伊藤銀次がキレた!PANTA 初のCMタイアップ曲「レーザー・ショック」制作秘話  銀次、気持ちはよくわかるけど、僕も耐えてるんだ。頼むから気を落ちつけてくれよな

最後の最後まで作品と取り組んでいたPANTAのアーティスト魂

70年代、80年代から現在に至るまで、日本の音楽シーンをクリエイトし、牽引してきた音楽仲間が、2023年に入って次々と鬼籍に入ったことは僕にはとてもショックでこころ寂しい出来事だった。鮎川誠さん、高橋幸宏君、坂本龍一君、岡田徹君、そして7月にはPANTAさんが闘病の末に、残念ながらこの世を去ってしまった。

PANTAさんの逝去を知らされる何日か前に、僕がパーソナリティーを務めているネットラジオ『伊藤銀次のPOP FILE RETURNS』にゲスト出演してくれた、最近PANTAさんとユニットを組んでいた鈴木慶一君から、入院中のPANTAさんの様子を聞いたところ、なんとか持ち直していて、「曲を送ると病床でそれに詩をつけている」と聞いて、少し安心していたから、よけいにショックは大きかった。

とても残念だけど、最後の最後まで作品と取り組んでいたPANTAさんのアーティスト魂には頭がさがる思いだ。慶一君とPANTAさんのユニットのシングルチューンがとてもよくて、アルバムに期待していたのだけれど、それを聴くことは残念ながらついにできなかったのだ。

1982年、プロデュースを担当した「レーザー・ショック」

PANATさんと僕はそれほど多く音楽ライフを共にしたことはなかったけれど、1982年にたった一度、僕が彼のシングルとアルバムの制作に関わったことがあった。それはたった一度だったけれど、僕にとっては、とても濃密で忘れがたいセッションだったのである。

1982年の春にリリースされたPANTAさんのシングル「レーザー・ショック」は、PANTAさんにとって初のテレビCMタイアップ曲で、そのサウンドプロデュースを僕が担当することになった。

PANTAさんからいただいたデモテープを聴くと、そのタイトルと詩の持っている近未来的サイバーパンクな世界観と、PANTAさんの歌とメロディから、当時僕がとても気に入っていた、ザ・カーズのような80’sポップロックがいいのではと、すぐに閃いたのだった。

そこで僕が選んだそのコンセプトにぴったりなミュージシャンたちは、曲の骨格となるドラム、ベース、ギターのスリーリズムに、EX(エックス)の羽山伸也君、奈良敏博君、梅林茂君。そしてダビングでは、ムーンライダーズの白井良明君(ギター)、岡田徹(ギター)。ザ・カーズ的なベーシックからさらに、当時のイギリスのデュラン・デュランやニュー・ロマンティックのサウンドまで幅を広げた近未来的なサウンドをめざした。

懐の深さ、PANTAの包容力

PANTAさんはこのアイデアをとても気に入ってくれて、名うてのミュージシャンたちのおかげで、レコーディングは順調に進んだのだが、なにせCMのタイアップ曲ということで、スポンサーや広告代理店の人たちがスタジオに詰めかけ、いい感じのサウンドができているところに、いろいろ好き勝手に意見を言い出した。具体的にこうして欲しい… とかなら、こちらも対応できないことはないのだが、とりとめもない個人的感想にも似たものだったので、最初は辛抱していた僕もついに我慢の限界に来てしまい、きれそうになったとき、PANTAさんが僕にひとこと。

「銀次、気持ちはよくわかるけど、僕も耐えてるんだ。頼むから気を落ちつけてくれよな」

頭脳警察時代からどこか “とんがった過激な人” だと勝手に決めつけていた僕は、その懐の深さ、PANTAさんの包容力に救われて、気持ちの昂ぶりも退いて、その場はトラブルにならずに済んだ。ディレクターたちが掛け合ってくれ、ギャラリーはスタジオから退去。そのままレコーディングは無事進行したのだった。

銀次、若気のいたり。プロデューサーの僕が、アーティストのPANTAさんにプロデュースされたようで、恥ずかしい話だが、一生忘れられない印象的なレコーディングになったのである。

「唇にスパーク」でもさらに3曲の編曲を担当

その後、ありがたいことに、この「レーザー・ショック」の収録されたアルバム『唇にスパーク』でもさらに3曲の編曲を担当させていただいた。

この『唇にスパーク』はアルバム『KISS』に続く、PANTAさんのSWEET路線の第2弾。このポップ路線へのアプローチは当時、“頭脳警察” 時代からのPANTAファンには喧々囂々、賛否両論、物議を醸し出したようだが、僕の目からはPANTAさんの本質は何も変わっていなくて、ローリング・ストーンズやボブ・ディランのように、したたかに、しなやかに時代の波をスイスイと乗り越えサヴァイヴしていくPANTAさんの姿に心から拍手を送ったものだった。

1950年生まれで僕と “おない年”。病に見舞われなければ、まだまだ活躍できたはず。残念です。謹んで冥福を祈りたいと思います。

カタリベ: 伊藤銀次

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