【おんなの目】刺身用瀬つき鯵

 雨ばかりの日が続き、大儀なので買い物に行かず、買い置きの乾物を食べていました。それも底をついた。丁度雨も上がったので買い物に出かけました。今度は日差しが強烈。日傘をさしてヨタヨタ歩く。日傘は友人からの贈り物で名前は“女優日傘”。傘の内では、美しく見えるという代物。

 マーケットには新鮮な物が溢れていました。魚に飢えていたので空と海の混じりあった色をしたピンと尾のはねた『刺身用瀬つき鯵』を二匹買いました。刺身と塩焼きにする。

 まずエプロンをつけて、包丁を研ぎます。鯵の腹を裂きます。紫陽花の茎を切るような抵抗があって腸が飛び出てきます。形容する色を見つけようと色の辞典を広げる。瓶覗(かめのぞき)、浅葱(あさぎ)色、苔(こけ)色、鮮やかな曙色も見えます。鯵はどこの海を泳いでいたのでしょうか。鯵の腸は美しい日本の伝統色にピッタリです。

 口は尖がって北を向き、鰓(えら)を覗いてみましたが、藻の欠片もありません。磯の匂いは始終していますが。

 シンクの上で腸はだらりと広がっていきます。腹の中にきちんと整列していた腸は解放されたのです。腸を破って二ミリのカニの鋏が突き出ています。カニを食べ鯵は生きていたのです。夕暮れのキッチン、踵に波が押し寄せてきます。

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