グルメブームの火付け役【美味しんぼ】主題歌!中村由真「Dang Dang気になる」  「美味しんぼ」の主題歌「Dang Dang 気になる」は間違いない名曲!

80年代に本格化!グルメブームの火付け役「美味しんぼ」

80年代に本格化したグルメブームの火付け役といえば『美味しんぼ』である。『ビックコミックスピリッツ』(小学館)に連載される(現在休載中)累計発行部数1億3,000万部の記録を誇る大ヒットグルメ漫画である。

とにかく歴史ある漫画だけに、登場人物の多さには驚かされる。海原雄山はもちろん、東西新聞社社主の大原大蔵をはじめ、文化部だけでも谷村部長、富井副部長、栗田さんと仲良しの田畑、花岡コンビなど多数のキャラが目白押しだ。さらに政治部や東西グラフのある出版局など、新聞社としての組織が細かく描写されていて、そういう面でも面白く読めてしまう。

もちろん『美味しんぼ』は、至高と究極の料理対決という骨太のアイデアがあるからこそグルメ人気を獲得したのだが、雄山と山岡がいがみ合う親子の確執とか、山岡と栗田さんのまどろっこしい恋愛模様が絡み合うなど、グルメ漫画に多角的要素を含めた面白さは格別である。

ということで、今回は『美味しんぼ』と、アニメ後期からオープニング曲として使用された中村由真「Dang Dang 気になる」を取り上げて語ってみたいと思う。

原作は雁屋哲、料理のウンチクに親子の確執と恋愛要素を加味

古くは『包丁人味平』(1973年〜1977年)、その後も『一本包丁満太郎』(1985年〜1996年)『ザ・シェフ』(1985年〜1993年)等など、料理漫画の主人公たちは、みんな料理の腕前が一流だった。

そんな流れの中、『美味しんぼ』の山岡士郎は、知識は豊富だけれど調理に関しては和食料理屋『岡星』の主人に任せたりする、どちらかというと “オタク” な面が強いキャラに設定されている。実に新しい。きっとその辺りの新鮮さがグルメブームの火付け役になった理由のひとつだと考える。

まず、第1話から『豆腐と水』という、何てことのない食材をテーマにするこだわりようだ。… その中の一節、

「ワインと豆腐には旅させちゃいけない」

と、山岡が理由を説明するシーンがある。詳細は省略するけれど、料理漫画にありがちな鮮烈で華麗な料理の数々とは無縁な、どちらかと言うと驕った美食家たちを蹴散らすようなギスギスしたシーンを第1話に持ってきたのだ。他の料理漫画と一線を画したその線引きは実に見事である。

それまでの料理漫画は、視覚、味覚、嗅覚とか、一般人では到底敵わぬ料理の世界への憧れを描いて人気を得ることに成功していた。けれど、料理シーンの華やかさではなく、料理に対する素材の話などに着眼した原作の雁屋哲(かりやてつ)は流石である。

話のネタになるのはもちろん、実益も兼ねる情報を丁寧に取材して『美味しんぼ』に次々と落とし込んでいったのだ。確かに「ワインと豆腐には旅をさせちゃいけないってのはね…」なんて話題は、つい人に語りたくなる情報だ。その料理ウンチク話を柱にして、雁屋は『親子の確執』と『恋愛要素』という2つの要素を加味してみせたのだ。どおりで面白いはずである。

ちなみに、この第1話から栗田ゆう子(ヒロイン)が山岡に対して “気になりはじめている” のも興味深い。主役じゃなくても、それぞれのキャラクターがしっかり作り込まれていて、それぞれの思いをちゃんと語ってくれている。

華々しい描写もいいけど、人の内面に寄り添ったストーリー展開を中心に描いたからこそ、物語が長く続いているんだよね。

アニメ版のオープニングを飾った主題歌、中村由真「Dang Dang 気になる」

漫画の人気が空前のグルメブームを牽引し、バブル景気も相まってアニメ化された『美味しんぼ』。その主題歌として作られたのが中村由真の歌う「Dang Dang 気になる」(1989年6月リリース)だ。

当初オープニングテーマは結城めぐみが歌う「YOU」が使用されていたが、第24話から最終136話までは「Dang Dang 気になる」が使用された。『美味しんぼ』といえば、ほとんどの人がこちらの曲をイメージすると思う。

中村由真は、1986年に『週刊ヤングジャンプ』主催のオーディションでグランプリを獲得したアイドルで、翌1987年にはフジテレビのドラマ『スケバン刑事Ⅲ 少女忍法帖伝奇』に出演。ドラマでは風間三姉妹である大西結花(長女)浅香唯(三女)に挟まれた次女役として人気になったので、ほとんどの方はこちらの印象が強いだろう。それはともかく、この主題歌が実に良いのである。

間違いない名曲! 作詞:売野雅勇、作曲:林哲司、編曲:船山基紀

「Dang Dang 気になる」は、売野雅勇(作詞)林哲司(作曲)船山基紀(編曲)という時代をきらめかせる職業作家陣が作ったのだから間違いない。

 Ah… 気持ちの先がときめきの
 境界線からちょっとはみ出しそう
 そばにいると

歌詞の中身は、恋の一歩手前というか、そのラインを越えそうなギリギリの心情が綴られていて、いま風に言えば実にエモい内容である。

それでいて「♪Dang Dang 気になる~」というポップなサビのメロディが、当時のエレクトリックチューンによって、センシティブでナイーブな乙女心の輪郭をはっきりと描きだすのだ。それを中村由真がちょっと鼻にかかった甘い声で歌うのだからたまらない。中村由真って、ちょっとツンデレ系なんだよね。

さて、切なさと愛しさが溢れるこの歌詞は、漫画の設定をじっくり読みこんでからの当て書きであり、山岡となかなか進展しない関係が栗田目線として綴られている。

それゆえ、この曲をバックに流れるオープニング映像を見ると、切ない気持ちが湧き上がってしまうのだ。ちょっと寂しそうな山岡の様子と、栗田さんの電話ボックスのシーン、橋の上から貨物船を見下ろすシーンなど、「だんだん気になっていくけれど、自分から想いを伝えるのはちょっとだけ勇気がいるものだよね…」 なんて、つい物語の世界にのめり込んでしまう。

大ヒットには至らなかったけれど、この曲、僕は名曲だと思うなぁ。

好きに勝るものはなし!愛すべきオタク文化

さて、最初にも記したが『美味しんぼ』の山岡は間違いなく “オタク” である。オタクとは1970年代に生まれた呼称であり、最近ではポップカルチャーに限らず、自分の好きな事柄に人一倍傾倒する人の事全般を指す言葉として進化してきた。いまや愛すべき言葉として世の中に認知されたのである。この80年代に特化したリマインダーに集まる人たちも、ある意味立派なオタクだと断言したい。

世の中には少なからずオタクが存在していて、それゆえに共感を呼んだ『美味しんぼ』もヒットしたわけだけど、これからはもっともっとオタクが愛される日がやってくると思う。オタク文化って実に愛おしいじゃないか。純粋に好きに向っていく姿はたまらないし、自分の生き方もそうでありたいと常日頃思っている。そう、好きに勝るものはなし! なのだから。

2020年2月16日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: ミチュルル©︎たかはしみさお

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