連続テレビ小説「あまちゃん」宮藤官九郎が描く “青春” の全てが詰まった珠玉のドラマ  初回放送から10年! 超人気の朝ドラ「あまちゃん」で紐解く “アイドル”とは?

10年遅れてきた “あまちゃんロス”

2013年上半期に放送されたNHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の再放送が9月30日に終了した。初回放送から10年遅れてきた “あまちゃんロス” である。

物語の舞台となった北三陸の町は、岩手県久慈市でロケが行われた。この土地で使われている驚きを表す方言 “じぇじぇじぇ” は当時の流行語に。散りばめられるパロディやオマージュは物語のブレイクとなり、随所でニヤけてしまう。そして小気味よいテンポの会話。『あまちゃん』は、さまざまな魅力が詰まった極めてエンタテインメント性が高い作品だ。

劇中歌も素晴らしく、けれん味たっぷりで84年当時のアイドルソングを具現化させた「潮騒のメモリー」も、“アメ横女学園芸能コース(通称 アメ女)” が歌う「暦の上ではディセンバー」のエモさも物語の欠かせないスパイスとなり視聴者を魅了していった。

『あまちゃん』は、語り尽くせないほど様々な魅力がひしめき合った作品だが、今回は、青春の全てが詰まった珠玉の青春ドラマ、主人公・天野アキ(能年玲奈 現:のん)の成長物語という点で語っていきたい。

脚本は宮藤官九郎(以下:クドカン)。彼の描く青春群像には定評があった。たとえば初期の作品『池袋ウエストゲートパーク』にしても『木更津キャッツアイ』にしても “過去も未来も関係ない、今がすべて” という刹那を描くことに関してはずば抜けた才能がある人だ。刹那の煌めきを永遠に繋ぎ、マジックとでも言うのだろうか。どうしようもないことで、悩み傷つき、笑い飛ばし、煌めきへと昇華させる。どん底まで落ち込んでも笑い飛ばす人間力が潜む天才的なプロットは『あまちゃん』でも存分に活かされていた。しかし、『あまちゃん』では、登場人物の過去をしっかりと描く。そして未来を示唆し、一瞬の煌めきを永遠へと昇華させる青春ドラマだ。

猫背のヒロイン、天野アキ

鮮やかな彩りでテンポ良く物語が進む『あまちゃん』だが、登場人物の暗部、つまり影の部分をしっかりと描きながら、煌めきに昇華させるという点にも注目したい。ヒロイン、天野アキは基本猫背だ。猫背でファッションにはほとんど興味がなく、多くの場面でスエットに7部丈のチノパン。リュックを背負った格好で登場する。“ブス” という言葉に敏感で、周囲から可愛いと賞賛されることがない少女がアイドルを本気で目指す過程も興味深い。影があるから光が当たった時の輝きが半端ない。物語が進むにつれ、アキは輝きを増してゆく。

さらに、“アイドルとは何か”―― この繰り返す命題がアキの成長過程に欠かせないものになっている。北三陸で出会い、後にアイドルユニット “潮騒のメモリーズ” を組む親友の足立ユイ(橋本愛)と常に比較され “潮騒のメモリーズの訛っている方” と揶揄される。母親の春子(小泉今日子)が言うところの “地味で暗くて向上心も協調性も存在感も個性も華もなくパッとしない” というバックボーンを背負いながらアイドルを目指す孤軍奮闘の姿がドラマの軸になる。

登場人物すべてに愛情が注がれているクドカンの脚本

脇を固める登場人物にしても、暗部たるものも含め、その背景をしっかりと描きながら誰一人として置いてけぼりにしない。クドカンの脚本は登場人物すべてに愛情が注がれている。誰一人欠けても『あまちゃん』は成立しない。

息子を海に流された過去を持つかつ枝(木野花)や駆け落ちを幾度も繰り返した過去を持ちながらも最終的には北三陸に落ち着く美寿々(美保純)など、過去を時には笑い飛ばしながらもたくましく生きる登場人物たちがアキを当たり前のように支え、家族同然に接しながら物語の世界観が構築されていく。アキは支えられながらも、いつしか北三陸に欠かせない存在となっていく。

アイドルを目指し上京、紆余曲折の末、映画主演、CDデビューにたどり着くが、震災をきっかけに自分にしかできないことを模索していく。そこで選んだ道は、津波に流されてしまった “海女カフェ” の再建と、地元アイドル “潮騒のメモリーズ” として北三陸に留まることだった。

「あまちゃん」が描く、アイドルに不可欠な要素とは?

物語は、後半に進むにつれ、“アイドルとは何か” という問いかけを明確にしてゆく。物語の中盤、アキが北三陸から東京へ向かう日、春子が放ったこんな台詞も印象深い。

「変わってないよ、アキは。昔もいまも、地味で、暗くて、向上心も、協調性も、存在感も、個性も、華もない、パッとしない子だけど…。だけど、みんなに好かれたね、こっちに来て。みんなに好かれた。あんたじゃなくて、みんなが変わったんだよ。自信持ちなさい。これはね、案外、スゴイことなんだからね」

つまりこれは、周りを巻き込みながら、関わった人たちの気持ちを変えていくのがアイドルだということだろう。応援したい、守ってあげたい、元気になる…。変わる気持ちの理由はなんでもいい。だけど、確実に周りの気持ちを変える存在感。周りを輝かせることによって自分が輝いてゆく。アキは周囲の人たちにとって紛れもないアイドルになった。これが天野アキの成長物語だ。

『あまちゃん』でもアキの登場で変わっていく人々が物語を熟成させていった。多分視聴者も変わっていったのだろう。だから、放送から10年経った今回の再放送でも終了後の “ロス感” は半端ないのだ。

カタリベ: 本田隆

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