利上げで円高とは限らない!減税で円暴落もありうる「円リスク」

ドル円の攻防は150円のにらみ合いが続く(Photo By Reuters)

円が再び「1ドル=150円」の円安攻防に入った。識者の間でも「160円台まで円安が進む」「来春には146円程度に落ち着く」と予測はさまざまだ。円安の要因としては「日米の金利差」が大きいとされる。確かに日米の金利差が拡大しているのは事実。しかし「日銀が利上げをすれば円高に戻る」と見るのは早計かもしれない。

珍しくない「金利高騰で通貨暴落」

米国の金利上昇が止まらない。10月6日の米国債市場では長期金利の指標となる10年物国債利回りが一時4.88%と約16年ぶりの高水準をとなり、30年債利回りも一時5%を超えている。これにより日米の長期金利格差は約4%に開いており、高金利を求めてドル買いが進んでいるのは間違いない。

ただ、必ずしも「高金利=通貨高」になるとは限らない。例えばトルコリラは政策金利(トルコの場合は1週間物レポ金利)は9月21日に5.00%引き上げられて30.00%の高金利となった。一方、この1年間で1ドル=18.59トルコリラから27.73トルコリラと大幅なトルコリラ安に陥っている。

これは珍しい事態ではなく、通貨の信用が失われると金利高と通貨安が同時に起こる。1997年のアジア通貨危機や1998年のロシア通貨危機、アフリカ諸国の財政破綻などで同様の現象が生じている。もっとも、新興国や途上国だけの話ではない。

2022年9月には0.5%の政策金利引き上げを決めたにもかかわらず英ポンドが約5%も急落して、対米ドルで史上最安値を更新した。つまり、単純に「利上げをすれば通貨高になる」のは信用力が高い通貨だけなのだ。

日本は2023年上期(1〜6月)の貿易収支が6兆9603億円の赤字であり、2020年時点の債務残高はGDPの260%と比較可能な176カ国中で最下位に沈むなど通貨の信頼性は揺らぎつつある。「投機筋の思惑で異常な円安になった」との指摘もあるが、ファンダメンタルズ(経済状況を示す指標)からは「投機筋の思惑があるから、この程度の円安で済んでいる」との見方が正しい。


減税が円安の引き金になる?

信用力の劣る通貨は利上げをしても通貨高には振れず、かえって金利上昇による資金調達コストの高騰や借入金の返済負担増で景気が後退してさらなる通貨安を招くという「負のスパイラル」に陥る可能性が高くなる。通貨の信用不安は、何らかの「具体的なイベント」が引き金となって顕在化する。

アジア通貨危機ではヘッジファンドによるアジア通貨の大量の空売りが、昨年の英ポンド暴落では当時のトラス政権による財源の裏打ちのない大型減税政策を打ち出したことが引き金となった。日本の場合、このところ減税をアピールしている岸田政権が具体的な減税政策を打ち出せば、円安が進行する「具体的なイベント」となるリスクがあるだろう。

仮にそうした「具体的なイベント」がなかったとしても、日銀の利上げにもかかわらず中・長期的な円高に転じなければ、円の信用力低下を印象づけることになりかねない。そうなれば円安に拍車がかかることは避けられない。日銀のマイナス金利の終了とイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の撤廃が、試金石となるだろう。

当然、その直後は一時的に円高に振れるはずだが、巨額の民間資金が動かなければ効果は限定的となる。民間資金を動かすのが「円の信用度」であり、それを知るには利上げなどの為替介入を「やってみないと分からない」のが実情だ。ただ、かつての「強い円」時代のように「金利差さえ縮小すれば、円高局面に入るはずだ」という楽観的な観測は禁物だろう。

文:M&A Online

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