ディスコブームの終焉!時代を牽引した【シック】のクリエイティブはどこへ消えた?  ナイル・ロジャース、バーナード・エドワーズ、トニー・トンプソン… ポップミュージック市場に無くてはならない存在!

リ・リ・リリッスン・エイティーズ〜80年代を聴き返す〜 Vol.45
Real People / Chic

「Diana」大成功の陰で…

ナイル・ロジャース(Nille Rodgers)とバーナード・エドワーズ(Bernard Edwards)が、前回ピックアップしたダイアナ・ロスのアルバム『Diana』の次にプロデュースしたのが、彼ら自身のバンド “Chic”(シック)の4枚目のアルバム『Real People』で、『Diana』のわずか1ヶ月後に発売されました。

ところが、大ヒットした『Diana』の陰で、『Real People』は全米ポップチャート30位/R&Bチャート8位と、前々作『C'est Chic』(1978)のそれぞれ4位/1位、前作『Risqué』(1979)の5位/2位に比べたら、惨敗に近い結果となってしまいました。

前回お話しした「アンチ・ディスコ・バックラッシュ(anti-disco backlash)」、あまりにも過熱したディスコブームへの反動として1980年に巻き起こったディスコ排斥ムードの影響だと言われていますが、果たしてそれだけなのでしょうか? シックはブームの追い風で売れたそのへんのディスコバンドとは一線を画す、オリジナルかつハイセンスな音楽性を持っていました。『Diana』は、ミックスをやり直したとは言え、基本はやはりディスコサウンドでしたが、1000万枚の特大ヒットとなりました。単なるディスコに留まらない大きな魅力があったからですね。

実は、この1980年中に、彼らがプロデュースしたアルバムがさらに2作、リリースされています。“Sister Sledge”の『Love Somebody Today』(3月発売)と、フランス人バンド、“Sheila and B. Devotion”の『King of the World』(6月発売)です。後者は79年録音ですが、発売は『Real People』の3日前です。そして、『Real People』はもちろん、『Diana』も含め、これら4アルバムすべての楽曲を、ロジャースとエドワーズが書き下ろしているのです。これは相当な仕事量であり、いくら彼らのクリエイティブパワーが強靭であろうと、それだけの創作物に万遍なく力を注ぐことは難しかったと思います。

となるとやはり、中では頭抜けてビッグアーティストだったダイアナ・ロスに比重を置かざるを得なかったんじゃないでしょうか。がんばれば大きな成果が見込めるし、それだけに要求も厳しかったでしょう。楽曲、サウンド、ともに他よりレベルが一段高いように感じます。特に、シングルカットされた「Upside Down」には、ロジャース&エドワーズによる音づくりの魅力が凝縮されていると思います。

ロジャース&エドワーズの音楽魔力

シックのヒット曲「Le Freak」「I Want Your Love」「Good Times」などにも共通していますが、彼らの音づくりは、ともかく4小節パターンの「リフ」をひたすら繰り返すことが基本です。それでAメロもサビも貫いてしまう。言わずもがな、そのリフはキャッチーでかつ飽きがこず、ずっと踊っていたくなるような研ぎ澄まされたもの。また、だからコードの数は少ないし、サビでも特に盛り上がったりしません。メロディが高いところに行ったりもせず、ずっと淡々としながら、でもその “le freak” とか “I want your love” とか “good times” というリズミカルな詞が、シンプルなメロディに乗って連呼されるので、曲を聴き終わる頃にはすっかり脳内に刷り込まれているという具合です。

リフとサビのフレーズ。分析するとたった2つのポイントだけなんですが、それらを圧倒的にカッコよくしてしまうロジャース&エドワーズの魔法のような能力が、同じようなパターンであっても、何曲もヒットチャートに送りこむことができたんですね。その“魔力”が「Upside Down」にもたっぷりと注入されています。ここではリフも単純な繰り返しではなく、ちょっとした、だけどすごく効果的な変化をさせながら転調もします。“upside down” というすぐに覚えてしまうフレーズも、この曲ではサビではなくAメロです。だけど全体としてはやはり、あえて盛り上がらない、クールでおしゃれなダンスミュージック。彼らが “発明” したとも言える、個性的で魅惑的な音楽スタイルが貫かれています。これはディスコを超えている。ディスコ排斥の大波がいかに押し寄せようとも関係ない高さにいたのです。

ただ、彼らは『Diana』で、魔力を使い果たしてしまったのかもしれません。『Real People』からシングルカットされたタイトル曲「Real People」や「Rebels Are We」も、前述の彼らの「2つのポイント」に則ってつくられてはいるのですが、なんだかつまらない。同じパターンであることが、ここでは “マンネリ感” を放つだけになってしまっています。具体的にどこがどう違うのか、言葉では説明できません。アレンジも工夫されているし、ノリも問題なくいいのです。が、何かが足りない。魔力が足りないとしか言いようがありません。

Chic死すとも…

この程度ではやはりアンチ・ディスコ・バックラッシュに勝てなかったということですね。Sister Sledge『Love Somebody Today』でも同様です。前アルバム『We Are Family』(1979)の全米ポップチャート3位/R&Bチャート1位に対し、同31位/7位と、『Real People』と同じような落ち方をしています。

面白いのはSheila and B. Devotionで、シングル「Spacer」は500万枚も売り上げました。だけどこの曲こそ、言っちゃ悪いけど、まさにどこといった取り柄もないディスコもので、アンチ・ディスコ派からは真っ先にやり玉に挙げられそうな作品なのですが、彼らはフランスだからヨーロッパと英国で売れたんです。米国以外ではまだディスコの勢いはあったということですね。

さて、この後もシックは、『Take It Off』(1981)、『Tongue in Chic』(1982)、と、続けてアルバムを出しますが、売上はさらに落ち込み続け、7枚目のアルバム『Believer』(1983)ではついにチャートインもできませんでした。いずれも、しっかり丁寧につくりこんであるし、アレンジにも様々な工夫が感じられる、聴き応えのある作品だと思いますが、どうしても世の中の趨勢には勝てず、バンドは解散を余儀なくされました。

ただ、曲づくりの魔力には衰えがあったとは言え、ロジャースとエドワーズのプロデュース能力、そしてドラマーのトニー・トンプソン(Tony Thompson)も含めたその演奏力は、80年代以降もさらに、ポップミュージック市場に無くてはならないものになっていくことは、ご承知の通りです。

カタリベ: ふくおかとも彦

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