レンジャーズが下剋上を成し遂げた。敵地ボルティモアで2連勝して王手。そして帰ってきた本拠地テキサスで行われた第3戦は、第1・2戦を思い起こさせるような展開に終始した。
レンジャーズ打線は2回までに6点を挙げ、オリオールズ先発のディーン・クレマーをノックアウト。投げては、先発のネイサン・イオバルディがワイルドカードシリーズの好投を再現するかのように、7回1失点7奪三振のパフォーマンスを見せた。さらにイオバルディの後を受けたリリーフ陣も、これまでのようにピンチは招きながらも決定的な一打を許さなかった。
第3戦のスコアは7対1。“番狂わせ“と評すには、あまりにレンジャーズの底力が際立つ完勝となった。
アドリー・ラッチマン、ガナー・ヘンダーソンという華々しい若手スターが牽引した2023年のシンデレラチームのシーズンは呆気なく幕を閉じてしまった。しかし、ア・リーグでトップの101勝を挙げたオリオールズが、あっさりと彼らより11勝少ない90勝でフィニッシュしたレンジャーズにスウィープされたという事実は、全く理解できないわけではない。
チーム成績などを見ても、両者の力量差はシーズンの11勝の差ほど大きくないことが分かっていた。メジャー屈指の強力打線であるレンジャーズ打線と比べると、オリオールズ打線はチームOPS・本塁打でそれぞれメジャー14位と17位。先発ローテのクオリティは互角と言えるレベルだが、打線のクオリティが違いを生み出し、オリオールズの先発投手は5回を投げ切ることができなかった。オリオールズ最大の強みにして、レンジャーズ最大の弱みであったブルペンの勝負でも、オリオールズはそのアドバンテージを活かすに至らなかった。
プレーオフで敗れたとはいえ、オリオールズの今シーズンは依然として大きな称賛に値するものだ。ア・リーグ東地区という激戦区において、事前の下馬評が優勢だった強豪たちを押し退けて、101勝で地区優勝したというのは快挙というほかない。オリオールズが2年前までは100敗チームであり、今シーズンの躍進も自前で育てた選手の成長で成し遂げたことを踏まえればなおさらだ。
ラッチマン、ヘンダーソン、カイル・ブラディッシュといった多くの優秀な若手を揃えるオリオールズが、これからさらに上に行くためにはどうすればいいのか。
『CBSスポーツ』のデイン・ペリーは、オーナーシップとフロントの責任について言及。
開幕前はまだ発展途上のチーム扱いだったとはいえ、オリオールズの補強はカイル・ギブソン、コール・アービン、アダム・フレイジャーと控えめなものに終始した。しかし、首位として迎えたトレードデッドラインでも、ジャック・フラハティと藤浪晋太郎の獲得のみに留まった。
結果的にアービンと藤浪はプレーオフのロスターにすら入れず、フラハティとギブソンもプレーオフのローテーションから漏れている。買い手として動いたデッドラインの補強はとりわけ、効果的だったとは言い難い結果になってしまった。オリオールズの先発陣は幸運にも致命的な故障や重要選手の突如の不振という目に遭わなかったが、もしその事態に陥っていれば、フロントがデプスの整備を怠ったとの指摘は避けられなかっただろう。
オリオールズの反例と言っても良いのが、対岸のレンジャーズだった。レンジャーズはオフにジェイコブ・デグロム、デッドラインにマックス・シャーザーというエースを獲得しながら、いずれも故障でまだプレーオフでは投げられていない。それでもジョーダン・モンゴメリーやイオバルディ、アンドリュー・ヒーニーといった投手を揃え、潤沢なデプスで乗り切ってきた。
オリオールズはメジャー随一のマイナー組織を抱え、マイナーの上層でひしめく有望株を整理がてら大きなトレードに動くという噂は常にある一方で、未だに大きなトレードはない。評判の芳しくないオーナーのジョン・アンジェロスは、今季の年俸総額はメジャー25位が示す通り、どこまで投資を拡大するかは不透明だ。
同地区には今のオリオールズと同じように野手の若手スターを揃えながら、未だにプレーオフで勝てていないブルージェイズがいる。さらにオリオールズと同じような財政規模で、大物の獲得でピークを作るより、持続的に勝てるチーム作りを目指すジェリー・ディポト編成本部長の方針が、プレーオフ逸により批判にさらされているマリナーズもいる。どちらのチームも、数年前は今のオリオールズのように輝かしい未来を約束されたように見えるチームだった。そして、オリオールズと同じような大規模な再建から、未だに王朝を維持するアストロズのようなチームもいる。
オリオールズがどのような道を行くのかはまだ分からない。しかし、ラッチマンやヘンダーソン、そして球界No.1有望株のジャクソン・ホリデイといった金の卵の全盛期を無駄にしないためにも、フロントが今以上の努力をしなければいけないのは間違いないだろう。