令和にロカビリーブーム? チェッカーズ「ジュリアに傷心」をカバーした The Biscats  ユーミンからチェッカーズ、ヒロスエまで… ロカビリーで歌ってみたらカッコイイ!

Misakiこと青野美沙稀が2019年に結成したThe Biscats

Re:minder読者の方はThe Biscats(ザ・ビスキャッツ)というバンドをご存知だろうか。彼らは、モデルやソロシンガーとして活動していたMisakiこと青野美沙稀が2019年に結成したバンドで、現在はボーカルのMisaki、リーダーでギター担当のKenji、そしてウッドベース担当のSukeの3人組として活動している。バンドは、Misakiの父・久米浩司(青野浩司)がBLACK CATSやMAGICといったロカビリーバンドに在籍していたことから、自身のルーツを見直すことから始まったという。そういうこともあって、彼らのサウンドは、昭和世代が聴けばちょっと懐かしい、令和世代には逆に新鮮な響きのあるスタイルで一貫している。また、Misakiのキュートな歌声と、KenjiやSukeによるダイナミックな演奏、50年代を基調にした3人の服装や髪型も特徴的だ。

なお、Misakiがモデル出身ということから、タレント的な売り出し方かと思われがちだが、実際には、世界最大のロカビリーイベント『VIVA LASVEGAS ROCKBILLY WEEKEND』に出演したり、2022年からは自身主催のイベント『ROCKABILLY FESTIVAL』を開催したり、とあくまでも “ガチ” なのも潔い。そんな地道な活動が実り、2021年のツアーからは、各ライブハウスのチケットもソールドアウトし始めた。

カバーアルバム「J-BOP SUMMER」がトップテン入りでブレイク間近

そんな彼らが、今年8月にカバーアルバム『J-BOP SUMMER(ジェイバップ サマー)』を発売し、既にiTunesのアルバムランキングでは週間TOP20入り、ロック部門では堂々のTOP10入りを果たしており、ブレイク間近となっている。

本作は、75年のユーミン「ルージュの伝言」から、97年の広末涼子「MajiでKoiする5秒前」まで全12曲をカバーしており、その中には自身のルーツでもあるBLACK CATSやクールスといったバンドのカバーも含まれる。こうしたカバーアルバムの場合、プロモーションのしやすさを優先し、“○○年代限定” といった縛りの強い選曲となりがちだが、彼らの場合は、あたかも “ロカビリーで歌ってみたらカッコイイ!” という基準で選んでいるように感じた。実際のところ、彼らのファン投票をもとに選曲したそうで、つまりはロカビリーとThe Biscatsのことを理解した音楽通が選んでいるわけで、そりゃあ、聴き心地も良くなるわけだと凄く納得した。

ロカビリースタイルでカバーされた「ジュリアに傷心」

さて、アルバム全体を聞いてみると、大きく4つのパートで構成されているようだ。以下、順を追って説明してみたい。

まず、「夏祭り」「世界でいちばん熱い夏」「ルージュの伝言」「ジュリアに傷心」といった原曲もリズミカルで思わずカラダが動きそうな4曲から始まるのだが、いずれも彼らならではのロカビリースタイルでカバーされている。それでいて、歌詞に出てくる主人公の切なさやトキメキは、Misaki流のポップスとして自然に伝わるのだ。

最も、面白い変化を見せたのが、チェッカーズの「ジュリアに傷心」だろうか。原曲と男女逆転のカバー自体が斬新だし、特にBメロあたりでそれぞれの演奏パートが縦横無尽にステージ上を駆け回るようで楽しい。イントロの “テケテケテケテケ~” といったギタープレイも、待ってましたと言わんばかりのお約束ぶりが面白い。

続く、5曲目からの3曲、「Oneway Generation」「青い珊瑚礁」「MajiでKoiする5秒前」は、それぞれの時代を彩った本田美奈子(現:本田美奈子.)、松田聖子、広末涼子のアイドルソングで、Misakiのキュートな歌声がより映えるようになっている。

彼女のカールした歌声は松浦亜弥のような大物感があってブレていないことがこの3曲から分かる。なお、「青い珊瑚礁」はウクレレを使ったロカビリー音頭調! になっているのにハマった人は、前年のスマッシュヒット曲「ハジけちゃって!Summertime」もおススメしたい。また、このあたりの “アイドル ボーカル×ロカビリー” の隠れ名曲として、中森明菜がAKINA名義で発売し、前述のMAGICも共演した95年の「Tokyo Rose」も是非聴いてほしい。

さらに、8曲目「ミスター・ハーレー・ダビットソン」、9曲目「From black to pink」は、ルーツとなるオールドスタイルのロックンロールで、彼らも水を得た魚のように、実に楽し気で、その実力もよく分かる。

原曲へのリスペクトを強く感じた「Dear Frineds」

そして、ラスト3曲「異邦人」「ふられ気分でRock’n Roll」「Dear Frineds」は、前の2曲で調子をつけた彼らが、より濃い目のロカビリースタイルでヒット曲を味付けしている。特に「異邦人」は、オリジナルの世界観があまりに圧倒的だが、彼らのアレンジで聴くと、街をさまよいながら歌い歩くジプシー集団のようで、これはこれで有りだ。また、ラストの「Dear Friends」は、スタイルを新装しても「♪Woh Woh Woh My Best Friends」のコール&レスポンスを継続している点に原曲へのリスペクトを強く感じた。

ということで、全12曲筆者が聴いた感想は、「90年代前半生まれの3人が、大真面目に懐かしい楽曲をカバーしている!」で、予想以上にスタイルが確立している点に大いに驚かされた。これだけ異なるアプローチならば、原曲の強いファンの方でも、優劣を感じることなく、気軽に楽しめるのではないだろうか。生まれる前の昭和歌謡を、あたかも自分がリアルタイムで聴いてきたかのように喋りまくる小学生は苦手だが(笑)、The Biscatsのように、懐かしい楽曲を、さらに懐かしいスタイルで継承し、結果として新たな感動を生み出すリスペクト愛のあふれたカバーは大賛成である。

■ The Biscats / J-BOP SUMMER発売日:2023年8月23日(配信)、2023年8月30日(CD)
(収録曲)1. 夏祭り(オリジナル:JITTERIN’ JINN)
2. 世界でいちばん熱い夏(オリジナル:プリンセス プリンセス)
3. ルージュの伝言(オリジナル:松任谷由実(荒井由実))
4. ジュリアに傷心(ハートブレイク)(オリジナル:チェッカーズ)
5. Oneway Generation(オリジナル:本田美奈子)
6. 青い珊瑚礁(オリジナル:松田聖子)
7. MajiでKoiする5秒前(オリジナル:広末涼子)
8. ミスター・ハーレー・ダビットソン(オリジナル:クールス)
9. From black to pink(オリジナル:BLACK CATS)
10. 異邦人(オリジナル:久保田早紀)
11. ふられ気分でRock’n Roll(オリジナル:TOM★CAT)
12. Dear Frineds(オリジナル:PERSONZ)

カタリベ: 臼井孝

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