北海道の“陸上養殖”の現在地 フグは作る時代に!?

今回のテーマは“陸上養殖”。水産庁の2022年度のデータでは全国で223の事業者が陸上養殖に取り組んでいて、道内でも少しずつ届け出が増えてきている。道内の事例の裏側を探る。

【江別のレストランで陸上養殖 きっかけは就労支援】

江別にある和食レストラン「こう福亭」。日本介護事業団が運営する「ココルクえべつ」の中にある。ここで出しているトラフグは、なんと全て陸上養殖。開始した2021年は500匹ほどだったが、現在は約1300匹にまで増えた。

きっかけは、就労の場の確保。管理者の今泉さんは「私たちは障害があり一般就労が困難な人を雇用する就労継続支援A型事業所を運営していて、その中の事業のひとつとして温泉を活用したトラフグ事業を営んでいる」と話す。今後はトラフグの卸売にも挑戦、少しずつ販路を広げていく方針。

【北見の温泉地でもフグ養殖 課題は販路拡大】

北見市の留辺蘂地区にある「滝の湯温泉」。ここでトラフグの陸上養殖を行うのが、北見に本社を置く介護福祉事業のエムリンクホールディングス。

宿泊事業からの撤退後、同じ地区内の水族館の魚がここの温泉水に浸かって傷を癒していると知り、トラフグ養殖への参入を決断。おととしから事業をスタートさせた。フグの養殖に適した水温は20度前後で、温泉の熱を活用すれば冬でも保つことができ暖房費の削減につながるという。

飼育にコストがかかることや、山間部のエリアでどう海水に近い環境を整えていくかが課題となる中、最も大きな悩みは、いかに販路を広げるかだ。そこで名乗りを上げてくれたのが北見の飲食店「ちさん亭」だ。

山本亭主は「今までは豊洲から引いたりしていたが、北見と温根湯は距離が近いからいい。生きているのをさばいて提供するのは客にとってもいいこと」と話す。ファンを増やすため、これからさらに販路を広げていきたいとしている。

【もうかる陸上養殖へ エア・ウォーターの狙いとは】

上川の東神楽町に誕生した「杜のサーモンプラント・東神楽」。産業ガス大手エアウォーターと子会社のエアウォーター北海道が建設し、ことし5月からニジマスの養殖を始めた。

施設は平屋建て、延べ1000平方メートル。大小8つの水槽で約3万匹のニジマスを飼育。2025年5月には1万2000匹ほどの出荷を計画しているという。

エア・ウォーターが目指すのは、自然環境に左右されない水産物の安定生産と、きちんと利益を出すことができる仕組みづくりだ。陸上養殖を担当する三上さんは現在、ウニの陸上養殖の研究も行っている。そこで活用するのが、ニジマスを出荷する際に使う海水。エア・ウォーターは、利益を生むニジマスの陸上養殖技術を確立し、ほかの企業へ提供していくことを目指している。

MCの杉村太蔵さんは「今後は陸上養殖だからこその付加価値をつけていくことが大事」だと話す。番組コメンテーターの北大大学院・平本健太教授は「陸上養殖をすることで寄生虫の問題を回避できる。安全で北海道の水を使っているなどの付加価値をつけて売っていけばさらに可能性がある」と期待を口にした。

(2023年10月28日放送 テレビ北海道「けいナビ~応援!どさんこ経済~」より)

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