船越英一郎主演 明治座150周年記念公演『赤ひげ』開幕

船越英一郎主演明治座150周年記念公演『赤ひげ』が開幕した。

山本周五郎の傑作小説「赤ひげ診療譚」の舞台化となる本作は江戸時代の小石川養生所を舞台に、武骨で謎めいた医師「赤ひげ」と青年医師、そして貧しい患者や市井の人たちとの魂の交流を描く。
患者に医術を施すだけでなく、患者の抱える事情にも踏み込み献身的に面倒を見る 新出去定(にいで・きょじょう)通称-「赤ひげ」-役は、名優・船越英一郎がつとめ、脇を固めるメインキャストには長崎遊学を終え、小石川養生所に医員見習いとしてやってくる保本登役に新木宏典、同じく小石川養生所で医員として働いている若き医員 津川玄三役に崎山つばさ、森半太夫役には猪野広樹と高橋健介がWキャストで出演。とある患者を献身的に看病する女中・お杉役には菅井友香、養生所で女中として働く お光役には過去テレビドラマなどで船越英一郎と多くの共演経験を持つ山村紅葉。
『赤ひげ』は1972年から73年にかけてNHKで放送されたが、近年では2017年、NHK再びテレビドラマ化、主演は船越英一郎、つまりテレビ版と舞台版の両方で「赤ひげ」を務めるが、実は今回が初舞台、初主演、初座長、もちろん明治座もお初、という”初もの”ずくしとなっている。

舞台上に江戸、下は小石川養生所の様子、セットの上は江戸の長屋、客席通路から1人の男が行李を背負って登場、彼の名前は保本登(新木宏典)、小石川養生所に医員見習いとしてやってきたのだった。セットがダイナミックに回転し、庶民の生活や小石川養生所の様子を見せるが、ここで視覚的に把握できる。庶民の生活は楽ではないこと、小石川養生所は患者さんが集まりいつも大忙し、怪我人、病人次々と運ばれてくる。黙々と薬を調合する後ろ姿、この時代は日本漢方が主流、薬研、 別名”くすりおろし”ともいう製薬用具。

小石川養生所に到着した保本登は津川玄三(崎山つばさ)に案内される。保本は長崎にて3年半勉強してきた身、津川は「羨ましい」と言う。出島オランダ商館は1641に誕生し、歴代合わせて63名の医師が駐在。長崎奉行の許可を得て、限定的ながら日本人患者の診断を行ったり、日本人医師との医学的交流を行ったりしていたそう。よって長崎で医学の勉強をしていた、と言うことは日本で最も進んだ医学を学んだ、ということで津川が羨ましがるのも無理からぬこと。対する保本は最先端の医学を学んできた自負、プライドがある、赤ひげこと新出去定(船越英一郎)に出会うも「こんなところ」と言う。そんな折、急患、いきなり手伝わされるハメに。だが、保本はなんと!血が苦手、その場で卒倒する。

小石川養生所には赤ひげを筆頭に津川、森半太夫(猪野広樹/高橋健介)らがいた。そして彼らを手伝う女中たち、お光(山村紅葉)を筆頭にわちゃわちゃとお喋り。ハードな小石川養生所において、楽しく、笑える場を提供する女中たち、客席からもちょっと笑いが。親身になって患者と接する赤ひげ、役人から経費削減をきつく言われるも、それに対して反抗する赤ひげ。少々、変わり者だが、そんな赤ひげを皆は尊敬し、リスペクト。そんなおり、津川は藩のお抱え医師となり養生所を去る(だが、出戻る)。

彼らと共に働き、養生所の一角にある小屋に閉じ込められている娘・おゆみの世話をするお杉(菅井友香)と接し、自分が未熟であることを痛感する保本。常に患者の立場に立ち、たとえその努力が無駄になろうとも決して治療を諦めない赤ひげの姿に感銘を受け、何かが変わっていく保本。そして赤ひげとともに養生所で働く面々。そして庶民の暮らし、盗みを働いて家計を支える子供・長次、逞しいが、そうならなければ生活できない。赤ひげから患者を任されたり、患者の死にたちあったりする保本、長屋付近で火災が発生し、怪我人や火傷を負った人々が運び込まれたり。そんな江戸時代の”日常”。もちろん現代は医学が発達しているので、彼らが救いたいと思っても救えなかった命は今は救えるが、根本は変わらない、医師として人を救いたいと思う気持ちは江戸時代も現代も変わらない。だが、庶民は貧しく、しかも無知、今のような教育システムもなく、身分制度に縛られている。

赤ひげが大名の邸宅に診療にいくシーン、ここは基本”笑える”ところでコミカルに描かれているが、いつもお腹を空かしている庶民に対して大名は…太り過ぎで、それを赤ひげに指摘されるも食べることが我慢できないと駄々をこねる。笑いつつも、その庶民との落差、考えさせられるシーンでもある。また、2幕では遊郭のシーンが出てくるが、具合が悪いにもかかわらず働かされる若い遊女、当時、遊女の平均寿命は22歳だったそう。小石川養生所の役割は大きいことがわかる。エンタメなので、ちょっとほっとするシーンやアクション(赤ひげがめっもう強く、保本がめちゃ弱い)も交えての2幕もの。テーマ曲、坂本冬美の歌唱が響き渡る、また同じメロディをライトモチーフのように使い、そこが効果的。幕が降り、大きな拍手、スタンディング・オベーション。公演は11月12日まで明治座、その後は新歌舞伎座で12月14日から16日まで。

初日終了後、簡単な会見が行われた。登壇したのは、船越英一郎、新木宏典、崎山つばさ、猪野広樹、高橋健介、菅井友香、山村紅葉。
船越英一郎は「今日、初舞台です。大きな拍手、温かい拍手、スタンディング・オベーションもいただいて感激しました」と言い、稽古は1ヶ月半だったそうで「一ヶ月半、大変な稽古場だったと思う人」と共演者に…全員挙手(笑)。新木宏典は「一ヶ月半の稽古、感謝しています」と。また崎山つばさは「船越さんと紅葉さんがいてサスペンス的な事件が起きると思ったが、何事もなく!無事初日を迎えることができました」と笑いをとり、「船越さんから美味しいものが」と差し入れが豪華だったことをちらっと。森半太夫役はWキャストで初日は猪野広樹。「お客様の顔を見て『よかったな』と。『一生忘れられない日になりました』と船越さんがおっしゃてましたが…幸せです」とコメント。公演を見ていた高橋健介は「船越さんの顔が忘れられない…さらにいいものを」と語り、菅井友香は「初めてづくしです。先輩方と共に精一杯!」と意気込んだ。山村紅葉は「大きな拍手をいただいて…スタンディング・オベーションも。船越さん、美味しい食べ物を(笑)。作品のテーマは『生きる』、役は明るい、笑ってもらえる役、大きな拍手、すごく嬉しいです」と笑顔で。
船越英一郎は「今の時代を写す、一つの思いを共有できたエンディング、何か持って帰っていただけるように」と言い、「大変だったことは?」の問いかけに「セット、いろんな転換で、稽古場では出来ないので、そこは想像しながら」とコメント。崎山つばさも「間違えると怪我をする、場当たりが大変で、暗転中にハケるのが大変」と語った。船越英一郎も「怪我につながるので、スタッフと息を合わせて」と発言。
また、船越英一郎の差し入れについては話題が尽きない様子。高橋健介が差し入れについて「パンから始まって、カフェが来ちゃったり、お弁当や見たことのないお汁粉(笑)、何から何までありました」と船越英一郎のグルメぶりを語る。
また、船越英一郎から見た共演者、「非常に誠実、ナイスガイ」(新木宏典)、「一番頼もしい、兄貴」(崎山つばさ)、「ナイーブ、秘めた情熱」(猪野広樹)、「甘えきって(笑)、言いたい放題、やりたい放題、(稽古始まって)1週間で印象変わった、それまではおとなしかった、天真爛漫」「可愛らしさと知性が同居、強さ、芯を貫いて弱音を吐かない、強い女性、可愛いくせに(笑)」(菅井友香)、「参加してくれて…頼もしさ、心強さ、存在感」(山村紅葉)。
最後に船越英一郎公演PR、「時代劇ではなく、現代のお話だと思っています。取り組んでおります。1人でも多くの方に観ていただいて!コロナ3年間…アフターコロナをどう生きていくのかというヒントがすごく埋まっています。それを見つけにぜひ劇場に足を運んでいただければ。頑張りましょう!!」と締めて会見は終了した。

<製作発表会レポ記事>

あらすじ
江戸・小石川養生所の医長・新出去定(にいで・きょじょう)-通称「赤ひげ」-(船越英一郎)は、名医ではあるが武骨で変わり者である。貧しい者たちを救うため身を粉にして働き、時には経費削減を命じる公儀に逆らうことも厭わない。 新しく医員見習としてやってきた保本登(やすもと・のぼる)は、養生所に足を踏み入れた瞬間にこう思った。自分はこんなゴミ溜のような所にいるべき 人間じゃない・・・長崎遊学を終え幕府の御目見医になるはずだった保本は赤ひげに反発する。 しかし同僚の津川玄三(つがわ・げんぞう)や森半太夫(もり・はんだゆう)、養生所を訪れる様々な患者たちと関わって行く中で、少しずつ保本の 態度に変化が生まれて行く。医術とは何か?その問いに対する答えはあるのか?赤ひげと若い医者達の、戦いの日々は続く。

公演概要
日程・会場:
東京:2023年10月28日〜11月12日 明治座
大阪:2023年12月14日~12月16日 新歌舞伎座
明治座創業 150 周年記念 『赤ひげ』
原作:山本周五郎『赤ひげ診療譚』より
脚本:堤泰之
演出:石丸さち子
出演:船越英一郎 新木宏典 崎山つばさ 猪野広樹(W キャスト)高橋健介(W キャスト)/菅井友香/山村紅葉

問合:
東京: 03-3666-6666 (10:00~17:00)
大阪:06-7730-2222(10:00~16:00)
公式サイト
東京:https://www.meijiza.co.jp/info/2023/2023_10/

大阪:https://shinkabukiza.co.jp

舞台写真提供:明治座(撮影:引地信彦)

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