2025年前期連続テレビ小説は「アンパンマン」作者・やなせたかしと小松暢夫婦をモデルにした「あんぱん」に決定

NHK総合ほかで2025年前期放送の連続テレビ小説が、「アンパンマン」を生み出したやなせたかしさんと小松暢さん夫婦をモデルに「あんぱん」(日時未定)に決定した。脚本は、連続テレビ小説「花子とアン」や大河ドラマ「西郷どん」(ともにNHK)、「Doctor-X 外科医・大門未知子」(テレビ朝日系)などを手掛けてきた中園ミホ氏が担当する。

あらゆる職業を転々としながら定まらない人生を送っていた、遅咲きの漫画家・やなせたかしが70歳にして生きる喜びを描いた「アンパンマンのマーチ」の歌詞を生み出した背景には、戦前・戦中・戦後と激動の時代を、ちょっと気が弱くて自信のないたかしと共に生き、けん引し続けた“ハチキンおのぶ”の存在があった。生きる意味も失っていた苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった2人の人生。「あんぱん」は、何者でもなかった2人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した「アンパンマン」にたどり着くまでを描き、生きる喜びが全身から湧いてくるような愛と勇気の物語だ。

実在の人物である、小松さんとやなせさんをモデルとなるが、激動の時代を生きた波瀾(はらん)万丈の物語として大胆に再構成。原作はなく、登場人物名や団体名などは一部改称して、フィクションとして描く。ヒロイン・朝田のぶ役はオーディションにて決定される。

執筆にあたり中園氏は「『ハチキンおのぶ』『韋駄天おのぶ』こと、小松暢さんをモデルにした朝田のぶがこのドラマのヒロインです。ハチキンとは、土佐弁で男勝りの女性のこと。県大会で優勝するほど脚が速く、行動力とスピード感にあふれ、人生の荒波をパワフルに乗り越えていくヒロインです。彼女は、あの『アンパンマン』に登場する『ドキンちゃん』のモデルと言われています。いつも好奇心に目を輝かせ、『おなかがすいた~!』というのが口癖のチャーミングな妖精です」と、ヒロインのキャラクターを紹介。

加えて、「暢さんが生涯のパートナーとして選んだ男性は、漫画家で詩人の柳瀬嵩(やなせたかし)さん。彼ははっきり言って遅咲きの人です。日本中の子どもたちの間で『アンパンマン』が大人気となり、漫画家として世間に認められたのは、なんと70歳になってからでした。幼い時に父を病気で亡くしたやなせさんは、高知県の後免町にある伯父の家に引き取られ、やがて戦争が始まり、出兵します」とやなせさんについて解説し、「終戦後の混乱期、2人は高知新聞社の編集部で記者として働いていましたが、暢さんは『私、先に東京へ行ってるから』と言い残し、さっさと新聞社を辞めていなくなります。彼女を追いかけるようにやなせさんも上京し、漫画家となるきっかけをつかむのです。こうして、暢さんは持ち前の行動力と飽くなき好奇心で、さまざまな職場を渡り歩き、手塚治虫、赤塚不二夫、いずみたく、向田邦子、青島幸男…などなど、才能豊かで個性的な人たちと出会い、関わり合いながら、ちょっと気が弱くて自信のないやなせさんを励まし続けます」と2人の歩みについて語る。

続けて、「やなせさんの才能がいつか必ず開花することを信じていたパートナーの存在がなかったら、『アンパンマン』がこの世に誕生することもなかったかもしれません。『正義は逆転することがある。信じがたいことだが。じゃあ、逆転しない正義とは何か? 飢えて死にそうな人がいれば、一切れのパンをあげることだ』これはアンパンマンの神髄であり、2人が逆境や失敗をいくつも乗り越えて、つかんだ人生のテーマです。2人が最も輝いていたはずの青春期、戦争が始まりました。やなせさんはたった1人の弟(千尋さん)を戦争で亡くしました。戦場にも日本中にも飢えて死にそうな人があふれていました。だからこそ、晩年になって『アンパンマン』を描かずにいられなかったのだと思います。おなかをすかせて弱っている人に自分の頭をかじらせて元気にするヒーローです。初めは『自分の頭を食べさせるなんてグロテスク』とか『太っていてカッコ悪い』と、まるで人気がなかったンパンマンですが、たった1人、暢さんだけは応援し続けたのです」と、「アンパンマン」誕生への過程に触れる。

さらに、「最後に、とても個人的な打ち明け話をします。アンパンマンが誕生するずっと前、小学生の私は、やなせさんと文通をしていました。『愛する歌』という詩集に感動して手紙を送ったところ、すぐにお返事をくださったのです。何度かお目にかかったこともあります。やなせさんはいつも優しい笑顔を浮かべ、『元気ですか? おなかはすいていませんか?』と声をかけてくれました。戦後80年、放送開始から100年目にあたる2025年、連続テレビ小説で、のぶと嵩のお話を書かせていただけることに、今、私は幼い頃のように胸を高鳴らせています。ドキンドキンと――」とやなせとの関係と、作品への思いを明かしている。

番組を手掛ける制作統括・倉崎憲チーフプロデューサーは「ここ数年ほど『アンパンマン』のテーマ曲を無意識に口ずさむ頻度が増えました。『なにが君のしあわせ なにをしてよろこぶわからないままおわる そんなのはいやだ!』。人生100年時代と言われ、大人になればなるほど生き方に悩み、この歌詞が身に染みるのです。人生って1回きりなんだなー、と。この歌詞を生み出したやなせたかしさんをぐいぐいと抜群の行動力で引っ張ってきたのが、小松暢さんです。上京する時、結婚する時、漫画家として独立する時、いつも暢さんのアクションがありました。暢さんがいなかったらもしかしたら『アンパンマン』も生まれていなかったかもしれないと、2人物語を描きたいと思いました」とテーマ決定までの経緯を伝える。

そして、「中園さんにやなせさんの書籍を差し出したところ、『私、やなせさんと小学生の頃、文通していました』という驚きの発言が。これは運命だと感じ、そこからあっという間に今に至ります。2人が生きた激動の半生を通じて、生きる喜びが体中から湧いてくるような、生きていてよかったなと感じていただけるような朝ドラをお届けできたらと思います」と意気込んでいる。

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