、自分なりの答えを見つけ出すことができたのが、このアルバムにも収録されている「BOMBER」だった。バッキバキのスラップベースが印象的なダンスチューンである同曲は、大阪のディスコが発火点だったという。

「BOMBER」が収録されているアルバム『GO AHEAD!』はセールス低迷期に一念発起で制作されたアルバムだとされている。この時期の山下の気持ちを代弁しているかのような吉田美奈子のリリックが鮮烈だ。特に、

 金があれば太陽でさえ ah つかむ事が出来る都市さ oh

―― という一節には、当時の山下の精神性が集約されているとさえ思う。

シティポップとも形容される湿度を全く感じさせない音楽性だが、その根底には、ロックンロールの衝動にも準じるハングリー精神が潜んでいる。山下自身も、

「だってロックンロールが好きだから音楽始めたわけでしょ、ロックンロールがなかったら僕絶対音楽家になってないから。ロックンロールの何が好きかっていうとね、ロックンロールって言葉は、別に音楽の何をあらわしているんじゃないんですよ、スピリットなんですよ」

―― という言葉をかつて自身のラジオ番組で発していた。

そのスピリットの塊が一念発起で制作された『GO AHEAD!』にも「BOMBER」にも顕著に感じられる。つまり、幅広い音楽ジャンルに対するオマージュも、妥協なき音作りも、徹底した洗練性も、このロックンロールに準ずるハングリースピリットだ。だからこそ、日本語にこだわり、唯一無二の独自性を確立させる。そして、ディスコ / クラブという極めてフィジカルな場所のキラーチューンとして今も昔も問答無用でフロアを沸かせているのだ。

言葉にならない部分、音楽性からはみ出した熱量があるからこそ、体が勝手に動き出す。全ての素晴らしき音楽にはスピリットが潜んでいると僕は思う。

そんなダンスチューン満載の『GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA』で、そこに潜む精神性をたっぷりと感じ取って欲しい。音楽理論だけでは語ることができないマキシマムな熱量こそが山下達郎の最大の魅力なのだ。

カタリベ: 本田隆

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