没後90年 宮沢賢治が奏でる「音楽」で秋の夜長を愉しむ

友人からでも、家族からでも、書評でも、課題図書でもない「オススメの本」を読んだことはありますか? 現実と少し距離を置く“小説の世界”への入り口は、時に不意の方が新鮮で心踊りそう。東京・六本木の本屋「文喫 六本木」のブックディレクター・原田愛穂さんにBRUDER読者をイメージした一冊を選んでもらいました。

「宮沢賢治全集 7」/宮沢賢治

日本を代表する詩人であり童話作家の宮沢賢治が、9月で没後90年を迎えます。誰もが一度は触れたことのある彼の代表作を集めた「宮沢賢治全集 7」の中から、音楽性に溢れた「セロ弾きのゴーシュ」を紹介します。

主人公は活動写真館(映画館の旧称)で働くセロ弾きの少年・ゴーシュ。あまりにも演奏が下手なために、楽団の楽長から叱責される場面から物語は始まります。不出来な自分に納得がいかず、痛々しいほど憤慨しながら毎晩練習に打ち込みます。そんな彼のもとに毎回さまざまな動物たちがやってきては邪魔をしたり、練習に付き合ったり。動物たちと嚙み合わないやりとりを続けている様子が、なんともユーモラスです。

賢治作品の特徴である「音」の表現も、本作には豊富に盛り込まれています。「こつこつ」と扉をたたく音、「ごうごう」とセロを弾く音。思わず声に出して読みたくなるオノマトペが物語を彩ります。

圧巻なのが「印度の虎狩」という実際には存在しない曲の表現です。ゴーシュが舞台でひとり演奏するラストシーン。生意気な三毛猫をこらしめるため、“まるで嵐のやうな勢(引用)”で曲を披露する見せ場が印象的です。賢治らしい独特な暗喩表現が詰まった音楽を、ぜひページを開いてお楽しみください。

「宮沢賢治全集7」宮沢賢治(筑摩書房)/¥1,100(税込)

COOPERATION

文喫 六本木 ブックディレクター 原田愛穂

2023年日本出版販売入社。企画選書や出版にまつわるイベントなど、店舗での運営全般を担当している。

文喫 六本木

文化を喫する、入場料のある本屋。人文科学や自然科学からデザイン・アートまで約3万冊の書籍を販売している。閲覧室や研究室、喫茶室を併設し、企画展も定期的に開催。普段あまり出会うことのない新たな興味の入り口となっている。

住所:〒106-0032 東京都港区六本木6-1-20 六本木電気ビル1F
営業時間:9:00~20:00(L.O. 19:30)/不定休
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Edit : Junko Itoi

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