【長澤慶太さん(フリースクール ラック / 代表)】“本や作品との出会いを通じて一人ひとりの可能性を広げていきたい”

長澤慶太さん(フリースクール ラック / 代表)

【プロフィール】
長澤慶太(ながさわけいた):新潟市東区出身。高校卒業後に上京した後、本が好きだったことから古本屋街のある神田神保町の近辺で生活をはじめる。20代半ばに京都へ移住し、小劇場「アトリエ劇研」の制作室として劇場運営や様々な公演制作に関わる。2017年からは京都芸術大学 舞台芸術研究センター研究補助職員として国内外の演劇祭等を視察するほか、演劇公演のプロデュースなどを行う。フリーランスとして活動を続けながら2022年に新潟へUターンし、2023年9月に「フリースクール ラック」を開校する。


ガタチラスタッフ:『新潟人167人目は、「フリースクール ラック」の長澤慶太さんです!演劇公演のプロデュースなどを行う長澤さんが新潟にUターンし始めたのは「フリースクール」。開校したきっかけやスクールへの想いをお聞きしました。素敵な笑顔で取材に応じてくださり、ありがとうございました!』

“新潟における文化拠点”として

ーー演劇などにもともと興味があったのですか?

長澤さん:人よりは興味はあったかもしれません。小さい頃から本が好きでした。高校時代の恩師との出会いをきっかけに、本や演劇に関心を深めることができました。その恩師のように、今度は自分がきっかけを提供していきたいという想いが強くなりました。

ーー今も演劇に関する仕事も続けられているのですか?

長澤さん:フリーランスとしての活動は今でも少しだけ続けています。その経験を活かしつつ、9月より開校した「フリースクール ラック」は、“新潟における文化拠点”としても発信していきたいと考えています。

ーーなぜ「フリースクール」を始めようと思われたのですか? 

長澤さん:そもそも“児童や生徒の不登校者数が増えていることに対する社会的な受け皿が少ない”という社会的な状況が続いています。様々な理由で学校に通うことが難しい子供たちが多くいるという社会問題に対して、「適応指導教室」や「フリースクール」のような居場所づくりを誰かがやらなくてはならないと感じていました。そのためには、一人ひとりの個性や特性を許容することが前提にありますが、私自身がこれまで取り組んできた文化芸術と合わせると寛容にできるのではないかと思ったんです。

ーーたしかに、「フリースクール」などはあまり見かけないですね…。

長澤さん:お問い合わせをいただいた方からも「そもそも選択肢が少ない」という声をよく聞きます。当事者だけでなく、そのご家族も含めて、困っている方は少なくないようです。「誰に相談すれば良いのか」「どこに連絡すれば良いのか」「そもそも何を相談して良いのか」が分からないでいるのかもしれません。

ーーそういった情報は少ないですもんね…。

長澤さん:そのなかで、私達は選択肢の一つとして“文化芸術”という分野を通じた活動を提案できればと思っています。「勉強が得意なわけでもないし、スポーツも別に興味がない」「自身で起業したいわけでもない」という方が、もしかしたらなにか新しい楽しみを、この分野で見つけてくれるかもしれません。

ーー私も“文化芸術”に触れ合う機会はあまりなかった気がします…。

長澤さん:新潟県は芸術大学が非常に少ないので、文化芸術方面の刺激が特に少ないと感じています。私自身、劇場や美術館などに通う機会を増やすために、高校卒業後すぐに上京しました。そういった自分自身の経験があるからこそ “若い人が文化や芸術と気軽に触れ合える拠点をつくりたい”という想いもあります。実際、福祉や教育に比べれば、芸術は不要不急とされてきました。災害や社会が混沌としてきた時などは特に、まずは生活、文化は最後、と、社会的にも後回しになってしまいがちな分野ですが、だからこそ、そういった拠点を小さくても守っていきたいと考えています。

心惹かれる何かをきっかけに

ーー「フリースクール」ではどんなことをされているのですか?

長澤さん:あくまでフリースクールなので、一般的な学習支援は最低限しています。ただ、施設自体が様々な書籍を集めた「図書館」と、画材を使い自由に創作を楽しめる「アトリエ」が合わさったような教室なので、芸術や書籍に触れることのできる環境で新たな関心や学習意欲を育み、生徒が自由なペースで学習を進められるようにしています。

ーー教室に入って、まず本の多さに驚きました(笑)

長澤さん:興味関心を持つ入り口として、まずは、なんとなく本棚を眺めてもらいたいと思います。本をきっかけに強く心を惹かれる何かが突然現れるかもしれませんからね。

ーー自分の関心を知るきっかけになりますね!

長澤さん:どんなジャンルの本でも良いです。自分の関心を少し広げて、深める、そしてそれを見つけるための場所になりたいですね。「その中から見つけ出した関心をもっと深めたい」という想いを持って、自ら「外に出て行きたい」と思ってもらえたら嬉しいです。

ーー加茂市に「フリースクール」を開校したのはなぜですか?

長澤さん:たとえば私が続けてきた、いわゆる現代演劇と呼ばれるジャンルは、京都や東京、横浜といった都市が活動の中心になりがちです。それ以外の地方では活動が持続しづらい分野で、日本国内における上演の選択肢がとても少ないんです。しかし、だからこそ、「アートの拠点が地方にできたら、もっと日本の芸術は発展していく」と考え、地方都市かつ地元である新潟に戻ってきました。最初は新潟市も考えたのですが、知人に紹介してもらった加茂市の“ゆったりとした流れ”が気に入りました。

この場所がずっと続いていくように

ーースクールの本はどのようにして揃えたのですか?

長澤さん:ほぼ私の本です。しかし「難しい本ばかりではダメだ」ということで、子供向けの本を他のスタッフが持ってきてくれました(笑)。ヨーロッパで“広場”としての役割も持つ劇場のように、「誰でも自由に入ることができ、集まって文化的な会話が繰り広げられる」そんな場所にしたいと思っています。今後は夜も開放して、誰でも利用できるフリースペースにする計画もしています。

ーー素敵ですね!「フリースクール」の利用に年齢制限はありますか?

長澤さん:基本的には小学生~中学3年生と設定していますが、まずはご相談いただければと思っています。自分が何に関心を持っているか、自分は何が得意で、どんなことを続けていきたいか、などを知るためには、色々なものとの出会いが必要だと思います。そういった“可能性を広げる場”になればと思っています。

ーー「フリースクール」は見学だけも可能ですか?

長澤さん:見学は随時、受付しています。先日見学に来たお子さんには、当スクールの本棚を見て「図鑑とかないんだね」と言われて(笑)、「僕が持ってくるよ!」とその子専用の本棚を設置することになりました。自由なペースで過ごせる居心地の良さを感じてもらいたいです。

ーー最後に、今後の目標を教えてください!

長澤さん:まずは“「フリースクール」として、この場所が長く続いていくこと”です!困っている人や社会的な受け皿が不足している状況は、こういった施設に持続性がない事が原因の一つでもあります。自由な場所のままずっと続けていき、誰かが気楽になれるかもしれないという可能性を残し続けたいです。

ーー素敵な想いですね!文化芸術の点で今後の展望はありますか?

長澤さん:アトリエとしては、“文化や芸術”の分野について知りたい人たちに、“自分が没頭できる事”を見つける機会が提供できればと思います。そのために、文化芸術に関する研究会や読書会、あるいは自治体からアーティストを輩出していくような文化事業も進めていきたいです。なにかを知りたい、つくりたい、けれど「やり方が分からない」というような方々の手助けができればとも考えています。

【フリースクールラック】
住所:加茂市駅前4番14号 1階
対象:小学校1年生~中学校3年生の児童 ※高校生は要問合せ
利用時間:毎週月曜日~金曜日9:30~14:40
料金:入会金15,000円、月謝33,000円 ※家庭の事情を踏まえた減免措置あり
HP:Arts Cultivate (google.com)
お問い合わせ先:WEBからのお問い合わせはこちらメールでのお問い合わせはこちら

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